概説 |
白血病を治療するお薬です。慢性骨髄性白血病に用います。 |
作用 | 
- 【働き】

- 血液は骨のなかの骨髄の造血幹細胞からつくられます。慢性骨髄性白血病は、造血幹細胞ががん化し、白血球の一種の顆粒球が異常増殖する病気です。進行すると、正常な血球ができなくなり、貧血や出血、感染症などを引き起こし命を脅かします。
このお薬は、がん化した白血病細胞の増殖をまねくBcr-Ablチロシンキナーゼという蛋白のはたらきを阻害することにより、異常な血球の産生を抑え血液を正常化させます。寛解に導き、急性転化(急激な悪化)を回避することにより、より長生きできる可能性が高まるのです。
初発の慢性骨髄性白血病をはじめ、移行期または急性転化期にも使用できます。1次治療薬として初めから使われるほか、従来薬のイマチニブ(グリベック)、ダサチニブ(スプリセル)あるいはニロチニブ(タシグナ)が効果不十分または副作用などで使用できない場合にも使用可能です。

- 【薬理】

- 慢性骨髄性白血病の大部分の患者さんに見つかるのが、フィラデルフィア染色体と呼ばれる不正な染色体です。この染色体のもとBCR-ABL融合遺伝子が形成され、これがBcr-Ablチロシンキナーゼという異常な蛋白を産生します。Bcr-Ablチロシンキナーゼは慢性骨髄性白血病の病因ともいえ、がん細胞増殖の引き金となるシグナルを送る役目をしています。
この薬は、Bcr-Ablチロシンキナーゼに結合し、細胞増殖を促すシグナル伝達を遮断します。通常型のBcr-Ablチロシンキナーゼにくわえ、イマチニブ耐性の変異型Bcr-Ablチロシンキナーゼに対しても阻害活性を示します。さらに、下流のシグナル伝達にかかわるSrcチロシンキナーゼを阻害することも分かっています。チロシンキナーゼはリン酸化をもたらす一種の酵素であり、これを阻害する作用からチロシンキナーゼ阻害薬あるいはチロシンキナーゼインヒビターなどと呼ばれています。

- 【臨床試験】

- この薬の効果を、従来の標準薬イマチニブ(グリベック)と比較する試験が行われています。参加したのは初発の慢性期の慢性骨髄性白血病の患者さん約500人。そして、服薬1年時点における大寛解率を調べます。大寛解(MMR)は白血病細胞がゼロに近づき病状が落ち着いている状態です。結果は、この薬の大寛解率は47%(116/246人)、イマチニブでは37%(89/241人)でした。この薬のほうが10%ほど高く、イマチニブより効果が高いと証明されたわけです。さらに、別の試験ではイマチニブなど他の同類薬に抵抗性の慢性期、移行期または急性転化期における有効性も検証されています。
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特徴 |
- 「分子標的薬」と呼ばれる新しいタイプの抗がん薬です。がん細胞の増殖を指令するシグナル伝達経路を分子レベルで遮断します。この薬の標的分子(蛋白)は、白血病細胞増殖の最初の伝達ポイントとなるBcr-Ablチロシンキナーゼです。
- チロシンキナーゼを阻害し、基質のチロシンリン酸化を妨げる作用から広く「チロシンキナーゼ阻害薬」と呼ばれています。Bcr-Ablチロシンキナーゼを阻害する類似薬として、イマチニブ(グリベック)、ダサチニブ(スプリセル)、ニロチニブ(タシグナ)が販売済みです。
- 作用的にはイマチニブとほぼ同じですが、イマチニブ耐性の変異型Bcr-Ablチロシンキナーゼに対しても阻害活性を示し、さらに下流のシグナル伝達経路に位置するSrcチロシンキナーゼを阻害することも分かっています。イマチニブなど前治療薬に抵抗性の慢性骨髄性白血病に対しても一定の効果が期待できることから、2次治療または3次治療にも用いられます。
- 分子標的薬はがん細胞の特定の分子だけを阻害するため、腫瘍選択性が低い従来の抗がん薬に比べ安全性の向上がはかれます。とくに、この薬はBcr-AblおよびSrcチロシンキナーゼに対する高選択性に着目して開発されました。副作用の軽減が期待され、イマチニブを飲み続けられない不耐容の患者さんにも処方可能です。ただし、下痢や肝機能障害の発現率はむしろ高く、また骨髄抑制、体液貯留などの副作用に注意が必要なことに変わりありません。
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注意 |
 【診察で】
- 持病のある人は医師に伝えておきましょう。
- 服用中の薬を医師に教えてください。
- 妊娠中もしくはその可能性のある人、また授乳中の人は医師に伝えてださい。妊娠中は使用できません。
- 注意事項や副作用を含め、医師から この薬の有効性や安全性について十分説明を受けてください。薬の性質をよく理解し、納得のうえで治療にあたりましょう。

- 【注意する人】

- 肝臓病や腎臓病のある人は血中濃度が上昇しやすいです。このため、減量を考慮するなど慎重に用いるようにします。また、心臓病があれば心電図検査などで病状のチェックをおこないます。また、B型肝炎ウイルスに感染したことのある人は、その再活性化に注意が必要です。
- 注意が必要なケース..肝臓病、腎臓病、心臓病、同類薬(チロシンキナーゼ阻害薬)による副作用歴のある人、B型肝炎既往歴またはB型肝炎ウイルスをもっている人、高齢の人など。

- 【飲み合わせ・食べ合わせ】

- 飲み合わせによっては、この薬の血中濃度が上昇し、副作用がでやすくなります。逆に血中濃度が低下し、有効性が低下することもあります。服用中の薬は必ず医師に報告しておきましょう。また、別の病院で診察を受けるときも、この薬を飲んでいることを伝えてください。
- この薬の血中濃度を上昇させる薬剤として、たとえばマクロライド系抗生物質のクラリスロマイシン(クラリス、クラリシッド)とエリスロマイシン(エリスロシン)、アゾール系抗真菌薬のイトラコナゾール(イトリゾール)、フルコナゾール(ジフルカン)、ボリコナゾール(ブイフェンド)、高血圧・狭心症・不整脈治療薬のジルチアゼム(ヘルベッサー)とベラパミル(ワソラン)、エイズの治療に用いるプロテアーゼ阻害薬(ノービア、カレトラ、レイアタッツ、プリジスタ、レクシヴァ、スタリビルド)などがあります。また、グレープフルーツにも同様の性質があることが知られています。これらとの併用はできるだけ避け、相互作用のない他の薬剤への代替が望ましいのですが、治療上やむを得ず併用する際は、この薬(ボスチニブ)の減量を考慮するとともに、副作用の発現に十分注意する必要があります。
- 逆に、血中濃度を低下させる薬剤に、結核・抗酸菌症治療薬のリファンピシン(リファジン)とリファブチン(ミコブティン)、抗けいれん薬のフェノバルビタール(フェノバール)やフェニトイン(アレビアチン、ヒダントール)、カルバマゼピン(テグレトール)、ステロイド薬のデキサメタゾン(デカドロン)、睡眠障害治療薬のモダフィニル(モディオダール)、抗エイズウイルス薬のエファビレンツ(ストックリン)やエトラビリン(インテレンス)、肺高血圧症治療薬のボセンタン(トラクリア)、免疫抑制薬のシクロスポリン(サンディミュン、ネオーラル)などがあります。薬ではありませんが、健康食品のセイヨウオトギリソウ(セント・ジョーンズ・ワート)にも同様の性質があります。これらとの併用はできるだけ避け、相互作用のより少ない薬剤への代替を考慮するようにします。
- ランソプラゾール(タケプロン)などプロトンポンプ阻害作用をもつ強力な制酸薬(胃薬)と併用すると、この薬の吸収が低下する可能性があります。このためプロトンポンプ阻害薬との併用は可能な限り避けなければなりません。その他の制酸薬については、服用時間をずらすなどで影響をなくせるかもしれません。市販薬をふくめ胃薬を飲んでいる場合は、医師とよく相談してください。
 【使用にあたり】
- 病状によって飲む量が違います。決められた飲み方を厳守してください。通常、1日1回、食後に4〜5錠(400〜500mg)服用します。腎臓や肝臓が悪い人は少なめになることがあります。
- 大事な薬ですから飲み忘れに注意しましょう。もし、飲み忘れた場合は、そのぶんは抜かし、次の決められた時間に1回分を飲んでください。絶対に2回分を一度に飲んではいけません。
- 発熱、動悸、息切れ、咳、むくみ、急激な体重増加、出血など、いつもと違う症状があらわれたら医師に伝えてください。副作用の程度により、減量または一時休止することがあります。

- 【検査】

- 副作用や効果をチェックするため、飲み始めは頻繁に、その後も定期的に検査を受けなければなりません。血液検査、肝機能検査、腎機能検査をはじめ、体重測定や心電図検査も重要です。
 【妊娠・授乳】
- おなかの赤ちゃんの発育に悪い影響をおよぼすおそれがあります。そのため、妊娠中は禁止です。また、妊娠可能な女性は、服用中および中止後一定期間は妊娠しないように適切な方法で避妊してください。
- 授乳しないことが望ましいです。母乳に薬が移行する可能性があります。
 【食生活】
- めまいがしたり、目がかすんで見えることがあります。車の運転をふくめ危険をともなう機械の操作や高所作業はしないでください。
- 健康食品やハーブティーとして販売されているセイヨウオトギリソウ(セント・ジョーンズ・ワート)と、グレープフルーツジュースなどグレープフルーツ含有食品の飲食は避けてください。この薬の作用に影響するおそれがあるためです。それと、むくみの副作用予防に、塩分は控えめにしたほうがよいかもしれません。
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効能 |
慢性骨髄性白血病 |
用法 |
通常、成人はボスチニブとして1日1回500mgを食後経口服用する。ただし、初発の慢性期の慢性骨髄性白血病の場合には、1回服用量は400mgとする。なお、患者の状態により適宜増減するが、1日1回600mgまで増量できる。
※用法用量は症状により異なります。医師の指示を必ずお守りください。 |
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副作用 |
吐き気や嘔吐、下痢、発疹、むくみ、頭痛、発熱など、いろいろな副作用がでやすいです。あわてないよう、事前に医師から十分説明を受けておきましょう。軽い副作用の場合、治療を優先しなければならないことも多いです。
副作用でもっとも重要なのが骨髄抑制にともなう血球の減少です。白血球が極端に減少すると、体の抵抗力がひどく落ちて感染症にかかりやすくなります。また、血小板減少により出血を生じることもあります。発熱やのどの痛み、あるいは歯茎出血・皮下出血など出血傾向に注意しましょう。
胸水をはじめとする体液貯留も比較的多い副作用です。典型的な症状は、息苦しさ、むくみ、お腹のはり、急激な体重増加などです。ほかにも、肝機能障害、膵炎、不整脈(QT間隔延長)や間質性肺疾患など注意を要する副作用があります。下記のような初期症状をふまえ、なにか普段と違う「おかしいな」と感じたら、すぐ医師と連絡をとってください。
 【重い副作用】 ..めったにないですが、初期症状等に念のため注意ください
- 肝臓の障害..だるい、食欲不振、吐き気、発熱、発疹、かゆみ、皮膚や白目が黄色くなる、尿が茶褐色。
- 重度の下痢..下痢が続く、腹痛
- 骨髄抑制(血球減少)..発熱、ひどい疲労感、のどの痛み、皮下出血(血豆・青あざ)や鼻血・歯肉出血など出血傾向、息切れ、動悸。
- 出血(脳出血、硬膜下出血、消化管出血)..激しい頭痛、片側の麻痺、うまく話せない、腹痛、下血(黒いタール状の便)、吐血。
- 重い感染症..発熱、寒気、だるさ、食欲不振、のどの痛み、咳や痰、息苦しい、嘔吐、下痢、皮膚発赤・小水疱・ピリピリ痛い、水ぶくれ、できもの。
- 体液貯留(胸水、肺水腫、腹水、心不全)..息苦しい、胸苦しい、咳、むくみ、お腹のはり、急な体重増加。
- 狭心症、心筋梗塞、不整脈、心不全..締め付けられるような胸の痛み、冷汗、動悸、脈の乱れ、めまい、失神、息苦しい、むくみ、体重増加。
- 膵炎..吐き気、吐く、持続的な激しい腹痛、上腹部または腰から背中の激痛、発熱。
- 間質性肺炎..から咳、息苦しさ、少し動くと息切れ、発熱。
- 腎不全..尿が少ない・出ない、むくみ、尿の濁り、血尿、だるい、吐き気、頭痛、のどが渇く、けいれん、血圧上昇。
- 肺高血圧症..少しの運動で息切れ、疲れやすい、胸の痛み、めまい、失神。
- 腫瘍崩壊症候群..全身のむくみ、尿が少ない・出ない、血尿、脇腹の痛み。
- 重い皮膚・粘膜障害..発疹、発赤、水ぶくれ、うみ、皮がむける、皮膚の熱感や痛み、かゆみ、唇や口内のただれ、のどの痛み、目の充血、発熱、全身けん怠感。
 【その他】
- 下痢、吐き気、嘔吐、腹痛、食欲減退、便秘
- 頭痛、疲労、発熱、体重減少
- 発疹、かゆみ、肌荒れ
- 浮腫、高血圧
- 肝機能異常、腎機能異常
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