【備考】
●PL顆粒など かぜに用いる薬に危険度の高い薬はありません。妊娠中にどうしてもかぜ薬が必要な場合は、必要最小限の範囲で用いることができます。また、妊娠に気づかず偶発的に服用していたとしても、後から思い悩むこともないでしょう。ただし、かぜ薬には解熱・鎮痛薬や抗ヒスタミン薬が配合されているので安易な服用は好ましくありません。とくに妊娠初期と後期の長期連用は避けたほうが無難です。妊娠と分かったなら、市販のカゼ薬も含め医師の指示のもとで服用するようにしましょう。
●妊娠中にインフルエンザにかかった場合、普段よりも重症化し合併症を起こす危険性があります。また母体のインフルエンザ感染と発熱によって胎児も先天性障害や早産のリスクにさらされることになります。このようなリスクを回避するためには、インフルエンザ治療薬(抗ウィルス薬)による薬物治療が有用です。
●オセルタミビル(タミフル)とザナミビル(リレンザ)は、抗インフルエンザウィルス薬の新薬です。動物実験で特段の催奇形性作用は認められていませんし、人での催奇形にかかわる報告も今のところないようです。はっきりしたことは分かっていませんが、危険性は低いと考えられています。そのため、治療上の有益性が高いと判断されれば、妊娠中においても使用可能です。
●アメリカ(CDC)では、新型インフルエンザA(H1N1)ウイルスに感染した妊婦に対し
発症から48時間以内に抗ウイルス薬による治療を開始することとし、また感染者と接触した妊婦に対しては10日間の予防的投薬を勧めています。(2009/05)
●A型インフルエンザウイルス感染症に適応するアマンタジン(シンメトレル)は、人での催奇形を疑わせる報告があり、妊娠中は禁忌となります。安全性の高い上記新薬が発売されたこともあり、適齢期の女性に安易に処方されることはないでしょう。
●喘息では、ごく軽いケースを除き、妊娠中でも薬による治療を続けることが多いものです。激しい発作は、血液中の酸素不足を招き、赤ちゃんの脳の働きを悪くしてしまうおそれがあるのです。このようなことがないよう、発作を予防する薬を続ける必要があります。喘息の薬の多くは、妊娠中でも安全に使えます。
●早産を避けるため、テルブタリン(ブリカニール)などβ2受容体刺激性気管支拡張薬を早産予防薬として使用することがあります。β2受容体刺激薬には、子宮筋の収縮抑制による分娩遅延という害作用があるのですが、これを逆手にとった応用処方です。ただし、海外において、母体の重篤な循環器系の副作用や死亡例が報告されているようです。心臓病の有無に注意するなど慎重に用いる必要があるでしょう。
【myメモ】
- ※PL配合顆粒
- *妊婦(12週以内あるいは妊娠後期)又は妊娠している可能性のある婦人には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること。〔サリチル酸製剤(アスピリン等)では動物試験(ラット)で催奇形作用が、また、ヒトで、妊娠後期にアスピリンを投与された患者及びその新生児に出血異常があらわれたとの報告がある。〕
*妊娠後期の婦人へのアセトアミノフェンの投与により胎児に動脈管収縮を起こすことがある。
*妊娠後期のラットにアセトアミノフェンを投与した試験で、弱い胎児の動脈管収縮が報告されている。
*授乳婦には長期連用を避けること。〔本剤中のカフェインは母乳中に容易に移行する。〕[添付文書
2012/10]
- ※Novel Influenza A (H1N1) Virus Infections
in Three Pregnant Women --- United States,
April--May 2009
- 〜Pregnant women with confirmed, probable,
or suspected novel influenza A (H1N1)
virus
infection should receive antiviral
treatment
for 5 days. Oseltamivir is the preferred
treatment for pregnant women, and
the drug
regimen should be initiated within
48 hours
of symptom onset, if possible. Pregnant
women
who are in close contact with a person
with
confirmed, probable, or suspected
novel influenza
A (H1N1) infection should receive
a 10-day
course of chemoprophylaxis with zanamivir
or oseltamivir. [CDC MMWR website 2009/5/15]
新型インフルエンザA(H1N1)ウイルスに感染した3人の妊婦についての報告..〜新型インフルエンザA(H1N1)ウイルス感染が確認
もしくは疑われる妊婦は、抗インフルエンザウィルス薬による治療を5日間
受けるべきである。オセルタミビル(タミフル)は妊婦にも好ましく、できるだけ発症から48時間以内に治療を開始する必要がある。また、新型インフルエンザ患者あるいは疑われる人と濃厚に接触した妊婦に対しては、発症予防のためにザナミビル(リレンザ)またはオセルタミビル(タミフル)による薬物治療を10日間おこなうようにする。
- ※Dextromethorphan(デキストロメトルファン)
- Retrospective data from the Collaborative
Perinatal Project showed no increased rate
of major or minor anomalies after exposure
to dextromethorphan during the first four
months of pregnancy in 300 women [*1]. Similarly,
in a study which included one hundred twenty-eight
women exposed to the drug during the first
trimester dextromethorphan use during pregnancy
did not appear to increase the rate of major
malformations above the expected baseline
rate[*2]
妊娠初期4ヶ月間にデキストロメトルファンを使用していた女性300人を、後ろ向きに調査したデータによると、奇形発生率の増加はみられなかった。同様に、妊娠初期に曝露した128人を調査したある研究においても、奇形の平均的発現率を上回ることはなかった。[Perinatology.com/Drugs
in Pregnancy and Lactation(*1.Heinonen OP,
Slone D, Shapiro S: Birth defects and drugs
in pregnancy. Littleton:Publishing Sciences
Group, 1977 )(*2.Einarson A, Lyszkiewicz
D, Koren G.The safety of dextromethorphan
in pregnancy : results of a controlled study.
Chest. 2001 Feb;119(2):466-9. MEDLINE)]
- ※リン酸コデイン
- *分娩前に投与した場合、出産後新生児に退薬症候(多動、神経過敏、不眠、振戦等)があらわれることがある。
*分娩時の投与により、新生児に呼吸抑制があらわれるとの報告がある。[添付文書]
- ※テオフィリン(テオドール)
- 動物実験(マウス、ラット、ウサギ)で催奇形作用等の生殖毒性が報告されている。また、ヒトで胎盤を通過して胎児に移行し、新生児に嘔吐、神経過敏等の症状があらわれることがある。[添付文書]
- ※クレンブテロール(スピロペント)
- 動物実験(ラット)で、妊娠後期に投与すると子宮筋の収縮を抑制して分娩遅延をおこすこと及び胎盤通過性を有することが報告されている。[添付文書]
- ※テルブタリン(ブリカニール)
- *妊婦、産婦、授乳婦等への投与/妊婦等:妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること。なお、妊娠3ヵ月以内にはやむを得ない場合を除き、本剤の投与を差し控えること。〔妊娠中の投与に関する安全性は確立していない。〕
*妊婦、産婦、授乳婦等への投与/授乳婦:授乳中の婦人への投与は避けることが望ましいが、やむを得ず投与する場合は、授乳を避けさせること。〔喘息をもつ授乳婦2例にテルブタリン硫酸塩2.5mgを1日3回経口投与したとき、投与後8時間までの母乳中テルブタリン濃度は平均3.5ng/mLであった。〕
*その他の注意:適応外であるが、海外において切迫早産の治療に使用した際に、母体において重篤な循環器系の副作用や死亡が認められたとの報告がある。[添付文書
2011/07]
- ※フルチカゾン
- 本薬は皮下投与による動物実験(ラット、ウサギ)で副腎皮質ステロイド剤に共通した奇形発生、胎児の発育抑制がみられ、これらの所見はウサギにおいて低い用量で出現することが報告されている。[添付文書]
- ※妊娠および授乳中の喘息および吸入ステロイド薬について
- 米国での女性の喘息罹患率は8〜9%で、喘息は妊婦にも発症しうる疾患の一つです。それに加えて42%の女性が産後に喘息の増悪を経験しているという報告もあることから、持続型喘息の女性は、妊娠中・授乳中も継続して治療を受ける必要があります。米国喘息教育・予防プログラム(National
Asthma Education and Prevention Program)では、妊娠中には喘息症状やその増悪に苦しむより、喘息治療薬を継続的に使用するほうが妊婦にとってリスクが低いことが示されています。吸入ステロイド薬(ICS)は、妊娠中の喘息増悪リスクを低下させることが示されており、成人および小児における持続型喘息の第一選択薬となっています。また、3ヶ所の出生登録所のデータを検討したスウェーデンの大規模な疫学調査では、妊娠中のブデソニド(Pulmicort)の使用には先天性奇形のリスクがないことが示されています。以上のことから吸入ステロイド薬ブデソニドは妊娠中・授乳中の女性の喘息治療薬に適した薬剤であると考えられます。[アストラゼネカHP
http://www.astrazeneca.co.jp/activity/press/2007/07_11_09.html
2007/11/09]
- ※Asthma and Pregnancy(喘息と妊娠)
- In conclusion, aggressive treatment of maternal
asthma during pregnancy is often appropriate.
The goal of this treatment is to avoid asthma
attacks throughout pregnancy. Since maintenance
of a mother's health is crucial for optimal
pregnancy outcome, good control of asthmatic
symptoms, and avoidance of asthmatic emergencies
is essential. Women with controlled asthma
can expect to have the same pregnancy outcomes
as non-asthmatic women. [Illinois Teratogen
Information Service/Asthma and Pregnancy
Vol. 9, Issue 2 February 2002(Greenberger
PA, Patterson R , 1988 The outcome of pregnancy
complicated by severe asthma. Allergy Proc
9:539-543.)]
結論として、妊娠中でも積極的に喘息の治療をおこなうことが大切。治療の最終目標は、妊娠全期間をとおして喘息発作を避けること。最良な妊娠には母親の健康の維持がきわめて重要、それには喘息症状のコントロールと緊急事態の回避が必須となる。喘息の治療をきちんとしていれば、ふつうの人と変わらない安全な妊娠が期待できる。
- ※気管支喘患と妊娠
- *薬物療法としては、まず安全性の確立されていない新薬の使用を控える。妊娠が期待される、または予想される時期から安全な薬剤に切りかえる。妊婦にほぼ安全に使用できる薬剤を以下にあげる。吸入ステロイドのプロピオン酸ベクロメサゾン、吸入β2刺激薬は安全といえる。経口ステロイド薬のプレドニゾロン、メチルプレドニゾロンは安全といえる。テオフイリン薬は血中濃度を測定し、通常よりやや低めの8〜12μg/mLを維持量とする。
*第3トリメスターではテオフイリンクリアランスは減少する。テオフイリンは速やかに胎盤を通過するので胎児に毒性を示す可能性がある。周産期にキサンチン薬を投与されている母体の新生児に、たとえ治療域であっても一過性の頻脈、神経過敏症、嘔吐が観察されている。同薬は妊娠時慢性高血圧を生ずることがある。
*吸入ベータ刺激薬は一般に妊娠中は安全であると考えられている。ベータ刺激薬の全身投与は出産を抑制したり遅延させたりするので、分娩近くには避けるべきである。
[新薬と治療No.424/伊藤幸治:特集 妊娠と疾患]
- ※経口 副腎皮質ホルモン(ステロイド)
- 内用の副腎皮質ホルモン(ステロイド)の詳細は、こちらのページ。
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