【備考】
●鎮痛薬の催奇形性作用についてはおおむね否定的です。むしろ、妊娠後半期の胎児毒性が問題となります。たとえば、鎮痛薬の血管収縮作用により、胎児の心臓の出口の血管が収縮してしまい、新生児肺高血圧症の原因にもなりかねません。また、腎臓の働きを悪くし尿量を減少させ、結果として羊水過少をまねくおそれもあります。そのほか、分娩・出産を長びかせる作用や、血を止めにくくする作用も知られています。
●上記のような理由から、妊娠中の解熱・鎮痛薬の服用は、できるだけ控えるようにします。妊娠初期に数回頓服する程度でしたらそれほど心配いりませんが、後期に強力な鎮痛薬を毎日のように飲み続けてはいけません。鎮痛薬は必ず医師の指示のもとで使用してください。効き目は落ちますが、アセトアミノフェンやソランタールなどおだやかな作用の鎮痛薬のほうが安全性は高いです。
●妊娠に気づかないまま、市販の鎮痛薬を飲んでいたとしても、あとから思い悩むほどのことではありません。鎮痛薬の服用により奇形の割合が増えることはまずありえません。虎の門病院の調査によると、妊娠初期に代表的な解熱鎮痛薬のアスピリンを服用した23人、エテンザミドを服用した39人、アセトアミノフェンを服用していた6人、ともに健康な赤ちゃんを出産されています。
●抗リン脂質抗体陽性の習慣流産(不育症)に低用量アスピリン療法が試みられることがあります。少量であれば、胎児に影響することなく、比較的安全に使用できるとされます。虎の門病院でも、少量のアスピリンについては危険度の低い"1"と評価しています。
【myメモ】
- ※NSAIDs
- CATEGORY : B or C in early pregnancy
depending on compound
CATEGORY : D near term 妊娠初期は成分によりBまたはC。妊娠末期はD。[Perinatology.com/Drugs
in Pregnancy and Lactation]
- ※NSAIDs
- All NSAIDs used near term may cause closure
of the ductus arteriosus, and inhibit labor.
Oligohydramnios after prolonged use is a
common complication.
どのような鎮痛薬(NSAIDs)でも妊娠末期の使用は、動脈管の閉鎖と、分娩の遅延をまねく要因となりうる。連用後においては羊水過少をきたすおそれがある。[Perinatology.com/Drugs
in Pregnancy and Lactation]
- ※NSAIDは流産の危険性を高める、特に妊娠初期の服用は避けるべき
- 妊娠中に非ステロイド系消炎鎮痛剤を服用した場合、流産のリスクが1.8倍に高まる。米国にカリフォルニア州におけるコホート研究の結果、こんな事実が明らかになった。特に、妊娠初期や1週間以上の長期服用では、5.6〜8.1倍と大幅にリスクが高まるという。研究グループは、「妊娠を望む女性は妊娠初期のアスピリンやNSAIDの服用は避けるべきだ」と警告している。研究結果は、British
Medical Journal誌2003年8月16日号に掲載された。[日経BP社
MedWave 2003/08/22]
- ※アセトアミノフェン
- *1.妊娠中の投与に関する安全性は確立していないので、妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には、治療上の有益性が危険性を上まわると判断される場合にのみ投与すること。
*2.妊娠後期の婦人への投与により胎児に動脈管収縮を起こすことがある。
*3.妊娠後期のラットに投与した実験で、弱い胎仔の動脈管収縮が報告されている[添付文書/妊婦、産婦、授乳婦等への投与
2012/04]。
- ※Acetaminophen(アセトアミノフェン)
- 1st trimester exposure in 9146 infants resulted
in no increase in major or minor anomalies
妊娠初期にアセトアミノフェンに曝露した9146例において、奇形等の増加は認められなかった。[Perinatology.com/Drugs
in Pregnancy and Lactation(Briggs GG)]
- ※アスピリン
- 厚生省医薬品情報No.6(1977.2)「アスピリンの妊婦および胎児に及ぼす影響について」によると、中央薬事審議会の見解として諸外国の疫学調査の結果から、妊娠中におけるアスピリン服用と先天異常児出産との因果関係はいずれも否定的であるが、アスピリンを長期間連用した場合には、母体および胎児に対して貧血・産前産後の出血・分娩時間の延長・死産・難産、新生児の体重減少や死亡などへの影響は否定できないとしている。(薬局
Vol.50 1999)
- ※アスピリン
- 佐藤[*1]はアスピリンは妊娠初期に服用した場合の、ヒトにおける催奇形性の問題は否定的であるが、後半期に大量に使用すれば胎児の動脈管の収縮が問題となる。しかし、投与量により異なるが、妊娠後半期であってもアスピリン少量投与(1日40〜80mg程度)であれば、胎児に影響なく、母体における血小板凝集抑制作用が期待できるとする。ただし、分娩時までアスピリンの服用を続けると分娩時出血量の増大があるので、原則として分娩の1週間前には投与を中止する。[薬局
Vol.50 1999(*1.佐藤和雄ら:産科と婦人科,
66: 152, 1999)]
- ※低用量アスピリン療法
- 抗リン脂質抗体陽性患者における妊娠中の低用量アスピリン療法の役割は依然として不明である。たしかにその抗血小板作用は動脈血栓を予防するかもしれないが、妊娠中における低用量アスピリン療法が不育症に対して臨床的に有効かというデータはほとんどない。・・・中略・・・
しかしながら、アスピリンは患者と胎児に比較的危険が少ないので依然としてひろく処方されているのが現実である。アスピリンを妊娠初期に投与する場合は、小児用バファリンを1日1錠(81mg)排卵日の頃より開始し、妊娠中をとおして35週頃まで投与するのが一般的である。[杉
俊隆ら:産婦人科の世界]
- ※スルピリン
- 妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること。〔妊娠末期に投与したところ、胎児循環持続症(PFC)が起きたとの報告があり、妊娠末期のラットに投与した試験で、弱い胎児の動脈管収縮が報告されている。また、動物試験(マウス)で催奇形作用が報告されている。〕[添付文書]
- ※禁止鎮痛剤投与で死産。添付文書改訂後も使用。厚労省に市民団体「周知」要望へ
- 胎児死亡などの副作用報告が相次ぎ、1999年に厚生省(当時)が妊婦に投与しないよう添付文書改訂指示した鎮痛剤「ジクロフェナクナトリウム(ボルタレン等)」について、改訂後に少なくとも3人の妊婦が投与され、死産したり赤ちゃんが仮死状態で生まれたりしていたことが分かった。2000年に滋賀県で起きたケースでは妊婦側が12日、産婦人科医院を提訴。三人の相談を受けた市民団体「陣痛促進剤による被害を考える会」(事務局・愛媛県今治市)は同日、厚生労働省に、添付文書改訂を周知徹底するよう要望書を提出する予定。同会によると、投与されたのは大津市の主婦伊地知久美子さんら。伊地知さんは滋賀県甲賀郡内の産婦人科医院に入院。陣痛促進剤を投与後に痛みと発熱がひどくなり、ジクロフェナクナトリウムの坐薬を使用された約1時間後、胎児の心音が急速に下がって死産した。伊地知さん側は「投与による副作用は明らか」としている。ほかに、改訂直後の1999年11月に愛媛県で投与された妊婦が死産し、2001年9月に千葉県でも妊婦に投与後、胎児が仮死状態で生まれた。これらの2件は院内感染など別の原因が影響した可能性もあるという。厚労省によると、99年の改訂時までに胎児の腎臓障害や死産など妊婦の投与に関する九件の副作用が報告された。同会は「死産の可能性があるのに投与するのは殺人と同じ。改訂を知らない医師も多いのではないか」と警告している。[東京新聞
2003/12/11夕刊]
- ※ケトプロフェン経皮鎮痛消炎剤(モーラス)
- 妊婦、産婦、授乳婦等への投与/本剤を妊娠後期の女性に投与したところ、胎児動脈管収縮が起きたとの報告がある。[添付文書
2008/12]
- ※ロキソプロフェンナトリウム(ロキソニン)
- 虎の門病院・薬剤部長 妊娠中のエチゾラム「出生児異常に差ない」/虎の門病院薬剤部の林昌洋部長は、このほど東京都内で講演し、エチゾラムやロキソプロフェンナトリウムを妊娠中に服用した女性の出生児に異常が見られた症例数を調査したところ、服用時の出生児の異常は全体の1〜2%で、自然発生的な異常(2〜3%程度)と際立った差は見られないとする結果を発表した。林氏は、服用中の薬が乳胎児に与える影響に過剰反応しがちな妊娠女性に対し、医学的根拠に基づき慎重に、分かりやすく説明する重要性を訴えた。国立成育医療センター・妊娠と薬情報センターが主催したシンポジウムの中で述べた。[日刊薬業
2008/12/03]
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