【備考】
●残念ながら、多くの抗てんかん薬には催奇形性があると考えられています。けれど、大発作は、母親にもおなかの赤ちゃんにも大きな負担となるので、抗てんかん薬による治療を優先しなければなりません。ある程度のリスクは否定できませんが、必ずしも危険性が高いというわけではありません。事前に医師と十分に打ち合わせをし、計画的に妊娠することで、安全性が高まります。
●通常の妊娠でも奇形の発生頻度は2〜3%と考えられています。抗てんかん薬で治療していた場合、その頻度が2〜3倍になると指摘されています(米国小児科学アカデミー薬物委員会)。言いかえれば、10人中9人以上が、障害のない健康な赤ちゃんを出産できるわけです。
●使用している薬の種類が多いほど奇形発生率が高くなるという報告があります。長期間発作がなければ、薬の種類を減らしたり、服用量を徐々に減量していくことも可能です。すべての薬を中止するのは困難なことが多いですが、場合によってはすべてを中止できるかもしれません。ただし、減量や中止は医師の管理のもと長い時間をかけて慎重におこなわなければなりません。自分だけの判断で突然やめてしまうのは非常に危険です。
●安全な出産には、計画的な妊娠がすすめられています。医師による専門的な管理も不可欠です。妊娠に先立ち、抗てんかん薬の種類や服用量の見直し、ビタミンの一種の「葉酸」の補充、また、妊娠後期には「ビタミンK」の投与が必要なことがあります。いずれにしても、事前に医師と十分に打ち合わせをしておくことが大切です。催奇形性の危険性についても理解しておきましょう。
【myメモ】
- ※米国小児科学アカデミー薬物委員会による勧告(1979)
- @ いかなる婦人も不必要な抗痙攣剤の投与を受けるべきでない。
A 多年にわたり発作がなかった婦人では、可能であれば妊娠前にその投薬が中止されるべきである。
B てんかんがあり、投薬が必要な婦人から、妊娠について尋ねられた場合、正常児を得る可能性は90%であるが、彼女の疾患自身またはその治療のために、先天性奇形およぞ知能発達の遅延が生ずるおそれが、通常の平均よりも2〜3倍高いことが忠告されるべきである。
C 妊娠第1三半期以降に助言を求める婦人には、慣例的に中絶を考慮するように促すよりも、前述の数字によって元気づけるべきである。こういった婦人には妊娠期間を通じて薬物療法を継続すべきである。なぜなら、起こるとすれば主な解剖学的奇形は既に生じており、胎児ヒダントイン症候群に関連した奇形が子供の幸福に重要な影響を及ぼすことはまれだからである。
D フェニトインまたはフェノバルビタールから、妊娠中の使用に関する情報が少ない他の抗痙攣剤に変更するよう勧める理由は現時点ではない。
E 投薬によりてんかんがコントロールされている場合には、投薬の中止は発作を惹き起こすことがあり、発作の遷延は彼女自身とその胎児に重篤な続発症を起こす。
[佐藤孝道ら:実践 妊娠と薬'92]
- ※オーストラリア医薬品評価委員会 先天性異常部会
抗てんかん薬にかかわる註釈
- 抗てんかん薬の結果異常児を生む危険性よりも、てんかんをコントロールせずに放置した結果、母体および胎児におよぶ危険性の方がはるかに大きい。以下のようなことが推奨される。
@ 抗てんかん薬を使用している女性は胎児異常のリスクに関して妊娠カウンセリングを受けること。
A 抗てんかん薬は妊娠中も継続すべきであり、単剤投与で、できれば最小有効量にとどめるべきである。複合治療をしている女性のほうが異常のリスクが高いからである。
B 葉酸補充療法(5mg)は受胎の4週前から開始し、受胎後12週間までは継続すべきである。
C 第2三半期の詳細な超音波診断を含めて、専門医による出生前診断を実施すべきである。
[妊娠中の投薬とそのリスク(オーストラリア医薬品評価委員会
Medicines in Pregnancy)]
- ※妊娠中の薬物使用/抗けいれん薬
- ・・前略・・てんかんの女性は、たとえ彼女たちが妊娠中に抗けいれん薬をとらないとしても、てんかんがない女性より出生時欠損を伴う児を持つ可能性がより高い。そのリスクは、頻繁に重度のけいれんあるいは妊娠の合併症を持つ人たちで、そして不適切な健康管理を受ける傾向のある社会経済レベルが低い集団の人たちで、さらに高くなる。[メルクマニュアル家庭版]
- ※フェノバルビタール
- *本邦で行われた、抗てんかん剤の催奇形性に関する共同研究では、薬剤服用の有無にかかわらず、902例中65例(7.2%)に先天奇形が発生した。認められた奇形では、口唇裂、口蓋裂が15例、先天性心血管奇形が14例と著しく多かった。抗てんかん剤服用妊婦では8.68%に奇形がみられ、非服用てんかん妊婦の1.85%より高率であった。催奇形性が強く疑われるトリメタジオンの服用例を除くと服用群の奇形発生率は6.75%であった。本剤(フェノバルビタール)による単剤治療を受けていた19例中1例(5.3%)に奇形が発生した。本剤の投与量増加に伴い奇形発現率が上昇する傾向がみられ、1日150mgを越えないことが望ましいと示唆している[佐藤孝道ら:実践
妊娠と薬'92(中根允文:抗てんかん薬の催奇形性について、神経進歩、1979)]。
*フィンランドにおける先天奇形の登録制度と50,282組の母子に関する共同研究の結果に基づいた1976年のShapiroらの調査では、てんかん以外の妊婦に本剤が投与された場合には、奇形の発現率は増加しなかったと報告している[佐藤孝道ら:実践
妊娠と薬'92(Shpiros et al.:Anticonvulsants
and Parental Epilepsy in the Development
of Birth Defects, Lancet 1, 272,
1976)]。
- ※フェノバルビタール
- *妊娠中に本剤を単独、又は併用投与された患者の中に、奇形を有する児(口唇裂、口蓋裂等)を出産した例が非投与患者に比べて多いとの疫学的調査報告がある。
*妊娠中の投与により、新生児に出血傾向、呼吸抑制等を起こすことがある。
*分娩前に連用した場合、出産後新生児に禁断症状(多動、振戦、反射亢進、過緊張等)があらわれることがある。
*妊娠中の投与により、葉酸低下が生じるとの報告がある。[添付文書]
- ※フェニトイン
- てんかん治療中の妊婦の本剤使用と催奇形の関連性を示唆した症例報告および疫学調査が複数報告されている。これらの報告によると、本剤を単独または他の抗てんかん剤との併用により服用中の妊婦の児に先天奇形の生じる危険は通常の妊婦と比較して2〜3倍に増えるとされている。[佐藤孝道ら:実践
妊娠と薬'92]
- ※フェニトイン
- *妊婦または妊娠している可能性のある婦人には、治療上の有益性(母体のてんかん発作頻発を防ぎ、胎児を低酸素状態から守る)が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること。〔妊娠中に本剤を投与された患者の中に、奇形を有する児(口唇裂、口蓋裂、心奇形等)を出産した例が多いとの疫学的調査報告がある。〕
*妊娠中にやむを得ず本剤を投与する場合には、可能な限り単独投与することが望ましい。〔妊娠中に他の抗てんかん剤(特にプリミドン)と併用して投与された患者群に、奇形を有する児を出産した例が本剤単独投与群と比較して多いとの疫学的調査報告がある。〕
*妊娠中の投与により、児に腫瘍(神経芽細胞腫等)がみられたとの報告がある。
*妊娠中の投与により、新生児に出血傾向があらわれることがある。
*妊娠中の投与により、葉酸低下が生じるとの報告がある。[添付文書]
- ※バルプロ酸ナトリウム
- てんかん治療中の妊婦の、本剤服用と催奇形の関連性を示唆した症例報告および疫学調査が複数報告されている。本剤による特徴的な催奇形として、神経管欠損が報告されている。受精後17〜30日目の間に本剤を服用したことにより、神経管欠損の起こる頻度は1〜2%と報告されている。また、二分脊椎の危険度は約20倍で、家族性に発生する二分脊椎と同等といわれている。[佐藤孝道ら:実践
妊娠と薬'92]
★神経管欠損:脳を含めた神経系統の奇形の総称。ビタミンの一種の葉酸欠乏との関連性が指摘されている。 ★二分脊椎:神経管欠損の一つでもっとも多い。背中を通っている脊髄の入れ物の脊椎が閉じていない状態。
- ※カルバマゼピン(テグレトール)
- *妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること。〔妊娠中に本剤が投与された患者の中に、奇形(二分脊椎を含む)を有する児や発育障害の児を出産した例が多いとの疫学的調査報告がある。〕
*やむを得ず本剤を妊娠中に投与する場合には、可能な限り他の抗てんかん剤との併用は避けることが望ましい。〔本剤の単独投与に比べ、本剤と他の抗てんかん剤(特にバルプロ酸ナトリウム)の併用では口蓋裂、口唇裂、心室中隔欠損等の奇形を有する児の出産例が多いとの疫学的調査報告がある。なお、尿道下裂の報告もある。〕
*分娩前に本剤又は他の抗てんかん剤と併用し連用した場合、出産後新生児に禁断症状(痙攣、呼吸障害、嘔吐、下痢、摂食障害等)があらわれるとの報告がある。
*妊娠中の投与により、新生児に出血傾向があらわれることがある。
*妊娠中の投与により、葉酸低下が生じるとの報告がある。[添付文書(テグレトール)]
- ※Carbamazepine(カルバマゼピン)
- The risk of neural tube defect is 1 to 2
% when used as monotherapy during first trimester.
and . Syndrome similar to hydantoin syndrome
is also seen.[Perinatology.com/Drugs in
Pregnancy and Lactation]
妊娠初期の単独治療で、神経管欠損を生じる危険性が1〜2%。また、ヒダントイン症候群のような症状もみられる。
- ※Clonazepam(クロナゼパム)
- *Clonazepam has not been shown to increase
malformations in rats or rabbits.
ネズミおよびウサギでは催奇形性を示さない。
*A single retrospective study of 19 women
exposed in the first trimester showed 3 malformations
(including 2 heart defects); because of the
small study size, the implications of this
finding are unclear (Briggs, 1998).
妊娠初期に曝露した19人の女性の後ろ向き研究で、3例の奇形(2例の心臓奇形を含む)がみられた。ただ、あまりに人数の少ない研究なので、はっきりしたことはわからない。
*Prospective studies of 60 and 69 women each
found a slight increase in malformations,
but given the small number of women in each
study, it remains difficult to determine
causality from these studies (Johnson et
al., 1995; Ornoy, 1998).
60人および69人の女性による前向き研究では、どちらも奇形の割合がわずかに多かった。ただ、人数の少ない研究なので、因果関係ははっきりしない。
*One complicating factor is that clonazepam
is also used to treat seizure disorder and
therefore, an increase in malformations may
be due to epilepsy rather than medication
use.
・・奇形の増加は、薬より、むしろてんかんによるものかもしれない。
*A case control study of anti-epileptic medications,
including clonazepam, did not show an association
with malformed infants and clonazepam use
during pregnancy (Czeizel, 1992).
クロナゼパムを含めたてんかん薬物療法のケースコントロール研究で、奇形を持つ子とクロナゼパムとの関連性は見つからなかった。
*Clonazepam has a relatively long half-life
(20-40 hours) compared to other BZDs (McElhatton,
1994), and withdrawal symptoms have been
observed after exposure late in pregnancy
(Fisher et al., 1985). クロナゼパムは、多のベンゾジアゼピン系に比べ半減期が長い。妊娠末期の曝露により、新生児に退薬症状を起こすことがある。
- ※ゾニサミド(エクセグラン)
- 妊娠中に本剤を投与された患者が奇形(心室中隔欠損、心房中隔欠損等)
を有する児を出産したとの報告があり、動物実験(マウス、ラット、イヌ、サル)で流産、催奇形作用(口蓋裂、心室中隔欠損等)が報告されている。また、妊娠中に本剤を投与された患者の児に呼吸障害があらわれたとの報告がある。[添付文書]
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