概説 |
がんの痛みを抑えるお薬です。 |
作用 | 
- 【働き】

- 激しい痛みは心身を疲弊させ、平穏な日々を送るのに何よりの障害となります。このような痛みを無理にがまんする必要はありません。昔と比べ、痛みに対する理解が深まり、その治療も系統的にきちんと行われるようになりました。
このお薬には、痛みをおさえる強力な作用があります。とくに持続する鈍痛に効果が高く、一般的な鎮痛薬が効きにくい各種のがんの痛みに有効です。軽い痛みではなく、他の鎮痛薬で十分な効果が得られない中等度以上のがん性疼痛に用いられます。

- 【薬理】

- 第一の作用はオピオイドμ受容体作動作用です。オピオイドμ受容体は、中枢および末梢神経系に広く分布し、体のさまざまな痛みの制御にかかわっています。このμ受容体に結合し活性化させることにより、強力な鎮痛効果を発揮するのです。とくに持続する鈍痛に効果が高く、各種のがんが引き起こす内臓痛をよく抑えます。
第二の作用とされるのがノルアドレナリン再取り込み阻害作用です。ノルアドレナリンの再取り込みをじゃまし、脊髄におけるノルアドレナリン性下行性痛覚抑制系を活性化することで痛みを抑えます。こちらは神経の損傷による痛みにとくに有効で、たとえば軽く触れるだけでズキズキする痛み、 しびれるような痛み、灼熱感といった痛みに効果的です。
これら2つの作用により、各種のがんの痛みに幅広い鎮痛効果をあらわします。つまり、侵害刺激や炎症に起因する内臓痛から、神経の損傷や障害により発現する神経障害性疼痛、さらには皮膚や骨など体性組織への機械的刺激が原因で発生する体性痛をふくめ、さまざまな種類のがん性疼痛を広くカバーできるわけです。

- 【臨床試験】

- この薬のがん痛に対する有効性と安全性について、既存のオピオイド鎮痛薬のオキシコドン徐放錠(オキシコンチン)と比較する試験が行われています。参加したのは一般的な鎮痛薬では効果不十分ながん患者さん343人。このうち171人はこの薬を、別の172人はオキシコドンを適切に用量調節しながら1ヵ月間服用します。効果判定のための主要評価項目は、服用前と服用後(最終3日間)の平均疼痛強度スコア(NRS)の変化量とします。このスコアは、痛みを0から10の11段階に分け、痛みが全くないのを0、考えられるなかで最悪の痛みを10として、痛みの点数を問うものです。1〜3点が軽度、4〜6点が中等度、7〜10点が高度な痛みとされます。
その結果、この薬を飲んでいた人達の疼痛強度スコアの変化量の平均は-2.7点(5.35→2.64)、オキシコドンを飲んでいた人達で-2.6点(5.27→2.71)でした。どちらでも、変化量に大きな差はなく、多くの人が中等度から軽度に緩和されたことになります。このことから、この薬の効果が汎用薬のオキシコドンと同程度であることが証明されたわけです。そのほかの副次的評価項目として、疼痛強度スコアが50%以上改善した人の割合は、この薬で50%、オキシコドンで42%でした。また、突出痛により臨時追加服用(レスキュー・ドーズ)した人の割合は、この薬で74.6%、オキシコドンで74.1%と差はありませんでした。安全性についても全般的に大きく異なりませんでしたが、便秘と悪心の発現割合は この薬のほうが低い傾向が示されました。
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特徴 |
- オピオイドと呼ばれる部類の鎮痛薬です。そのなかでもとくに強力な麻薬系の強オピオイド鎮痛薬になります。WHO方式がん疼痛治療法で第3段階に位置づけられ、中等度から高度の疼痛に適します。がん性疼痛治療オピオイドローテーションにおける新たな選択肢になるものと考えられます。
- オピオイドμ受容体作動作用にくわえ、ノルアドレナリン再取り込み阻害作用を併せ持つのが特徴です。このため神経障害性疼痛をふくめ広範ながん性疼痛に効果を発揮します。また、強オピオイド鎮痛薬に頻発する便秘と悪心の副作用が多少なりとも軽減できる可能性があります。
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注意 |
 【診察で】
- 持病やアレルギーのある人は医師に伝えておきましょう。
- 飲み合わせの悪い薬があります。2週間前から今現在までに飲んでいた薬を、医師に報告しておいてください。
- 具体的な使用方法や注意事項、副作用について十分説明を受けてください。その内容をよく理解し、納得のうえで治療にあたりましょう。

- 【注意する人】

- 呼吸の弱っている人は使用できないことがあります。また、慢性閉塞性肺疾患や喘息など呼吸器系に病気のある人は、呼吸抑制による悪影響に注意するなど慎重に用います。肝臓病や腎臓病のあ人は、薬の代謝・排泄が遅れやすいので、副作用の発現に十分な注意が必要です。感染性下痢症のある人は原則禁止です。
- 適さないケース..重い呼吸抑制、重い慢性閉塞性肺疾患(COPD)、喘息発作中、麻痺性イレウス、感染性下痢症、出血性大腸炎のある人など。
- 注意が必要なケース..慢性閉塞性肺疾患、喘息、てんかん、腎臓病、肝臓病、胆石、膵炎、前立腺肥大症などで尿の出の悪い人、腸に閉塞や通過障害のある人、炎症性腸疾患、体の弱っている人、高齢の人など。
 【飲み合わせ・食べ合わせ】
- 飲酒量低減薬のナルメフェン(セリンクロ)とは併用できません。ナルメフェンによりこの薬の鎮痛作用が減弱するためです。通常、この薬を優先しますが、ナルメフェン中止後1週間以内は避けなければなりません。ナルメフェン服用中に、この薬が必要になった場合は、少なくとも1週間前にナルメフェンを中断する必要があるわけです。
- パーキンソン病治療薬のセレギリン(エフピー)、ラサギリン(アジレクト)およびサフィナミド(エクフィナ)は併用禁止です。これらを服用中および中止後2週間は避けなければなりません。
- 安定剤など脳の神経をしずめる薬と飲み合わせると、いろいろな副作用がでやすくなります。併用のさいは、眠気やふらつき、過度の鎮静、呼吸抑制、低血圧などに要注意です。
- セロトニン作用をもつ抗うつ薬(三環系、SSRI、SNRI)と併用する場合は、セロトニン症候群に注意が必要です。不安、混乱、発熱、発汗、体のぴくつき、ふるえ、けいれん、下痢といった症状に気を付けてください。
- 飲酒はできるだけ控えたほうがよいでしょう。めまいや眠気、呼吸抑制などの副作用がでやすくなります。
 【使用にあたり】
- 用法・用量は医師の指示どおりにしてください。服用量は、痛みの程度、それまでの鎮痛薬の種類や使用量を考慮し医師が決めます。一般的には、少な目で開始し、効き目をみながら徐々に増量します。そして、適切な鎮痛効果が得られ副作用が最小となる至適用量とするのです。
- 通常、1日2回朝晩12時間毎に定時服用します。徐放製剤ですので、割ったり砕いたりしてはいけません。噛まずに、そのまま多めの水で飲んでください。
- いわゆるレスキュー・ドーズとして頓服には向きません。急な痛みには別の速効性のオピオイド鎮痛薬を使用してください。
- 決められた用量で痛みが治まらない場合は、遠慮なく医師に申し出てください。適宜増量することも可能です。
- 逆に、痛みは消失するものの、眠気が強く昼間からうとうとしてしまうときは、薬の量が多すぎるかもしれません。この場合も、医師とよく相談してください。
- 長期服用後に中止する場合は、医師の指示のもと徐々に減量するようにします。
- 痛み止めとして他人にあげてはいけません。何らかの理由で、不用となった場合は、病院または薬局へ返却してください。
- 子供の手の届かないところに保管しましょう。
 【食生活】
- 眠気やめまいを起こしやすいです。車の運転をふくめ危険をともなう機械の操作や作業は避けてください。
- 強い眠気は過量のサインかもしれません。日常生活や仕事に支障となる場合は、早めに受信し医師に報告してください。たとえば会話中にうとうと眠こんでしまったり、目覚めてもつじつまが合わない会話をする場合などです。さらに、呼吸が浅く速いなど呼吸に異常がみられるなら、直ちに医師に連絡してください。

- 【備考】

- がん疼痛治療のお手本にWHO方式があります。痛みの強さを3段階に分け、段階的に鎮痛薬を選択する方法です。軽い痛みには、まず第1段として一般的な非オピオイド鎮痛薬(NSAIDs、アセトアミノフェン)を定時使用します。それで効果不十分な中くらいの痛みには、第2段階として弱オピオイド(コデイン、トラマドール)を追加します。さらに第3段階では、第1段階の薬剤に麻薬系の強オピオイド鎮痛薬(モルヒネ、オキシコドン、フェンタニル、この薬)を追加し定時使用します。定時薬使用中の突出痛に臨時に用いるのが即放性の強オピオイドいわゆるレスキュー薬です。
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効能 |
中等度から高度の疼痛を伴う各種癌における鎮痛
- 注意:本剤は、非オピオイド鎮痛剤で治療困難な場合にのみ使用すること。
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用法 |
通常、成人にはタペンタドールとして1日50〜400mgを2回に分けて経口投与する。なお、症状により適宜増減する。
※用法用量は症状により異なります。医師の指示を必ずお守りください。 |
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副作用 |
重い副作用は少ないのですが、便秘や吐き気、嘔吐、眠けなどを起こしやすいです。ひどいようでしたら早めに受診し医師と相談してください。眠けと吐き気は続けているうちに体が慣れて軽くなりますが、便秘は続くことが多いので下剤(通じ薬)で対処します。
異常に強い眠気がしたり、うとうと意識がもうろうとしてくる場合、薬の量が多過ぎるかもしれません。ことに高齢の人など、過量による呼吸抑制を起こしかねませんので要注意です。ご家族や周囲の方もその点に気をつけ、異変に気付いたら医師と連絡をとり指示をあおぎましょう。
長く続けていると、薬に頼りがちになることがあります。薬がないといられなくなり、このとき急に中止すると、不安、吐き気、発汗、頭痛や震えなど反発的な症状があらわれます。ただ、がん疼痛治療においては、強い依存は生じにくいとされます。心配し過ぎず、鎮痛効果が十分得られる必要最小量を用いることが大切です。
 【重い副作用】 ..めったにないですが、初期症状等に念のため注意ください
- 呼吸抑制..息切れ、呼吸しにくい、息苦しい、呼吸が浅く速い、呼吸が弱く少ない(10回/分未満)、不規則な呼吸、異常ないびき、意識がうすれる。
- アナフィラキシー..発疹、じんま疹、全身発赤、顔や口・喉や舌の腫れ、咳込む、ゼーゼー息苦しい。
- 依存..長期に多めの量を飲み続けると、体が薬に慣れた状態になりやめにくくなる。このとき急に中止すると、いらいら、強い不安感、不眠、ふるえ、けいれん、混乱、幻覚など思わぬ症状があらわれることがある(徐々に減量すれば大丈夫)。
- けいれん..筋肉のぴくつき、ふるえ、白目、硬直、全身けいれん、意識低下・消失。
- 錯乱、せん妄..混乱、取り乱す、もうろう状態。
 【その他】
- 便秘、吐き気、吐く、食欲不振、下痢
- 眠気、うとうと、ぼんやり、めまい、頭痛
- 尿が出にくい
- 発疹、かゆみ
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