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妊娠とくすりTop3.薬危険度評価基準 / (1) 添付文書


(1) 添付文書

添付文書の記載内容は公的な評価基準であり、もっとも重視されるべきものです。「妊婦、産婦、授乳婦への投与」の項を中心に関連情報が記載され、妊娠中に使ってはいけない薬は冒頭の「禁忌」の項にその旨が併記されます。さらに、いくつかの危険度の高い薬は、「重要な基本的注意」、あるいは「警告」欄で注意喚起されることもあります。

「妊婦、産婦、授乳婦への投与」の項の記載例として、「〜投与しないこと」、「〜投与しないことが望ま しい」、「〜治療上の有益性が危険を上回ると判断される場合にのみ投与すること」といった表現がよく使われます。1つ目の「〜投与しないこと」は禁忌にあたりますので、基本的に妊娠中に使用されることはありません。3番目の「〜治療上の有益性が危険を上回ると判断される場合にのみ投与すること」は、妊娠中でもまあまあ安全なほうと考えられています。

ただし、薬そのものの危険度のほか治療上の有用性が考慮されている点に留意する必要があります。抗てんかん薬など危険度が低いとはいえない薬でも3番目の表現が使われることがあります*2。

安全性の高い水溶性ビタミン剤や乳酸菌製剤(整腸剤)などは、同項目の記載がありません。

「妊婦、産婦、授乳婦への投与」の項の措置文言 備考(私見*1)
禁忌 (1) 〜投与しないこと(禁忌の項に併記) 妊婦禁忌
(2) 〜投与しないことが望ま しい 準禁忌
(3) 〜治療上の有益性が危険を上回ると判断される場合にのみ投与すること 比較的安全(例外あり*2)
- (4) 同項目の記載なし ほぼ安全
*1 備考は私的見解です。正式なものではありません。
*2 抗てんかん薬など(Ex.バルプロ酸、カルバマゼピン)。

なお、これらの規制は、医師が妊娠もしくはその可能性を事前に認識していることを前提とした処方にさいしての判断基準です。妊娠に気づかず服用したケースなどの事後の対応を示すものではありません。そのほかにも留意すべき点がいくつかありますので以下に示します。

  • 禁忌とする根拠は、別表 B(理由)のようさまざまです。したがって、危険度も薬によりまちまちです。実際に人での催奇形性が明らかにされている薬はごく少数で、「安全性が確立されていない」というだけの理由によるものが多数あります。偶然や不注意で妊娠中に禁忌薬を服用してしまったからといって、必ずしも危険性が高いわけではないのです。事後の対応として、中絶を考慮するに値するような薬は一部の特殊な薬だけですし、そのような薬は事前に妊娠しないようにきびしくいわれるものです。

  • ふつう、数種の動物を使った生殖毒性試験で1種でも問題がみつかれば、妊娠中の使用は禁止ないし要注意扱いとなります。ただ、動物実験の結果が必ずしも人にあてはまるとは限りません。ネズミで催奇形性が認められたとしても、人で必ず起きるとは限りませんし、逆に、ネズミで問題がないからといって人での安全性を保障することもできません。ことに、人の使用量の100倍もの超大量投与時にだけ異常が認められた場合など、あまり過大評価しないことです。事前の処方における判断材料にはよいとしても、偶発的な使用による事後の対応を判断するうえでは必ずしも適当ではありません。

  • 禁忌の指定にあたっては、危険性とともにその薬の治療上の重要性も考慮されます。単に危険性だけが評価されているわけではありません。

    たとえば、てんかんの薬のカルバマゼピンは神経管欠損(とくに二分脊椎)を生じる催奇形性が強く疑われています。FDAやオーストラリア医薬品評価委員会の先天性異常部会では、テゴリー"D"のかなり危険度の高い薬と位置付けています。けれど、添付文書では禁忌となっていません。てんかん発作を予防するという治療上の有益性が高く、妊娠中でも継続服用が必要なケースがあるためです。

    一方で、催奇形性のない大腸刺激性の下剤に「原則禁忌」というしばりがあります。「安全性が確立されていないこと」、また「大量服用により流産を誘発するおそれがあること」がおもな理由ですが、治療上の重要度がそれほど高くなく、他に代用薬があることなども考慮されています。単に危険性だけを比べるのなら、禁忌でないカルバマゼピンのほうがはるかに危険性が高いといえます。

    ですから、禁忌でないからといって一概に安心とはいえませんし、逆に禁忌薬であっても必ずしも危険性が高いわけではありません。

  • 上記の例のよう、禁忌とするさいには、危険性のほかに治療上の重要度も勘案されます。このことは、禁忌薬が妊娠中に使われる正当性が低くなることを意味します。それでも、禁忌の薬が妊娠中に使われることがまったくないわけではありません。医師の判断と責任において使用されることはありえます。他の治療法や治療薬がなく、薬のもたらす危険性よりも治療上の有益性のほうがはるかに大きいと医師が判断した場合です。ひどい高血圧をともなう重い妊娠中毒症は、ときに命をも脅かします。妊娠中に使われる標準的な降圧薬が反応しない場合などに、妊婦禁忌薬の「カルシウム拮抗薬」が使われることがあります。

  • メーカー(製薬会社)により、禁忌への対応が必ずしも一致しません。その結果としてバラツキを生じる可能性があります。また、禁忌と決めるさい、純粋な医学的見地でない別の要素が配慮される可能性もあります。たとえば、販売戦略上の問題、PL法対策などです。前者は禁忌とすることにマスナスに作用するでしょうし、後者はプラスの要素です。

  • 最近はPL法の関係もあり、安全最優先の措置がとられるようになっています。これは、基本的に望ましいことです。けれど一方で、危険性だけが必要以上に印象付けられるおそれがあります。たとえば、ある薬の催奇形に関する疫学調査が5つあったとします。そのうちの4つが催奇形性に否定的、1つの研究だけが肯定的だったとすると、この1つを根拠にメーカーは妊婦禁忌とするかもしれません。実際には催奇形性の可能性が非常に低くても、添付文書上では、その肯定的な研究結果だけがクローズアップされてしまうわけです。事前の処方においてはこれを参考にすればよいのですが、妊娠に気づかず服用してしまったケースなど事後の対応を判断するうえでは、必ずしも適当ではありません。添付文書の禁忌情報だけを理由に、妊娠を中断するようなことがあってはいけません。


<付録>添付文書における妊産婦への投与に関する表現法

妊婦等に関する記載要領は、1997年におおよそ以下のように通知されています(厚生省薬務局長通知:薬発第607号)。
  1. 用法及び用量、効能又は効果、剤形等から妊婦、産婦、授乳婦等の患者に用いられる可能性があって、他の患者と比べて、特に注意する必要がある場合や、適正使用に関する情報がある場合には、必要な注意を記載すること。また投与してはならない場合には、禁忌の項にも記載する。
  2. 動物実験、臨床使用経験、疫学的調査等で得られている情報に基づき、必要な事項を記載する。
  3. 記載にあたっては、A(データ)に基づき、別表※のB(理由)、C(注意対象期間)、D(措置)を適宜組み合わせたものを基本とし、更に追加する情報がある場合にはその情報を記載する。

    ※別表
    A (データ)   B (理由)
    1 本剤によると思われるヒトの奇形の症例報告がある場合 催奇形成を疑う症例報告があるので
    2 奇形児を調査したところ、母親が妊娠中に本剤を投与された症例が対照群と比較して有意に多いとの報告がある場合 奇形児を出産した母親の中に本剤を妊娠中に投与された例が対照群と比較して有意に多いとの疫学的調査報告があるので
    3 妊娠中に本剤を投与された母親を調査したところ、奇形児出産例が対照群に比較して有意に多いとの報告がある場合 本剤を妊娠中に投与された患者の中に奇形児を出産した例が対照群と比較して有患に多いとの疫学的調査報告があるので
    4 妊娠中に本剤を投与された母親から生まれた新生児に奇形以外の異常が認められたとする報告がある場合 新生児に〜を起こすことがあるので
    5 母体には障害はないが胎児に影響を及ぼすとの報告がある場合 胎児に〜を起こすことがあるので
    6 妊婦への投与は非妊婦への投与と異なった危険性がある場合 〜を起こすことがあるので
    7 妊娠中に使用した経験がないかまたは不十分である場合 妊娠中の投与に関する安全性は確立していないので
    8 薬物がヒトの乳汁に移行し、乳児に対し有害作用を起こすとのデータがある場合 ヒト母乳中へ移行する(移行し〜を起す)ことがあるので
    9 動物実験で乳汁中に移行するとのデータがある場合 動物実験で乳汁中に移行することが報告されているので
    10 動物実験で催奇形成作用が認められている場合 動物実験で催奇形成作用が報告されてい るので
    11 動物実験で催奇形成以外の胎仔(新生仔)に対する有害作用が認められている場合 動物実験で胎仔毒性(胎仔吸収・・)が報告されているので
    C (注意対象期間)

    1. 妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には

    2. 妊婦(〜力月以内)又は妊娠している可能性のある婦人には

    3. 妊娠後半期には

    4. 妊娠末期には

    5. 授乳中の婦人には
    D (措置)

    1. 投与しないこと

    2. 投与しないことが望ま しい

    3. 治療上の有益性が危険を上回ると判断される場合にのみ投与すること

    4. 減量又は休薬すること

    5. 大量投与を避けること

    6. 長期投与を避けること

    7. 本剤投与中は授乳を避けさせること

    8. 授乳を中止させること

    
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