概説 |
B型肝炎ウイルスの増殖を抑えるお薬です。B型肝炎やB型肝硬変の治療に用います。 |
作用 | 
- 【働き】

- 肝臓病の多くはウイルス性です。とくにB型とC型ウイルス(HBV、HCV)による慢性肝炎が問題となります。慢性肝炎になると、良くなったり悪くなったりを繰り返しながら、長いあいだに一部が肝硬変へと進み、さらには肝臓がんに至ります。この流れを絶つことが治療の最大の目標です。B型ではその指標としてウイルス抗原(HBs抗原)の消失をめざします。
このお薬は、B型肝炎ウイルスに有効な抗ウイルス薬です。ウイルス遺伝子の複製過程を阻害し、ウイルスの増殖をおさえます。抗ウイルス療法が適応されるのは、ウイルス量(HBV DNA量)が多く、肝機能値(ALT値)が思わしくないB型慢性肝疾患に対してです。中高年の慢性肝炎に用ることが多いですが、若い人でも進行が早く沈静化の見通しがなければ処方対象になります。治療により、ウイルスが減少し肝機能値が正常化すれば、肝硬変や肝臓がんへの進展を止めることができるのです。

- 【薬理】

- ウイルスの遺伝子RNAをDNAに逆転写する酵素の働きを阻害します。これにより遺伝子の複製ができなくなり、ウイルスの増殖が抑制されるのです。このような作用から「逆転写酵素阻害薬」と呼ばれています。
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特徴 |
- 有効成分はアデホビル(略号ADV)。B型肝炎ウイルスに作用する抗ウイルス薬です。化学構造的に核酸系(ヌクレオシド系)になり、核酸アナログ(核酸類似物質)というカテゴリーに分類されます。ウイルス逆転写酵素を阻害する作用から、核酸系逆転写酵素阻害薬(NRTI)と呼ばれることもあります。
- 核酸アナログが適用となるのは、インターフェロン注射による初回治療で十分な効果が得られない慢性肝炎、あるいはインターフェロンが副作用などで使いにくい場合です。一方、肝硬変に対しては初めから使われます。核酸アナログは肝炎の沈静化にたいへん有益ですが、肝細胞内のウイルスを完全に排除するのは難しいです。このため、維持療法として服用期間は長めになります。
- 臨床試験で従来品のラミブジン(ゼフィックス)と同等の有効性が示され、長期使用における効果は中程度とされます。耐性ウイルスの出現は、ラミブジンほどではありませんが、長期使用によって出現する可能性があります。副作用として腎機能障害や低リン血症を起こしやすいので、核酸アナログ製剤として第一選択されることはありません。
- 特徴的なのは、ラミブジン(ゼフィックス)をはじめとする他の核酸アナログ製剤が効かない耐性ウイルス(YMDD変異ウイルス)にも有効ということです。したがって、そのような耐性ウイルスが出現した場合でも、この薬を追加、併用することで長期的なウイルスコントロールが可能となります。想定されるのは、ラミブジン(ゼフィックス)またはエンテカビル(バラクルード)耐性ウイルスに対する併用療法です。
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注意 |
 【診察で】
- 持病やアレルギーのある人は医師に伝えてください。
- 妊娠中もしくはその可能性のある人、また授乳中の人は申し出てください。
- 服用中の薬を医師に教えてください。
 【注意する人】
- 腎臓の働きが落ちていると、この薬の排泄が遅れ、高い血中濃度が持続します。腎機能が悪化するおそれもあります。腎臓が悪い人は、服用間隔を延ばすなど慎重に用います。
- 非代償性肝硬変への使用実績は少ないです。また、核酸アナログによる乳酸アシドーシスの報告があるため、注意深い経過観察が必要です。

- 【飲み合わせ・食べ合わせ】

- 解熱鎮痛薬のイブプロフェン(ブルフェン)との併用により、この薬の血中濃度が上昇したという報告があります。
 【使用にあたり】
- 用法・用量は医師の指示どおりにしてください。通常は1日1回1錠(10mg)になりますが、腎臓病のある人は服用間隔をあけることがあります。
- 飲み忘れた場合、気づいたときに直ちに服用してください。ただし、翌日に気づき次の服用時間が近ければ、その分は抜かし次の通常の時間に1回分を飲んでください。2回分を一度に飲んではいけません。
- B型肝炎では単剤による治療が基本ですが、他剤耐性ウイルスに対しては他の核酸アナログ製剤と併用することがあります。
- 治療終了時期は、医師により慎重に決められます。病状によっては生涯続けなければなりません。安易に中断すると、急激に病状が悪化するおそれがありますから、自分だけの判断でやめてはいけません。

- 【検査】

- B型肝炎では効果判定のため、肝機能値(ALT)やウイルス量、HBe抗原などを調べます。血中クレアチニンや血中リンなど腎機能にかかわる検査も重要です。

- 【妊娠・授乳】

- 妊娠にかかわる安全性は確認されていません。妊娠中は避けることが望ましいのですが、治療上の有益性がより高いと判断されれば、妊娠中でも処方されるかもしれません(FDA薬剤胎児危険度分類基準:カテゴリーC)。万全のため、服用中に妊娠しないように適切な方法で避妊してください。

- 【食生活】

- B型肝炎ウイルスの感染力は概して弱く、ふつうの社会的な接触であれば感染することはありません。ただし、血液を介したり、性的接触により感染するおそれがあります。この薬を飲んでいたとしても、その点に留意してください。
 【備考】
- B型肝炎の治療薬は2種類に大別されます。この薬をふくむ核酸アナログ製剤とインターフェロン製剤です。どちらかを、治療歴、抗原の状態、ウイルス量、線維化進展度、年齢などを考慮し、適切に使いわけます。薬が不要になることを目指す2種併用療法(シークエンシャル療法)も試みられます。
- 核酸アナログ製剤でB型肝炎に保険適用となるのは、ラミブジン(ゼフィックス)、アデホビル(ヘプセラ:この薬)、エンテカビル(バラクルード)、テノホビル ジソプロキシル (テノゼット)、テノホビル アラフェナミド(ベムリディ)の5製剤です。最初に発売されたラミブジンは耐性ウイルスが発現しやすいのが欠点です。薬が効かない変異ウイルス(YMDD)の増殖により、よくなった肝機能値が再び悪化してしまうのです。アデホビルは、そのような変異ウイルスにも有効で、変異ウイルスの出現時にラミブジンと併用するようにします。エンテカビルとテノホビルは、耐性ウイルスを生じにくく治療効果にも優れるため、核酸アナログ製剤として第一選択されるようになりました。
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効能 |
B型肝炎ウイルスの増殖を伴い肝機能の異常が確認されたB型慢性肝疾患におけるB型肝炎ウイルスの増殖抑制 |
用法 |
通常、成人はアデホビル ピボキシルとして、1回10mgを1日1回経口服用する。
※用法用量は症状により異なります。医師の指示を必ずお守りください。 |
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副作用 |
人によっては、吐き気や腹痛など胃腸症状がみられます。重い副作用の発現頻度はまれですが、ファンコニー症候群をふくめ重度の腎機能障害、骨軟化症、乳酸アシドーシスなどを起こすことがあります。骨軟化症から骨折に至った事例も報告されているようです。もし骨の痛み、関節痛、筋力低下などかあらわれたら医師に連絡してください。とくに、もともとむ腎臓の悪い人は要注意です。それと、服用中止後に肝機能が悪化するケースがありますから、治療終了後もしばらくのあいだ、定期的な検査が必要です。
 【重い副作用】 ..めったにないですが、初期症状等に念のため注意ください
- 腎臓の重い症状..尿が少ない・出ない、尿の濁り・泡立ち、血尿、むくみ、だるい、吐き気、側腹部痛、腰痛、発熱、発疹。
- 骨軟化症、骨折..骨痛、関節痛、筋力低下。
- 乳酸アシドーシス・肝腫大..息苦しい、脱力、筋肉痛、吐き気、下痢、、歩けない、意識がうすれる、腹部が張る。
 【その他】
- 気持ちが悪い、吐き気、腹痛、下痢
- 腎機能値の悪化(クレアチニン増加、血中リン減少)
- 頭痛
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