【備考】
●抗リン脂質抗体陽性の習慣流産(不育症)に低用量アスピリン療法が試みられることがあります。ごく少量であれば、胎児に影響することなく、比較的安全に使用できるとされます。虎の門病院でも、少量のアスピリンについては、危険度の低い"1"と評価しています。
●ヘパリンは胎盤を通過しないので、おなかの赤ちゃんへの影響がありません。アスピリン同様、習慣流産(不育症)の治療に用いられています。
●妊娠中毒症で蛋白尿がひどいときには、ジピリダモール(ペルサンチン)が用いられます。古くからの実績のある薬で、妊娠中でも比較的安全に使用できます。
●ワルファリンには強い催奇形性と胎児毒性があるので、妊娠中はまず使用されません。
【myメモ】
- ※高脂血症治療薬
- 妊娠に伴う生理的な高脂血症は治療を必要としない。[妊娠中の投薬とそのリスク(オーストラリア医薬品評価委員会
Medicines in Pregnancy)]
- ※スタチン
- コレステロールおよびその他のコレステロール合成系路の産物は、ステロイドや細胞膜の生成など胎児の発達に必須の成分である、HMG-CoA還元酵素阻止剤はコレステロールの合成を抑えるとともに、おそらくはコレステロール合成経路の他の産物の生成も抑える働きがあるので、これらの薬を妊婦に投与すると胎児に障害をおよぼす可能性がある。[妊娠中の投薬とそのリスク(オーストラリア医薬品評価委員会
Medicines in Pregnancy)]
- ※Simvastatin(シンバスタチン)
- Inadvertent exposure in 134 pregnancies to
lovastatin or simvastatin resulted in no
increased risk of anomaly.[Perinatology.com/Drugs
in Pregnancy and Lactation(Manson JM,et
al.Postmarketing surveillance of lovastatin
and simvastatin exposure during pregnancy.Reprod
Toxicol; 10,439,1996 MEDLINE)]
偶発的にロバスタチンまたはシンバスタチンを使用した134人の妊婦において、奇形の増加はみられなかった。
- ※低用量アスピリン療法
- 抗リン脂質抗体陽性患者における妊娠中の低用量アスピリン療法の役割は依然として不明である。たしかにその抗血小板作用は動脈血栓を予防するかもしれないが、妊娠中における低用量アスピリン療法が不育症に対して臨床的に有効かというデータはほとんどない。・・・中略・・・
しかしながら、アスピリンは患者と胎児に比較的危険が少ないので依然としてひろく処方されているのが現実である。アスピリンを妊娠初期に投与する場合は、小児用バファリンを1日1錠(81mg)排卵日の頃より開始し、妊娠中をとおして35週頃まで投与するのが一般的である。[杉
俊隆ら:産婦人科の世界]
- ※ヘパリン療法
- ヘパリン療法の有効性は多く報告されており、抗リン脂質抗体症候群の不育症の治療としてはスタンダードになりつつある。また、最近は低分子ヘパリンの使用例も多く報告され、海外では低分子ヘパリンがスタンダードな治療法になりつつある。今年になって、妊娠中の低分子ヘパリンの安全性が総説としてまとめられたが、なぜか日本では低分子ヘパリンの妊娠中の投与は禁忌であり、世界の流れに逆行した決定に首を傾げざるを得ない。へパリンがなぜ不育症に有効なのかはいまだ不明な点も多いが、抗凝固活性以下の用量で有効なことから、その抗凝固作用よりは、陰性荷電を介する作用など別の作用機序も示唆されている。[杉
俊隆ら:産婦人科の世界]
- ※Warfarin(ワルファリン)
- Embryopathy: Nasal hypoplasia, stippling
of secondary epiphysis, IUGR, anomalies of
eyes, hands, neck, and CNS. Up to 25% risk
of an affected infant following exposure
until the 14th week of pregnancy.Later exposure
is associated with fetal hemorrhage,abruption,
and stillbirth.[Perinatology.com/Drugs in
Pregnancy and Lactation(Teratology. ACOG
technical bulletin number 236--April 1997)]
妊娠14週までに曝露すると、鼻の形成不全、点刻状骨端、目や手、首の障害など、なんらかの異常が25%にも上る(胚障害)。さらにその後の曝露により、胎児出血を引き起こし、流産にもつながる。
- ※ワルファリン
- 重大な出生時欠損が、妊娠の最初の3カ月の間に薬物にさらされた児の最大4分の1で生じる。異常な出血もまた女性と胎児両方で生じうる。もし妊婦が血液凝固を起こすリスクにあるなら、ヘパリンがずっとより安全な選択肢である。[メルクマニュアル家庭版]
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