がんの痛みの薬

▼非オピオイド鎮痛薬
アセトアミノフェンカロナールロキソニンボルタレンブルフェン、その他

一般的な鎮痛薬(NSAIDs等)です。痛みが軽い場合は、まず第一段階として、これらを用います。骨の痛みや、機械的圧迫による痛みに比較的よく効きます。ただ、増量しても効果には限界がありますので、効果不十分な場合は次のオピオイド鎮痛薬に変更または追加する必要があります。

▼弱オピオイド鎮痛薬
トラマールワントラムコデイン

オピオイドは、痛みを抑制方向に調節する神経系のオピオイド受容体と結合する薬の総称です。普段用いる非オピオイド鎮痛薬とは作用機序が違います。このうち、トラマールとワントラムはトラマドールを有効成分とする非麻薬系の弱オピオイドで、国内外で広く用いられるようになりました。トラマールは1日4回服用の即放性製剤、ワントラムは1日1回服用の徐放性製剤です。がん性疼痛では、徐放性製剤と即放性製剤を目的に応じて使い分けることで、より良好な疼痛管理が可能です。すなわち、定時に徐放性製剤のワントラムを服用し、細かな用量調節や突出痛には即放性製剤のトラマールを用いるわけです。一方、コデインは昔ながらの麻薬性オピオイドです。日本では咳止め薬として処方されることが多く、がん痛にはあまり用いられていません。どちらも作用がおだやかで、便秘などの副作用も比較的少ないです。モルヒネ経口剤に対する効力比は、トラマドールが約1/5、コデインがおおよそ1/10とされます。弱オピオイドは、WHO方式がん疼痛治療法の第2段階に位置づけられ、軽度~中等度の痛みに適します。

▼強オピオイド鎮痛薬
モルヒネMSコンチンカディアンオプソオキシコンチンオキノームナルラピドナルサスソセゴンアンペック(坐薬)、レペタン(坐薬)、デュロテップ(貼り薬)、ワンデュロ(貼り薬)、フェントス(貼り薬)、アブストラル(舌下)、イーフェン(バッカル)、タペンタメサペイン

モルヒネに代表される強オピオイド鎮痛薬になります。鎮痛作用が一段と強力で、とくに持続する鈍痛に効果が高く、第3段階として中等度~高度ながん痛に広く処方されています。モルヒネやオキシコンチン、フェンタニルなどは有効限界がないのも特徴で、痛みの強さに応じて増量することも可能です。これに対し、ソセゴンとレペタンは有効限界がみられ一定以上の作用増強は見込めません。いずれも、安易に増量するのでなく、痛みが十分に取れる必要最少量とすることが大事です。

最近は、さまざまな製剤が開発され痛みのコントロールが楽になりました。飲み薬のほか、坐薬、貼り薬、舌下錠やバッカル錠なども販売されています。持続性モルヒネ製剤のMSコンチンは1日2回、カディアンは1日1回の服用で済みます。効き目の早い即放性モルヒネ製剤のオプソ内服液は、レスキュー薬として一時的に増強する突出痛の除痛に便利です。また、アンペックには坐薬と注射があり、吐き気や嘔吐で内服が困難なときに役立ちます。

モルヒネ以外の飲み薬としては、オキシコドンを有効成分とするオキシコンチンの処方が多いです。即放性のオキノームはレスキュー薬としても使用されます。ナルラピドとナルサスはヒドロモルフォンを有効成分とし、前者は即放錠、後者は徐放錠になります。貼り薬のデュロテップとワンデュロ、フェントスは鎮痛効果が高いフェンタニルを含有する経皮吸収型製剤です。持続性があるのでデュロテップは3日毎、その他は1日1回の貼り替えになります。さらに、フェンタニルを有効成分とする口腔粘膜吸収製剤のアブストラル舌下錠とイーフェンバッカル錠も開発されました。こちらは速効性で、レスキュー薬として有用です。オキシコドン、フェンタニルとも腎障害時においても比較的安全に使用できます。

新薬のタペンタ錠は、オピオイド受容体作動作用にくわえ、ノルアドレナリン再取り込み阻害作用を併せ持つのが特徴で、両方の作用により広範な鎮痛効果を発揮します。最後のメサペインは、性質が少し違う強オピオイドです。他との交差耐性が不完全とされ、モルヒネやフェンタニルで鎮痛コントロールが不十分な場合でも高い有効性が期待できるのです。ただし難点として、有効量に個人差があり用量調節が難しいこと、不整脈や呼吸抑制をはじめとする重い副作用の懸念、薬物相互作用を起こしやすい点などがあげられます。このため、初めから使うのではなく、他の強オピオイド薬で十分な効果が得られない場合に限り用いることになります。

強オピオイドの副作用として頻発するのが、便秘と吐き気、それと眠気です。便秘はたいていの人に発現し長く続くので、その予防に便秘薬(次項)を併用するのが一般的です。吐き気に対しては吐き気止めの薬を処方しますが、吐き気と眠けは続けているうちに慣れて軽くなるものです。痛みは消失するものの、昼間からうとうとしたり、異常に強い眠気に悩まされる場合は早めに医師に相談してください。減量の余地があるかもしれません。

▼その他
リリカタリージェ★newトリプタノールノリトレンテグレトールデパケンアレビアチンリボトリールメキシチールプレドニンリンデロン、ビスホスフォネート製剤(注射)

鎮痛補助薬として、これらを応用することがあります。とくに神経の損傷や障害によって生じるズキズキする痛み、しびれるような痛み、ピリッとする痛み、灼熱感といった痛みに効果的です。リリカとタリージェは、神経障害性疼痛を適応症とする新薬です。次のトリプタノールとノリトレンは本来は抗うつ薬、テグレトール、デパケン、アレビアチンおよびリボトリールは抗てんかん薬、メキシチールは抗不整脈薬として用いられるものです。プレドニンとリンデロンは代表的なステロイド薬で、神経圧迫による痛みに効果的です。ビスホスフォネート製剤(注射)は骨転移による痛みを軽減します。


<メモ>
●がん疼痛治療のお手本にWHO方式があります。痛みの強さを3段階に分け、段階的に鎮痛薬を選択する方法です。軽い痛みには、まず第1段として一般的な非オピオイド鎮痛薬(NSAIDs、アセトアミノフェン)を定時使用します。それで効果不十分な中くらいの痛みには、第2段階として弱オピオイド(トラマール、ワントラム、コデイン)を追加します。さらに第3段階では、第1段階の薬剤に麻薬系の強オピオイド鎮痛薬(モルヒネ、オキシコドン、ヒドロモルフォン、フェンタニル、タペンタ)を追加し定時使用します。定時薬使用中の突出痛には、即放性製剤の臨時追加投与「レスキュー・ドーズ」で対処します。

●別のオピオイドに変更することを「オピオイドローテーション」といいます。効果の減弱がみられるとき、副作用で増量が困難なときなどに試みられます。通常、モルヒネ(MSコンチン等)を第一選択薬とし、オキシコドン(オキシコンチン等)、ヒドロモルフォン(ナルラピド、ナルサス)、フェンタニル(デュロテップ等)、あるいはタペンタドール(タペンタ)のなかでローテーションします。メサペインは他のオピオイドと同列ではなく、難治ながん痛に対する最後の切り札です。より適切な投与経路、すなわち内用剤、外用剤、注射剤の切り替えもあわせて検討されます。いずれの場合も、薬効切れまたは過量にならないように、効力比や血中濃度を勘案のうえ投与量・投与時間を慎重に決定する必要があります。

●オピオイドには「オピウムに似ている」という意味があります。語源のオピウムはケシの実から採取されるいわゆるアヘンをさし、そのアヘンから精製されるのが医療用麻薬のモルヒネです。オピオイドはアヘン様あるいはモルヒネ様の物質の総称で、鎮痛にかかわるオピオイド受容体に結合し活性化させる性質があります。アヘンに由来するモルヒネやコデイン、人工的に合成されるトラマドールやフェンタニル、ブプレノルフィン(レペタン)、さらには生体内でつくられるエンドルフィンもオピオイドのうちです。有効限界がなく依存性が強いモルヒネやフェンタニルは医療用麻薬として規制され、有効限界があり依存性が弱いトラマドールやブプレノルフィンは規制外となります。オピオイドの臨床上意義ある主作用は、がん痛などに対する鎮痛です。

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