概説 |
C型慢性肝炎を治療するお薬です。インターフェロンとリバビリンと併用し、原因ウイルスを排除します。 |
作用 |
- 【働き】
- 肝臓病のおおよそ9割はウイルス性です。とくに、B型とC型ウイルスによる慢性肝炎が問題となります。慢性肝炎になると、良くなったり悪くなったりを繰り返しながら、長いあいだに一部が肝硬変へとすすみ、さらに肝臓がんに至ることもあります。この流れを絶つこと、あるいは遅らせるための治療が重要です。とくにC型ではウイルスの排除を第一に目指します。
このお薬は、C型肝炎ウイルスの増殖をおさえる抗ウイルス薬です。適応となるのは、治療が難しい遺伝子1型のC型慢性肝炎で、そのウイルス量が多い場合です。また、他の治療が無効または治療後再発した1型にも適用します。なお、ウイルス量が少ない1型および既存の治療法で十分な効果が得られる2型には適用しません。
治療にあたっては、単独ではなく、持続型インターフェロン製剤のペグインターフェロン(ペグイントロン皮下注用)と別の抗ウイルス薬のリバビリン(レベトールカプセル)と併用します。この3剤併用により、抗ウイルス作用が相加的に強まり、C型肝炎ウイルスを排除できる可能性が高まるのです。
- 【薬理】
- C型肝炎ウイルスの複製にかかわるプロテアーゼ(NS3-4Aプロテアーゼ)という酵素を阻害することで、ウイルスの増殖を強力に抑制します。とくに遺伝子1型(ジェノタイプ1型)に対する抑制作用が強いようです。そのような作用機序から、プロテアーゼ阻害薬(HCV NS3-4Aプロテアーゼ阻害薬)と呼ばれています。
- 【臨床試験】
- この薬を含む3剤併用療法の効果をプラセボ(にせ薬)と比較する臨床試験がおこなわれています。参加したのは、難治な1型(主に1b)のC型慢性肝炎でウイルス量が多い未治療の患者さん294人。全員が基礎薬として持続型インターフェロン(ペグイントロン)および抗ウイルス薬のリバビリンと併用することとし、98人はこの薬を3ヵ月間、別の98人はこの薬を6ヵ月間、残りの98人はプラセボを服用します。有効性を判定する評価項目は、投与終了6ヵ月後の持続的ウイルス陰性化率(SVR24)です。ウイルスの陰性化は、ウイルスが排除され、肝炎の完治が期待できることを意味します。
その結果、この薬を3ヵ月間飲んでいた人達(3剤併用)のウイルス陰性化率が84%(82/98人)、6ヵ月間飲んでいた人達で85%(82/97人)だったのに対し、プラセボの人達(2剤併用)では55%(54/98人)にとどまりました。この薬を加えた3剤併用療法により、3ヵ月間という短い期間で高い陰性化率が得られれたわけです。また、既存療法のあとに再燃した患者さんを対象とした別の臨床試験では、陰性化率が92%にのぼりました。さらに、インターフェロンなどによる既存療法で無効だった人達による試験でも62%の陰性化率が得られています。
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特徴 |
- 第二世代のプロテアーゼ阻害薬に分類される新しい抗ウイルス薬です。有効率が高いうえ、第一世代のテラプレビル(テラビック)に比べ副作用も少なめです。この薬をふくめた3剤併用療法は、C型慢性肝炎の難治例に対する有望な治療選択肢になりそうです。
- 難治な1型高ウイルス量のC型慢性肝炎の初回治療および再燃例において、80%以上の高いウイルス陰性化率が示されています。また、ウイルスの耐性変異型にもよりますが、既存のテラプレビルまたはシメプレビルを用いた3剤併用療法無効例においても一定の効果が期待できます。
- 胃腸障害がやや多くみられるものの ほとんどは軽度ないし中等度で、重い副作用は少ないです。標準療法とされるシメプレビルを含む3剤併用療法と同程度の有効性と安全性プロファイルをもつものと考えられています。
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注意 |
【診察で】
- 妊娠出産の予定のある女性、あるいはパートナーにその予定のある男性は、医師に申し出てください。
- 心臓病や貧血、うつ病など持病のある人は医師に伝えてください。
- 使用中の薬を医師に教えてください。飲み合わせの悪い薬がたくさんあります。
- 注意事項や副作用について十分説明を受けてください。併用薬をふくめ薬の性質をよく理解しておくことが大切です。
【注意する人】
- 妊婦中または妊娠の可能性のある女性は使用できません。併用薬のリバビリン(レベトール)に強い催奇形性の心配があるためです。
- 肝臓が弱っていると薬の代謝が遅れ、血中濃度が上昇しやすいです。このため、肝機能障害が著しい場合は使用できません。また、B型肝炎ウイルスに重複感染している人は、その再活性化に注意が必要です。
- 心臓病や貧血のある人など、病状によっては使用できないことがあります。高血圧や腎臓病、糖尿病、痛風のある人も慎重に用いる必要があります。
- 重いうつ病など精神症状の思わしくない人は、使用を控えることがあります。併用薬のインターフェロンにより、うつ症状が悪化するおそれがあるためです。
- 高齢の人は肝臓がんになりやすいので、3剤による治療を積極的におこないウイルスの排除をめざします。ただし、副作用がでやすく、また重症化しやすいので注意深く治療にあたる必要があります。
- 【飲み合わせ・食べ合わせ】
- いろいろな薬と相互作用を起こしやすい性質があります。飲み合わせによっては、この薬の効果がなくなってしまいます。逆に作用が増強し、副作用が強まるおそれもあります。使用中の薬は必ず医師に報告しておきましょう。また、別の病院で診察を受けるときも、この薬を飲んでいることを伝えてください。
- 結核などに用いる抗菌薬のリファンピシン(リファジン)とはいっしょに飲めません。併用により、この薬(バニヘップ)の血中濃度が大きく変動するおそれがあるためです。
- そのほか、抗菌薬のリファブチン(ミコブティン)、抗けいれん薬のフェノバルビタール(フェノバール)やフェニトイン(アレビアチン、ヒダントール)、カルバマゼピン(テグレトール)、健康食品のセイヨウオトギリソウ( セント・ジョーンズ・ワート)なども併用禁止です。いっしょに飲むと、この薬の血中濃度が著しく低下し効果が減弱する可能性があります。
- 逆に、この薬の血中濃度が上昇する飲み合わせもあります。たとえば、抗エイズウイルス薬のリトナビル(ノービア、カレトラ)やコビシスタット(スタリビルド)、ネルフィナビル(ビラセプト)、サキナビル(インビラーゼ)、アタザナビル(レイアタッツ)、ロピナビル・リトナビル(カレトラ)、抗生物質のクラリスロマイシン(クラリス、クラリシッド)、抗真菌薬のイトラコナゾール(イトリゾール)やボリコナゾール(ブイフェンド)、免疫抑制薬のシクロスポリン(サンディミュン、ネオーラル)、血小板増加薬のエルトロンボパグ(レボレード)などです。これらとの併用も避ける必要があります。同様の理由で、グレープフルーツジュースは飲まないようにしてください。
- 併用薬の血中濃度を上昇させる飲み合わせもたくさんあります。一例として、強心薬のジゴキシン(ジゴシン)、片頭痛治療薬のエルゴタミン(クリアミン)、免疫抑制薬のタクロリムス(プログラフ、グラセプター)やメトトレキサート(リウマトレックス、メソトレキセート)、コレステロール低下薬のシンバスタチン(リポバス)やアトルバスタチン(リピトール、カデュエット)、血糖降下薬のグリベンクラミド(オイグルコン、ダオニール)やナテグリニド(スターシス、ファスティック)などがあります。併用により、これらの薬の代謝が遅れ、重い副作用を起こすおそれがあるのです。
- 漢方薬の小柴胡湯はインターフェロンと併用禁止です。
【使用にあたり】
- 通常、1日2回、1回に2カプセルを飲みます。食事と関係なく飲めますが、時間は医師の指示どおりにしてください。服用期間は、未治療または再燃例で3ヵ月間(12週間)、前治療無効例で6ヵ月間(24週間)です。
- いずれの場合も、インターフェロンとリバビリンと併用しなければなりません。インターフェロンは週1回皮下注射します。リバビリンは、体重や腎臓の働き具合によって飲む量や飲み方が違います。これらの投与期間は6ヵ月間です。
- 薬の血中濃度を常に一定に保つと、ウイルスのダメージが大きくなります。したがって、飲み忘れなく毎日規則正しく飲み続けることが大事です。もし飲み忘れた場合は、担当の医師または薬剤師に相談してください。2回分を一度に飲んではいけません。
- 併用薬によるものをふくめ、いろいろな副作用がでやすいです。多くの場合、継続可能で治療が終われば治りますが、つらいときは医師とよく相談してください。
- 血球減少や貧血が著しい場合、あるいは精神的変調がみられる場合は、併用薬をふくめて減量や中止を検討しなければなりません。めまい、疲れやすい、息切れ、動悸、気分の落ち込み、不安感や不眠といった症状が気になるときは、早めに受診してください。
- 【検査】
- 頻回に血液や尿の検査を受ける必要があります。とくに注意しなければならないのは血球減少症と貧血です。ヘモグロビン濃度や白血球数、血小板数などが低減していないか調べます。
- 【妊娠・授乳】
- 併用薬のリバビリン(レベトール)に、強い催奇形性作用があることが知られています。このため、妊娠する可能性のある女性、あるいはパートナーに妊娠の可能性のある男性は、治療中および治療終了後6カ月間は避妊をしなければなりません。詳細については、レベトールを参照ください。
【食生活】
- この薬の作用に影響する健康食品のセイヨウオトギリソウ( セント・ジョーンズ・ワート)とグレープフルーツジュースの飲食は避けてください。
- 気分が不安定になるときは、直ちに医師に連絡してください。ご家族など付き添いの方も、服用後の様子を注意深く見守りましょう。抑うつや不眠、攻撃的になるなど精神的な変化や不穏な行為に注意してください。このような精神的変調はインターフェロンによることが多いです。
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効能 |
セログループ1(ジェノタイプI(1a)又はII(1b))のC型慢性肝炎における次のいずれかのウイルス血症の改善
- 血中HCV RNA量が高値の未治療患者
- インターフェロンを含む治療法で無効又は再燃となった患者
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用法 |
本剤は、ペグインターフェロン アルファ-2b(遺伝子組換え)及びリバビリンと併用すること。
- 血中HCV RNA量が高値の未治療患者、あるいはインターフェロンを含む治療法で再燃となった患者に使用する場合..通常、成人はバニプレビルとして1回300mgを1日2回、12週間経口服用する。
- インターフェロンを含む治療法で無効となった患者に使用する場合..通常、成人はバニプレビルとして1回300mgを1日2回、24週間経口服用する。
※用法用量は症状により異なります。医師の指示を必ずお守りください。 |
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副作用 |
副作用で比較的多いのは胃腸障害です。吐き気や嘔吐、おなかの不快感や腹痛、下痢または便秘などがあらわれます。ただ、その多くは軽度ないし中等度で、やめるほど重症化することはまずないと思います。胃腸薬などで対症療法をおこなえば、そのまま継続できることがほとんどです。
そのほか、併用薬のインターフェロンとリバビリンによる副作用にも注意が必要です。まず初めの1〜2週間に、インフルエンザのような症状があらわれます。発熱、悪寒、倦怠感、頭痛、痰、筋肉痛といった症状です。対症療法的に、解熱・鎮痛薬で対処可能ですので、つらいときは医師とよく相談してみてください。
リバビリンによる貧血も多くの人にあらわれます。倦怠感やめまい、息切れ、動悸などの症状に注意しましょう。動悸がひどいと心臓に負担がかかりますので、もともと心臓の悪い人は特に注意が必要です。ヘモグロビンの検査で、貧血の兆候があるときは併用薬のリバビリンを減量し、それ以上悪化しないようにします。
インターフェロンによるものと考えられますが、抑うつ症状あるいは躁状態など精神的な変調をきたすことがあります。気分の落ち込み、不安感、不眠、興奮、混乱、怒りっぽい、不穏な行動など、いつもと違う精神症状があらわれたら、すぐに医師と連絡をとってください。
【重い副作用】 ..めったにないですが、初期症状等に念のため注意ください
- 重い血液成分の異常..発熱、喉の痛み、口内炎、だるい、皮下出血(血豆・青あざ)や鼻血・歯肉出血など出血傾向。
- 重い貧血..息切れ、動悸、疲労、めまい、顔色が悪い。
- 精神変調..抑うつ(気分が落ち込む)、無気力、不安、不眠、怒りっぽい、興奮。
【その他】
- インフルエンザ様症状..発熱、悪寒、頭痛、倦怠感、筋肉痛、関節痛(おもにインターフェロンによるもので、たいてい1〜2週間で軽くなる)
- 食欲不振、吐き気、吐く、腹部不快感、腹痛、便秘、下痢、口内炎、口渇
- 発疹、発赤、かゆみ、皮膚乾燥、肌荒れ、脱毛
- 貧血、ヘマトクリット減少、赤血球数減少、白血球数減少、血小板数減少
- 頭痛、不眠、味覚異常、めまい
- 関節痛、筋肉痛、咳
- 高尿酸血症、甲状腺機能異常、ビリルビン増加
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