概説 |
がんの痛みを抑えるお薬です。 |
作用 | 
- 【働き】

- 激しい痛みは心身を疲弊させ、平穏な日々を送るのに何よりの障害となります。このような痛みを無理にがまんする必要はありません。昔と比べ、痛みに対する理解が深まり、その治療も系統的にきちんと行われるようになりました。
このお薬には、痛みをおさえる強力な作用があります。とくに持続する鈍痛に効果が高く、一般的な鎮痛薬が効きにくい各種のがんの痛みに有効です。軽い痛みではなく、他の鎮痛薬で十分な効果が得られない中等度以上のがん性疼痛に限り用います。

- 【薬理】

- μオピオイド受容体作動薬になります。オピオイドμ受容体は、中枢および末梢神経系に広く分布し、体のさまざまな痛みの制御にかかわっています。この薬は、μ受容体に結合し活性化させることにより、強力な鎮痛効果を発揮するのです。

- 【臨床試験】

- 既存の類似薬オキシコドンとの比較試験が行われています。オキシコドンは国内で多用される代表的なオピオイド鎮痛薬です。参加したのは、一般的な鎮痛薬では痛みが治まらないがんの患者さん172人。そして、この薬(ナルラピド)を飲む人と、オキシコドン(オキシコンチン)を飲む人に分かれ、1日4回それぞれの規定量を定時服用します。服用期間は5日間とし、急な突出痛にはレスキュー薬(モルヒネ)の臨時追加服用が可能です。
効果の判定は、患者さん自身が評価する疼痛強度VAS値(mm)の変化量でおこないます。VAS値は、痛みを測る‘ものさし’のようなものです。具体的には、100mmの直線上でまったく痛みのない状態を0mm、最大の痛みを100mmとし、現在の痛みが直線上のどこにあるかを患者さん自身が指し示すことで痛みの強度を数値化するのです。ちなみに、患者さんの服薬前のVAS値は平均54mmくらいでした。
その結果、この薬を飲んでいた人達のVAS値の変化量は平均30.0mm(54.8→24.7)、オキシコドンを飲んでいた人達で26.0mm(53.9→27.9)でした。また、突出痛によりレスキュー薬を使用した回数は、この薬で2.7回、オキシコドンで2.3回でした。VAS値の変化量、レスキュー薬の使用回数ともに大きな違いはなく、オキシコドンに劣らない有効性が証明されたわけです。
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特徴 |
- オピオイドと呼ばれる部類の鎮痛薬です。そのなかでもとくに強力な麻薬系の強オピオイド鎮痛薬になります。有効限界がない完全作動薬とされ、用量増加とともに作用が増強します。モルヒネに対する効力比はおおよそ1:5。
- WHO方式がん疼痛治療法で第3段階に位置づけられ、中等度以上の疼痛に推奨されます。オピオイド鎮痛薬の変更を繰り返すオピオイドローテーションの選択枝が広がることも有益です。
- すぐ効く即放性のナルラピド錠と、ゆっくり長く効く徐放性のナルサス錠があります。痛みが比較的弱く安定してるなら、即放錠、徐放錠のいずれも使用可能です。痛みが強く不安定な場合は、即放錠で臨機応変に対処しなければなりません。一時的な突出痛には即放錠をレスキュー薬として用います。
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注意 |
 【診察で】
- 持病やアレルギーのある人は医師に伝えておきましょう。
- 別に薬を飲んでいる場合は、その薬を医師に教えてください。
- 具体的な使用方法、注意事項や副作用について十分説明を受けてください。

- 【注意する人】

- 呼吸の弱っている人は使用できないことがあります。また、喘息や慢性閉塞性肺疾患など呼吸器系に病気のある人は、その悪化や呼吸抑制に注意が必要です。肝臓病や腎臓病があると薬の代謝や排泄が遅れやすいです。このため、低用量から開始するなど慎重に用います。感染性下痢症のある人は原則禁止です。
- 適さないケース..重い呼吸抑制のある人、喘息発作中、慢性肺疾患に続発する心不全、けいれん状態、麻痺性イレウス、急性アルコール中毒、感染性下痢症、出血性大腸炎のある人など。
- 注意が必要なケース..心臓病、呼吸機能障害(喘息、慢性閉塞性肺疾患等)、腎臓病、肝臓病、前立腺肥大症などで尿の出の悪い人、腸に閉塞や通過障害のある人、胃腸の手術後、炎症性腸疾患、胆石、膵炎、潰瘍性大腸炎、クローン病などがある人、体の弱っている人、高齢の人など。
 【飲み合わせ・食べ合わせ】
- 飲酒量低減薬のナルメフェン(セリンクロ)とは併用できません。ナルメフェンによりこの薬の鎮痛作用が減弱したり、離脱症状を起こすおそれがあるためです。通常、この薬を優先しますが、ナルメフェン中止後1週間以内は避けなければなりません。ナルメフェン服用中に、この薬が必要になった場合は、少なくとも1週間前にナルメフェンを中断する必要があるわけです。
- 安定剤など脳の神経をしずめる薬と併用すると、いろいろな副作用がでやすくなります。眠気やふらつき、過度の鎮静、呼吸抑制、低血圧などに注意が必要です。
- 一部の安定剤や抗うつ薬(三環系)、胃腸薬(鎮痙薬)との併用により、便秘や排尿障害など副作用がでやすくなります。
- 抗凝血薬のワルファリンの作用を増強するおそれがあります。
- 鎮痛薬のブプレノルフィン(レペタン)またはペンタゾシン(ソセゴン)といっしょに飲むと、体調が悪くなったり、鎮痛作用が減弱するおそれがあります。
- 飲酒は控えてください。めまいや眠気、呼吸抑制などの副作用がでやすくなります。
 【使用にあたり】
- 医師の指示どおりに飲んでください。初回服用量は、痛みの程度、それまでの鎮痛薬の種類や使用量を考慮し医師が決めます。一般的には、少な目で開始します。そして、効果や副作用をみながら、至適用量まで徐々に増量します。
- 即放性のナルラピド錠は、1日4〜6回定時服用します。また、突発痛に頓服することもできます。
- 徐放性のナルサス錠は、1日1回定時服用に限ります。割ったり砕いたりせず、噛まずに飲んでください。
- 決められた用法・用量で痛みが治まらない場合は、遠慮なく医師に申し出てください。適宜増量することも可能です。逆に、痛みは消失するものの、眠気が強く昼間からうとうとしてしまうときは、薬の量が多すぎるかもしれません。この場合も、医師とよく相談してください。
- 長期服用後に中止する場合は、医師の指示のもと徐々に減量するようにします。
- 痛み止めとして他人にあげてはいけません。何らかの理由で、不用となった場合は、病院または薬局へ返却してください。
- 子供の手の届かないところに保管しましょう。
 【食生活】
- 眠気やめまいを起こしやすいです。車の運転をふくめ危険をともなう機械の操作や作業は避けてください。
- 強い眠気は過量のサインかもしれません。日常生活や仕事に支障となる場合は、早めに受信し医師に報告してください。たとえば会話中にうとうと眠こんでしまったり、目覚めてもつじつまが合わない会話をする場合などです。さらに、呼吸が浅く速いなど呼吸に異常がみられるなら、直ちに医師に連絡してください。

- 【備考】

- がん疼痛治療のお手本にWHO方式があります。痛みの強さを3段階に分け、段階的に鎮痛薬を選択する方法です。軽い痛みには、まず第1段として一般的な非オピオイド鎮痛薬(NSAIDs、アセトアミノフェン)を定時使用します。それで効果不十分な中くらいの痛みには、第2段階として弱オピオイド(コデイン、トラマドール)を追加します。さらに第3段階では、第1段階の薬剤に麻薬系の強オピオイド鎮痛薬(モルヒネ、オキシコドン、フェンタニル、タペンタドール、ヒドロモルフォン)を追加し定時使用します。定時薬使用中の突出痛に臨時に用いるのが即放性の強オピオイドいわゆるレスキュー薬です。
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効能 |
中等度から高度の疼痛を伴う各種癌における鎮痛 |
用法 |
 【即放錠(ナルラピド)】- <用法・用量>

- 通常、成人はヒドロモルフォンとして1日4〜24mgを4〜6回に分割経口服用する。なお、症状に応じて適宜増減する。
- <注意1.臨時追加服用として本剤を使用する場合>

- 疼痛が増強した場合や鎮痛効果が得られている患者で突発性の疼痛が発現した場合は、直ちに本剤の臨時追加服用を行い鎮痛を図ること。本剤の1回量は定時服用中のヒドロモルフォン塩酸塩経口製剤の1日用量の1/6〜1/4を経口服用すること。
- <注意2.定時服用時>

- 1日用量を4分割して使用する場合には、6時間ごとの定時に経口服用すること。1日用量を6分割して使用する場合には、4時間ごとの定時に経口服用すること。この場合、深夜の睡眠を妨げないように就寝前の服用は2回分を合わせて服用することもできる。

- 【徐放錠(ナルサス)】

- 通常、成人はヒドロモルフォンとして4〜24mgを1日1回経口服用する。なお、症状に応じて適宜増減する。
 【定時服用時の注意(ナルラピド、ナルサス)】- <1.初回服用>

- オピオイド鎮痛剤による治療の有無を考慮して初回服用量を設定すること。
(1)オピオイド鎮痛剤を使用していない患者/即放錠は1回1mg、1日4mgから開始、また徐放錠は1日4mgから開始し、鎮痛効果及び副作用の発現状況を観察しながら用量調節を行うこと。
(2)オピオイド鎮痛剤を使用している患者/他のオピオイド鎮痛剤から本剤に変更する場合には、前治療薬の服用量等を考慮し、服用量を決めること。本剤の1日用量は、ヒドロモルフォンとして、モルヒネ経口剤1日用量の1/5量を目安とすること。
(3)フェンタニル貼付剤を使用している患者/フェンタニル貼付剤から本剤へ変更する場合には、フェンタニル貼付剤剥離後にフェンタニルの血中濃度が50%に減少するまで17時間以上かかることから、剥離直後の本剤の使用は避け、本剤の使用を開始するまでに、フェンタニルの血中濃度が適切な濃度に低下するまでの時間をあけるとともに、本剤の低用量から服用することを考慮すること。
- <2.疼痛増強時>

- 疼痛が増強した場合や鎮痛効果が得られている患者で突発性の疼痛が発現した場合は、直ちにヒドロモルフォン塩酸塩等の即放性製剤の臨時追加服用を行い鎮痛を図ること。
- <3.増量>

- 本剤服用開始後は患者の状態を観察し、適切な鎮痛効果が得られ副作用が最小となるよう用量調整を行うこと。即放錠4mgから8mgへの増量(1日4回分割服用時)又は6mgから12mgへの増量(1日6回分割服用時)の場合を除き、増量の目安は使用量の30〜50%増とする。
- <4.減量>

- 連用中における急激な減量は、退薬症候があらわれることがあるので行わないこと。副作用等により減量する場合は、患者の状態を観察しながら慎重に行うこと。
- <5.服用の中止>

- 本剤の服用を中止する場合には、退薬症候の発現を防ぐために徐々に減量すること。
※用法用量は症状により異なります。医師の指示を必ずお守りください。 |
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副作用 |
眠け、吐き気、嘔吐や便秘などを起こしやすいです。重症化するのはまれですが、ひどいようでしたら早めに受診し医師と相談してください。眠けと吐き気は続けているうち体が慣れ軽くなるむものです。便秘は続くので下剤(通じ薬)で対処します。
異常に強い眠気がしたり、うとうと意識がもうろうとしてくる場合、薬の量が多過ぎるかもしれません。ことに高齢の人など、過量による呼吸抑制を起こしかねませんので要注意です。ご家族や周囲の方もその点に気をつけ、異変に気付いたら医師と連絡をとり指示をあおぎましょう。
長く続けていると、薬に頼りがちになることがあります。薬がないといられなくなり、このとき急に中止すると、不安、吐き気、発汗、頭痛や震えなど反発的な症状があらわれます。ただ、がん疼痛治療においては、強い依存は生じにくいとされます。心配し過ぎず、鎮痛効果が十分得られる必要最小量を用いることが大切です。
 【重い副作用】 ..めったにないですが、初期症状等に念のため注意ください
- 呼吸抑制..息切れ、呼吸しにくい、息苦しい、呼吸が浅く速い、呼吸が弱く少ない(10回/分未満)、不規則な呼吸、異常ないびき、意識がうすれる。
- 依存..長期に多めの量を飲み続けると、体が薬に慣れた状態になりやめにくくなる。このとき急に中止すると、いらいら、強い不安感、不眠、ふるえ、けいれん、混乱、幻覚など思わぬ症状があらわれることがある(徐々に減量すれば大丈夫)。
- 意識障害..うとうと、意識低下、混乱・もうろう状態、異常な言動。
- 麻痺性イレウス..食欲不振、吐き気、吐く、激しい腹痛、ひどい便秘、お腹がふくれる。
 【その他】
- 眠気、ぼんやり、めまい
- 吐き気、吐く、便秘、食欲不振
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