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妊娠とくすりTop / 2.妊娠とくすり概説 /(4) 妊娠中に使われる薬


(4) 妊娠中に使われる薬

妊娠中は、できるだけ薬を控えるようにします。けれど、お母さまやおなかの赤ちゃんのために、どうしても薬が必要なことがあります。医師は、できるだけ安全な薬を選んで処方します。

一般的に、安全性の高い薬とは、新薬よりも使用実績のある古い薬です。とくに、規模の大きいいくつもの疫学調査で危険性がみつからなかった薬、何十年ものあいだ奇形などの症例報告がない薬は安全性が高いといえます。たとえば、ペニシリン系の抗生物質は、何千人規模の疫学調査で奇形の割合が増えないことが分かっています。このような薬は、妊娠中でもほぼ安全に用いることができるわけです。

ただ、ペニシリン系抗生物質のように安全性が確かめられている薬はむしろ少ないです。ときには、抗てんかん薬などリスクのある薬を用いなければならないこともあります。「薬は安全だから使用するのではなく、必要だから使用するもの」ということも知っておいてください。


日常的な病気

  • かぜの症状がひどいときは、かぜ薬で体を楽にしたほうがよいことがあります。病院でよく使われるかぜ薬に「PL顆粒」があります。この薬は古くから使われている総合感冒薬で、4種類の成分が配合されています。解熱・鎮痛薬のサリチルアミドとアセトアミノフェン、抗ヒスタミン薬のプロメタジン、お茶の成分のカフェインです。これらの成分は、妊娠中でも比較的安全と考えられています。そのほか、症状に応じていろいろ薬が使われます。熱や痛みがあれば解熱・鎮痛薬を、咳がひどいときには鎮咳薬や去痰薬を、鼻水やクシャミには抗ヒスタミン薬も使われます。いずれも、安易な長期服用は好ましくないので、できるだけ短期間にとどめるようにします(医師の指示どおりに)。

  • 細菌による病気には抗生物質を用います。咽頭炎、気管支炎、膀胱炎などに処方されることがよくあります。かぜでのどが腫れているときにも使います。抗生物質で病原菌が殺菌されれば、痛みや腫れがおさまり、熱も下がってきます。そのほか、分娩時にクラミジアやB群溶連菌が赤ちゃんに感染しないように、抗生物質で治療しておくこともあります。一般的にはペニシリン系やセフェム系、あるいはマクロライド系の抗生物質を用います。たとえば、使用経験の多いアンピシリン(ビクシリン)やアモキシシリン(サワシリン)、セファレキシン(ケフレックス)などです。また、クラミジアにはマクロライド系のエリスロマイシン(エリスロシン)を、トキソプラズマ症にはアセチルスピラマイシンを用いるのが一般的です。ペニシリン系の抗生物質は、海外で大規模な疫学調査がおこなわれており、ほぼ安全性が確立されています。抗生物質にアレルギーのある人は、必ず医師に報告しておきましょう。

  • じん麻疹や湿疹、ひどいカユミに、抗ヒスタミン薬を用いることがあります。ふつう、妊娠中の使用実績のあるマレイン酸クロルフェニラミン(ポララミン)が処方されます。常用量で1週間程度であれば、妊娠中でも安全に使用できると考えられています。ただし、長期の服用はすすめられていません。長びくときは、飲み薬より安全な外用薬でしのぐことが必要かもしれません。病院ではステロイド外用薬が多用されますが、カユミには市販のメントール系塗り薬(ムヒなど)でもよいと思います。主治医か薬剤師とよく相談してみましょう。

  • 花粉症などアレルギー性の病気にも、抗ヒスタミン薬が使われます。やはり長期間の使用は好ましくないので、できるだけ症状のひどいときだけにします。新しい抗アレルギー薬の飲み薬は使用実績が少ないのですすめられていません。抗アレルギー薬でも局所にだけ作用する点鼻薬や点眼薬でしたら安心です。

  • 便秘がちのときは、まず日常生活の改善をはかります。朝食後の排便習慣、繊維質の多い食事、十分な水分、乳酸菌食品・・。それでも改善しないときは、我慢しないで医師に相談してください。便秘薬の多くは、妊娠中でも安全に使用できます。ただし、とつぜんに大量を飲むと子宮収縮を誘発するおそれがあります。服用量を守るようにしましょう。

  • 貧血ぎみのときは、鉄剤で鉄分をおぎないます。吸収をよくするのにビタミンCといっしょに飲むこともあります。鉄剤は、食べ物に含まれる鉄分と同じですので妊娠中でも安全です。

妊娠・出産にともなう病気
  • 流産や早産の心配があるときは、安静療法をおこなうことが大切です。場合によっては、子宮の運動をおさえる薬も使われます。おなかの張りや腹痛、出血など前兆症状がみられたときに処方されるものです。飲み薬では、ウテメリン、ズファジラン、ブリカニール、ダクチル、あるいはカルシウム拮抗薬のアダラートなどが処方されます(一部適応外)。止血薬のアドナやアドクノン、トランサミンも用います。緊急性のあるときは、注射薬で治療します。

  • 不妊症や習慣性流早産(不育症)で黄体の働きが悪いとにきに、少量の黄体ホルモン薬を用いることがあります。黄体ホルモンには、妊娠を維持する働きがあります。短期間あるいは少量でしたら、赤ちゃんへの影響はまずないと考えられています。一般的には、安全性の高いデュファストンがすすめられています。抗リン脂質抗体陽性の場合は、少量のアスピリン(バファリン81mg)やステロイド薬(プレドニン)による治療も試みられます。

  • つわりは多くの人に見られる一般的な症状です。口当たりのよい食事を少量ずつとるとよいでしょう。薬はできるだけ控えるようにしますが、症状の強いときには吐き気止めの薬も使われます。この場合、使用経験の多いメトクロプラミド(プリンペラン)を用いるのが一般的です。好みがあるかもしれませんが、漢方薬の小半夏加茯苓湯(ショウハンゲカブクリョウトウ)や半夏厚朴湯(ハンゲコウボクトウ)も用いられます。脱水症状のみられるときは、点滴で水分を補給すると楽になります。

  • 妊娠高血圧は、降圧薬で血圧を下げなければなりません。この場合、妊娠中の使用実績が豊富なアルドメットやアプレゾリンを用いるのが一般的です。重い場合や効果が不十分な場合は、カルシウム拮抗薬のアダラートなど強力な薬を使うこともあります。ただし、血圧の下がりすぎも赤ちゃんによくないので、慎重に下げていきます。そのほか、蛋白尿がひどいときにはペルサンチンを、浮腫(むくみ)がひどいときには利尿薬のラシックスを用いるかもしれません。利尿薬は、胎盤の循環を悪くしたり、胎児脱水を起こすおそれがあるので慎重に使用します。

  • 出産にそなえて、子宮頚管軟化薬のプラステロン(マイリス注、マイリス腟坐剤)を用いることがあります。産道の一部の子宮頚管を軟らかくする働きがあります。したがって、子宮頚管が硬く出産時に支障が予想されるときに用います。ただ、この薬はホルモン系ということもあり、海外ではあまり評価されていません。日本だけで使われている薬です。

  • 早期破水を起こした場合、感染予防に抗生物質が使われます。やはり、安全性の高いペニシリン系やセフェム系を用いるのが基本です。

  • 過期妊娠(予定日超過)や微弱陣痛、前期破水などにおいては、陣痛促進薬で陣痛をうながします。飲み薬のプロスタグランディンE2(プロスタルモンE)のほか注射薬もあります。いずれも、厳重な分娩監視のもとで使用する必要があります。副作用を含めて十分な説明を受けおきましょう。
慢性の病気
  • 慢性疾患の治療中に妊娠を希望される場合は、事前に医師とよく相談しておきましょう。妊娠してからあわてないですみますし、より影響の少ない薬に変更しておくこともできます。医師の管理のもと、計画的に妊娠・出産すれば安心です。

  • 喘息では、ごく軽いケースを除き、妊娠中でも薬の治療を続けることが多いです。激しい発作は、血液中の酸素不足を招き、赤ちゃんの発育に悪い影響がでるおそれがあるのです。このようなことがないよう、発作を予防する薬を続ける必要があります。喘息の薬の多くは、妊娠中でも安全に使えます。

  • アトピーなど慢性的な皮膚病においても、継続的な治療が必要なことがあります。ステロイド外用薬は、妊娠中でも問題なく使用できます。ただ、大量に常用している場合など、前もって徐々に減量していくといったことは必要でしょう。抗アレルギー薬も、より安全なものに変更しておけば安心です。

  • 神経症、心身症、不眠症、あるいはうつ病など心の病気のあるときも、早めに医師と相談しておきましょう。服用期間は症状によりますが、落ち着いてきたなら、生活や職場の環境調整、さらに心理療法や自律神経訓練法などをおこない、そのうえで薬の減量や中止も可能と思います。妊娠してから、急に中止するのはつらいものがあります。日本では、ベンゾジアゼピン系の安定剤や睡眠薬が多用されますが、妊娠中はすすめられていません。ときとぎ頓服する程度でしたら問題ないとされますが、長期服用はできるだけ控えるべきです。ただし、とくべつに危険性が高いというわけでもありません。虎の門病院の相談事例では、妊娠中にこの系統を服用していた133人全員が障害のない健康な赤ちゃんを出産されています(妊娠と薬'92)。たとえ、妊娠に気づかないまま、この系統を飲み続けていたとしても、中絶を考慮するような危険性はありません。医師の判断にもよりますが、症状によっては妊娠を承知のうえで処方されることもあるでしょう。

  • 潰瘍性大腸炎では妊娠中でもサラゾスルファピリジン(サラゾピリン)やメサラジン(ペンタサ)による治療を続けることが多いものです。これらの薬は体内にあまり吸収されないので、比較的安全と考えられています。

  • 糖尿病は、インスリン注射薬で厳格に血糖値をコントロールすることで、安全な妊娠・出産が可能です。

  • 甲状腺機能亢進症(バセドウ病)においても、きちんと治療を続けながら妊娠出産することで安全性が高まります。抗甲状腺薬には催奇形性はないと考えられています。

  • 膠原病では、症状の落ち着いているときに計画的に妊娠されるとよいでしょう。妊娠中でもステロイド薬の継続服用が必要なことが多いですが、少量でしたら赤ちゃんへの影響はほとんどありません。

  • てんかんでは、医師による専門的な管理が必要です。妊娠にそなえ、できたら薬の種類を減らしておいたほうがよいとされます。長期間発作がなければ、時間をかけて徐々に減量し、場合によっては薬を中止できるかもしれません。けれど、それができないときは、薬を服用しながらの妊娠になります。大発作は、おなかの赤ちゃんにも大きな負担となるので、抗てんかん薬で予防しなければならないのです。残念ながら、抗てんかん薬には催奇形性を持つものが多く、ある程度のリスクは否定できません。けれどその一方で、多くの患者さんが健康な赤ちゃんを出産されていることも事実です。事前に医師と十分に打ち合わせをし、計画的に妊娠・出産することで、安全性が高まります。


<付録>治療のために妊娠中でも使われる薬の例(安全性を保証するものではありません)
区 分 薬 品(製品例) 備 考
カゼ薬 葛根湯
小青竜湯
漢方薬。
PL顆粒 長期間の服用は控える。
解熱・消炎・鎮痛薬 アセトアミノフェン(カロナール)
チアラミド(ソランタール)
ロキソプロフェン(ロキソニン)
作用のおだやかなアセトアミノフェンは比較的安全性が高い。
ロキソニンなど強力な鎮痛薬の連用は避ける。とくに妊娠後半期に注意。
鎮咳薬 デキストロメトルファン(メジコン)
リン酸ジメモルファン(アストミン)
一般的には、デキストロメトルファンがすすめられている。
気管支拡張薬 硫酸サルブタモール(ベネトリン)
硫酸テルブタリン(ブリカニール)
テオフィリン(テオドール)
テオドールは血中濃度を測定することが望ましい。
去痰薬 塩酸ブロムヘキシン(ビソルボン)
カルボシステイン(ムコダイン)
まず安全。
抗ヒスタミン薬 マレイン酸クロルフェニラミン(ポララミン)
クレマスチン(タベジール)
長期間の服用は控える。
抗アレルギー薬 フマル酸ケトチフェン(ザジテン)
クロモグリク酸(インタール)
使用実績の少ない抗アレルギー薬はできるだけ控える。外用のインタール(吸入・点眼)は安全に用いることができる。
抗生物質 アンピシリン(ビクシリン)
アモキシシリン(サワシリン)
セファレキシン(ケフレックス)
エリスロマイシン(エリスロシン)
アセチルスピラマイシン
クラリスロマイシン(クラリス)
ペニシリン系もしくはセフェム系を第一選択。セフェム系では使用実績の多い第一世代が安心。マクロライド系も安全。ショック、アナフィラキシーには十分注意。
胃腸薬 制酸薬(マーロックス)
鎮痙薬(ブスコパン)
スクラルファート(アルサルミン)
制酸薬はまず安全
制吐薬 メトクロプラミド(プリンペラン) 症状のひどいときだけ用いる。つわりには、小半夏加茯苓湯や半夏厚朴湯など漢方薬を用いることも。
緩下薬 ピコスルファート(ラキソベロン)
センナ(アローゼン)
センノシド(プルゼニド)
ビサコジル(テレミンソフト、コーラック)
パンテチン(パントシン)
酸化マグネシウム
まず安全。とつぜんの大量服用は避ける。
鉄剤 フェロミア
フェロ・グラデュメット
スローフィー
フェルム
ビタミンCと併用することがある。胃腸の弱い人は食後に服用するとよい。


    
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Good luck & Good by !
おくすり110番