【備考】
●甲状腺機能亢進症(バセドウ病)においては、きちんと治療を続けながら妊娠出産することで安全性が高まります。治療をおこなわないと、病気自体の影響で流産や妊娠中毒を生じる可能性があります。抗甲状腺薬には催奇形性はないと考えられるようになっています。
●甲状腺機能低下症においても、薬として甲状腺ホルモン薬を補充することで安全性が高まります。チラーヂンなど甲状腺ホルモン薬には催奇形性はありません。
【myメモ】
- ※甲状腺機能亢進症
- 甲状腺機能亢進症は早流産、あるいは妊娠中毒症の原因となり得るが、催奇形性との因果関係はなさそうである。早流産を回避するために、MMI(チアマゾール)やPTU(プロピルチオウラシル)を十分投与し、できるだけ早く機能を正常化させる。MMIとPTUはともに胎盤を良好に通過し、両者の胎盤通過性に差はない。MMIは現在のところ催奇形性は認められないようであるが、頭皮の欠損との関連が示唆される報告もある。PTUも現在のところ催奇形性は認められないようである。バセドウ病を有する妊婦では、抗TSH受容体抗体が胎児へ移行し、胎児に甲状腺機能亢進症を発症する危険がある。胎児の甲状腺機能を正常範囲内にコントロールすることが重要である。ただし、抗甲状腺薬服用中には胎児の甲状腺機能のほうがやや低下する。しかし児の精神発達には問題ないようである。[百渓尚子:薬局,
50, 1999]
- ※甲状腺機能低下症
- 甲状腺機能低下症も流産の原因となり得るが、催奇形性率は変わらないようである。先天性甲状腺機能低下症に罹患している胎児では、母親の甲状腺ホルモンがわずかながら通過して、脳神経系の発育に寄与していると考えられている。この場合、母体の甲状腺ホルモンが不足しないように、管理していかなければならない。甲状腺機能低下症と判明したらできるだけ速くホルモン濃度を正常にするために、サイロキシンの投与を開始する。[百渓尚子:薬局,
50, 1999]
- ※抗甲状腺薬
- バセドウ病では甲状腺機能亢進症による流早産や奇形率の増加のため積極的に抗甲状腺薬による治療を行うが、妊娠後半期は胎盤性のステロイドホルモンのため症状が軽快することも多い。(今日の治療薬)
- ※抗甲状腺薬
- 多数の抗甲状腺薬を服用しているバセドウ病妊婦の統計的外表奇形発生率は約0.9%であり、これは正常妊婦者での外表奇形発生率と有意差はない。今日ではいずれの時期においても、チアマゾール30mg/日、プロピルチオウラシル300mg/日の投与量では催奇形性はないと考えてよいとの結論に達している。(小澤安則:臨床と薬物治療
17 1998)
- ※抗甲状腺薬
- PTU(プロピルチオウラシル)のほうがMMI(チアマゾール)より胎盤通過性が低いほか、乳汁中のへの移行も少なく、PTU
300mgを服用しても乳汁中へ10μgにすぎず分娩後も授乳をやめる必要はない。(今日の治療薬)
- ※抗甲状腺薬
- PTU(プロピルチオウラシル)の1日1回投与のデータで胎盤通過性がMMI(チアマゾール)よりも低かったため、妊婦にはPTUで治療するとされていたが、現在は連続投与ではMMIもPTUも差はないとされている。(小澤安則:臨床と薬物治療
17 1998)
- ※チアマゾール(メルカゾール)
- *妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること。[本剤はヒト胎盤を通過することが報告されている。]
*妊婦又は妊娠している可能性のある婦人に投与する場合には、定期的に甲状腺機能検査を実施し、甲状腺機能を適切に維持するよう投与量を調節すること。
*妊娠中の投与により、胎児に甲状腺機能抑制、甲状腺腫を起こすことがある。
*妊娠中の投与により、新生児に新生児に頭皮欠損症・頭蓋骨欠損症、さい帯ヘルニア、さい腸管の完全または部分的な遺残(さい腸管ろう、メッケル憩室等)、気管食道ろうを伴う食道閉鎖症、後鼻孔閉鎖症等があらわれたとの報告がある。
*新生児に出生後しばらくは、甲状腺機能抑制、甲状腺機能亢進があらわれることがあるので、観察を十分に行うこと。
*本剤投与中は授乳を避けさせることが望ましい。[ヒト母乳中へ移行(血清とほぼ同等レベル)し、乳児の甲状腺機能に影響を与えることがある。][添付文書]
- ※プロピルチオウラシル(プロパジール)
- *妊娠中の投与に関する安全性は確立していないが、胎児に甲状腺腫、甲状腺機能抑制を起こすとの報告がある。
*妊婦又は妊娠している可能性のある婦人に投与する場合には、定期的に甲状腺機能検査を実施し、甲状腺機能を適切に維持するよう投与量を調節すること。
*新生児に出生後しばらくは、甲状腺機能抑制、甲状腺機能亢進があらわれることがあるので、観察を十分に行うこと。[添付文書]
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