概説 |
エイズウイルスの増殖を抑えるお薬です。エイズの治療に用います。 |
作用 | 
- 【働き】

- エイズは、エイズウイルスの感染により起こる病気です。エイズウイルスは血液や精液を介してうつります。体に入ったエイズウイルスは、免疫系の細胞(白血球の一種のCD4リンパ球)を破壊しながら、徐々に増殖していきます。そして、体の免疫力がしだいに低下し、数年から十数年後に発症します。重い感染症にかかったり、リンパ腫などの悪性腫瘍に侵されやすくなり命にかかわることもあるのです。
このお薬は、エイズウイルスの増殖をおさえる抗ウイルス薬です。ウイルスの遺伝子が人の遺伝子に組み込まれるのを阻止する作用があります。ウイルスが減るとともに、免疫力が回復し、病状が改善します。また、エイズの発症や進行を遅らせ、長生きにもつながるのです。ただし、エイズウイルスを完全に死滅させることは困難です。したがって、生涯にわたり治療を続けなければなりません。
- ※エイズ:後天性免疫不全症候群
- ※エイズウイルス:ヒト免疫不全ウイルス(HIV)

- 【薬理】

- エイズウイルスのDNAが宿主(人)DNAに組み込まれる際に必要な酵素インテグラーゼを阻害します。これにより、ウイルスの複製を阻止し、新たな細胞への感染をくい止めます。

- 【臨床試験】

- この薬の有効性を検証するために、既存の類似薬のラルテグラビル(アイセントレス)と比較する臨床試験が行われています。参加したのは治療歴のない患者さん882人、どちらを飲むかはクジ引きで半々に分かれるようにし、併用薬は2種類のヌクレオシド系逆転写酵素阻害薬とします。効果判定の主要評価項目は1年後のウイルス量が検出限界以下(50コピー/mL未満)になった人の割合です。
その結果、ウイルス量検出限界以下になった人の割合は、この薬を飲んでいた人達で88%(361/411人)、ラルテグラビルの人達が81%(332/411人)でした。この薬が既存のラルテグラビルに劣ることはなく、同等以上の治療効果が確認できたわけです。また、すでに他の抗ウスルス薬による治療をおこなっている患者さんを対象にした別の臨床試験でも、ラルテグラビルに勝るとも劣らない有効性が示されています。
|
特徴 |
- インテグラーゼ阻害薬(INSTI)と呼ばれる新しいクラスの抗ウイルス薬です。抗ウイルス作用が強く、低用量で十分な効果が得られます。安全性が高く、副作用も少ないことから、初回治療ないし2次治療における主要薬(キードラッグ)として広く用いられるようになりました。初回治療においては、同系のラルテグラビル(アイセントレス)または標準薬のエファビレンツ(ストックリン)と同等ないしそれ以上の治療効果が示されています。
- 作用のしかたが違うので、これまでの抗ウイルス薬が効かない場合や副作用で使えないときにも有用です。従来の標準的治療法で効果不十分な場合でも、この薬を含めた多剤併用療法において約70%の有効率が示されています。また、別のインテグラーゼ阻害薬をふくむ併用療法による治療失敗経験のある患者さんにおいても、一定の効果が期待できます。耐性ウイルスの発現は少ないようですが、不規則な服薬では耐性を生じ効き目が落ちる可能性があります。
- 通常1日1回の服用で済み、食事とかかわりなく飲めるのも利点です。また、他の抗ウイルス薬に比べ相互作用を起こしにくく、飲み合わせの心配もそれほどありません。おもにグルクロン酸抱合により代謝されます。
- 作用増強と耐性回避のため、2種類のヌクレオシド系逆転写酵素阻害薬との併用治療が標準的です。推奨される併用薬は、テノホビル(ビリアード)とエムトリシタビン(エムトリバ)またはその配合剤のツルバダ(TDF/FTC)、アバカビル(ザイアジェン)とラミブジン(エピビル)またはその配合剤のエプジコム(ABC/3TC)、あるいはジドブジン(レトロビル)とラミブジン(エピビル)またはその配合剤のコンビビル(AZT/3TC)などです。
|
注意 |
 【診察で】
- 持病やアレルギーのある人は医師に伝えてください。
- 妊娠中もしくはその可能性のある人、また授乳中の人は申し出てください。
- 別に薬を飲んでいる場合は、必ず医師に報告しておきましょう。
- 注意事項や副作用について十分説明を受けてください。薬の性質をよく理解し、納得のうえで治療にあたりましょう。
- 体に異常を感じたら、どのようなことでも医師に報告してください。

- 【注意する人】

- 肝臓病(B型、C型肝炎等)のある人は、肝機能値の悪化に注意するなど慎重に用いるようにします。

- 【飲み合わせ・食べ合わせ】

- 一部の薬剤と相互作用を起こす可能性があります。飲み合わせによっては、この薬の効果が減弱し、治療の失敗につながります。使用中の薬を必ず医師に報告し、別の病気で受診のさいも この薬を飲んでいることを伝えてください。
- 抗不整脈薬のピルシカイニド(サンリズム)や糖尿病治療薬のメトホルミン(メトグルコ)の血中濃度を上昇させる可能性があります。併用中は副作用の発現に十分注意しなければなりません。メトホルミンは必要に応じ減量します。
- 非ヌクレオシド系逆転写酵素阻害薬のエファビレンツ(ストックリン)や結核・抗酸菌症治療薬のリファンピシン(リファジン)との併用により、この薬の血中濃度が低下するおそれがあります。併用のさいは、必要に応じ増量します(50mg1日1回→2回)。同様に、非ヌクレオシド系のエトラビリン(インテレンス)、ネビラピン(ビラミューン)、プロテアーゼ阻害薬のホスアンプレナビル(レクシヴァ)、抗けいれん薬のカルバマゼピン(テグレトール)やフェノバルビタール(フェノバール)、フェニトイン(アレビアチン、ヒダントール)、セイヨウオトギリソウ(セント・ジョーンズ・ワート)を含む健康食品などにも注意が必要です。
- マグネシウムやアルミニウムを含有する胃薬、または鉄やカルシウムを含む製剤と同時に飲むと、この薬の吸収が悪くなります。これらとの同時服用は避け、服用間隔をできるだけあけてください。
 【使用にあたり】
- 決められた飲み方を守りましょう。規則正しい服用は、薬の血中濃度を一定に保ち、ウイルスに増殖する“すき”を与えないために重要です。飲み忘れにも十分注意してください。抗エイズ薬の服薬率が95%を割ると、薬の効きにくい耐性ウイルスの出現が多くなるという報告があります。
- 通常、1日1回、1回に1錠(50mg)飲みます。他のインテグラーゼ阻害薬で十分効果が得られず、この薬に切り替える場合は1日2回にします。食事と関係なく服用可能です。
- 飲み忘れた場合は、気付いたときにすぐに飲んでください。ただし、次に飲む時間が近い場合は、1回分は抜かし次の通常の時間に1回分を服用してください。2回分を一度に飲んではいけません。
- 自分だけの判断で量を変えたり、飲むのをやめてはいけません。不用意な減量や中断は、薬の効き目を悪くし、治療を困難にします。

- 【検査】

- 効果判定のため、免疫細胞(CD4)の増加とウイルス量の低下を調べます。さらに、副作用をチェックするため、いろいろな検査を受けなければなりません。肝臓病のある人は、定期的に肝機能検査をおこないます。
 【妊娠・授乳】
- 妊娠中の服用については、医師とよく相談してください。この薬により赤ちゃんの感染リスクが減らせますが、安全性が確立されているわけではありません。治療上の有益性が催奇形性などの危険性を上回ると判断された場合にのみ使用されます。
- 妊娠中に推奨されるのは、主要薬はプロテアーゼ阻害薬のロピナビル・リトナビル配合剤(カレトラ)、基礎薬としてヌクレオシド系のジドブジン・ラミブジン配合剤(コンビビル)の組み合わせです。
- 授乳は避けてください。乳汁中に薬が移行するかもしれません。また、母乳中のエイズウイルスから赤ちゃんが感染するおそれがあります。

- 【食生活】

- エイズウイルスの感染力は非常に弱く、日常の社会的接触であれば感染することはありません。ただし、性的接触により感染の可能性があります。この薬を飲み始めても、その点には留意が必要です。
 【備考】
- エイズの薬は、大きく、逆転写酵素阻害薬、プロテアーゼ阻害薬、インテグラーゼ阻害薬(この薬)の3系統に分かれます。逆転写酵素阻害薬は、さらにヌクレオシド系と非ヌクレオシド系に分かれます。作用増強と耐性回避のため、これらを組み合わせる多剤併用療法が一般的です。現在、初回治療として推奨されるのは、2種類のヌクレオシド系逆転写酵素阻害薬をベースドラッグとし、これにキードラッグの非ヌクレオシド系逆転写酵素阻害薬、プロテアーゼ阻害薬と低用量リトナビル、またはインテグラーゼ阻害薬のいずれかを加える3剤ないし4剤併用療法です。このような多剤併用療法によりエイズの予後はたいへん改善し、より長生きできるようになりました。
- 免疫力が低下しエイズを発症すると、別のいろいろな感染症にかかりやすくなります。サイトメガロウイルス、カンジダ、ニューモシスチス(カリニ)・・ふつうなら感染しにくい微生物にまで侵されてしまうのです。このような2次感染症に対しては、抗菌薬、抗原虫薬、抗ウイルス薬、抗真菌薬などで強力な治療をおこないます。
|
効能 |
HIV感染症 |
用法 |

- 【用法】

- 通常、成人は以下の用法・用量で経口服用する。本剤は、食事の有無にかかわらず服用できる。服用に際しては、必ず他の抗HIV薬と併用すること。
(1)未治療患者、インテグラーゼ阻害薬以外の抗HIV薬による治療経験のある患者/ドルテグラビルとして50mgを1日1回経口服用する。
(2)インテグラーゼ阻害薬に対する耐性を有する患者/ドルテグラビルとして50mgを1日2回経口服用する。
なお、12歳以上及び体重40kg以上の未治療、インテグラーゼ阻害薬以外の抗HIV薬による治療経験がある小児患者には、ドルテグラビルとして50mgを1日1回経口服用できる。
 【用法関連の注意】- <未治療患者、インテグラーゼ阻害薬(INSTI)以外の抗ヒト免疫不全ウイルス(HIV)薬による治療経験のある患者>

- 本剤とエトラビリン(リトナビルでブーストしたアタザナビル、ダルナビル、ロピナビルと併用投与しない場合)、エファビレンツ、ネビラピン、カルバマゼピン、リファンピシン、フェニトイン、ホスフェニトイン、フェノバルビタール、セイヨウオトギリソウ(セント・ジョーンズ・ワート)含有食品を併用する場合は、本剤を50mg1日2回に増量投与すること。
<INSTIに対する耐性を有する患者>- 本剤とエトラビリンを併用する場合は、リトナビルでブーストしたアタザナビル、ダルナビル又はロピナビルのいずれかを併用投与すること。
- 本剤とエファビレンツ、ネビラピン、ホスアンプレナビルカルシウム水和物+リトナビル、カルバマゼピン又はリファンピシンを併用しないこと。
※用法用量は症状により異なります。医師の指示を必ずお守りください。 |
|
副作用 |
副作用は、エイズの薬としては少ないほうです。人によっては、吐き気や下痢、頭痛やめまい、不眠などがあらわれるかもしれません。重症化することはほとんどなく、軽い場合は治療を優先しなければなりません。
重い副作用として遅発性の過敏症の報告がありますが、その頻度はまれです。とくに肝臓病のある人は、肝機能値の悪化にも注意してください。そのほか、免疫機能の回復に伴う免疫再構築炎症反応症候群として 体にさまざまな異変を生じる可能性があります。いつもと違う症状があらわれたら、どのようなことでも医師に報告してください。
 【重い副作用】 ..めったにないですが、初期症状等に念のため注意ください
- 遅発性の重い過敏症状..発疹、発熱、だるい、吐き気、リンパ節の腫れ、皮膚や白目が黄色くなる。
 【その他】
- 吐き気、吐く、下痢
- 頭痛、めまい、不眠、変な夢を見る
- 肝機能値の異常
|