概説 |
がんの増殖を抑えるお薬です。大腸がんや肝がんの治療に用います。 |
作用 |  【働き】- <1.大腸がん>

- 大腸は大きく結腸と直腸に分かれます。そこに発生するがんの総称が大腸がんです。大腸がんの治療は切除を基本としますが、手術ができない場合や再発がんに対しては、いくつかの抗がん薬を組み合わせた化学療法(FOLFOX療法、FOLFIRI療法等)をおこないます。ただ、抗がん薬には限界があり、その効果はある一定の期間使用すると薄れてくるものです。その抗がん薬に抵抗力をもつ一部のがん細胞が再び増えてくるからです。
このお薬は血管新生阻害作用をもつ新しいタイプの抗がん薬です。がんを養う血管の新生をじゃまして、がんの勢いをなくします。増殖に必要な酸素や栄養の供給を止めて兵糧攻めにするわけです。昔からの抗がん薬とは効きかたが違うため、標準的な化学療法が効かなくなった場合でも有効です。このため、標準治療のあとに悪化した進行・再発大腸がんの治療に用います。がんの進行を遅らせ、より長生きできる可能性があります。
- <2.消化管間質腫瘍>

- 消化管間質腫瘍(GIST)は、食道や胃、小腸、大腸などの消化管粘膜の下層に発生する腫瘍です(一般的な粘膜がんとは異なります)。悪性の場合、肝臓に転移することも多いです。
このお薬は、消化管間質腫瘍の増殖を促すキナーゼという酵素のはたらきを阻害します。そして、病気の進行を遅らせ、よい状態を長く保ちます。初めから使うのではなく、既存薬のイマチニブ(グリベック)やスニチニブ(スーテント)の効き目が落ち、病状が悪化したら使用します。
- <3.肝がん>

- 肝がんの治療は、肝切除、ラジオ波焼灼、エタノール注入療法、あるいは局所的な肝動脈化学塞栓療法などで根治をめざします。けれど、病状が進行し大きな腫瘍がたくさんできてしまうと、それらは困難です。この場合、抗がん薬による全身療法が検討されますが、従来の抗がん薬の効き目は今一つです。
このお薬は、がん細胞の増殖にかかわる酵素の働きを阻害する新しいタイプの抗がん薬です。昔からの抗がん薬とは効きかたが違うため、手術や局所療法ができない進行した肝がんに対しても一定の効果が期待できます。効き方には個人差がありますが、より長生きできる可能性があります。

- 【薬理】

- 大腸がんや消化管間質腫瘍は、栄養をとる血管をつくりながら増殖します。この薬は、血管新生を促進するキナーゼと呼ばれるある種の酵素(VEGFR、TIE2)を阻害することでにより抗腫瘍効果を発揮します。ほかにも、がん増殖に関与するさまざまなキナーゼ酵素群(PDGFRβ、FGFR、KIT、RET、RAF-1、BRAF)を阻害することが示されており、がんの進行抑制に寄与していると推察されます。このような作用から、マルチキナーゼ阻害薬と呼ばれています。
 【臨床試験】- <1.大腸がん>

- この薬の効果をプラセボ(にせ薬)と比較する国際共同臨床試験が行われています。参加したのは標準的化学療法をおこなったあとに病勢が進行した転移性大腸がんの患者さん760人。うち505人はこの薬を、別の255人はプラセボを服用し、それぞれの「生存期間」を比較します。振り分けは偏りがないようにくじ引きでおこない、どちらを飲むか患者さんには内緒です。
その結果、この薬を飲んでいた人達の生存期間の中央値は196日でした。一方、プラセボでは151日にとどまりました。この薬を飲んでいた人達のほうが生存期間が明らかに延長し、プラセボを上回る延命効果が確認できたわけです。安全性についても想定内で、副作用の管理もほとんどの人で可能でした。
- <2.肝がん>

- 肝細胞がんに対する試験もおこなれています。参加したのは、ソラフェニブ(ネクサバール)による治療後に病状が悪化した切除不能な肝細胞がんの患者さん573人。そして、この薬を飲む人とプラセボ(にせ薬)を飲む人に分かれ、それぞれの「生存期間」を比較するのです。
その結果、この薬を飲んでいた人達の生存期間の中央値は323日、プラセボで237日でした。これは試験期間中の死亡リスクが37%低下したことを意味します。また、亡くなった人の割合はこの薬で62%(233/379人)、プラセボで72%(140/194人)でした。この薬を飲んでいた人達のほうが生存期間が明らかに延長し、二次治療としての有用性が証明されたわけです。
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特徴 |
- いわゆる分子標的治療薬です。がんの増殖過程における指令系統を分子レベルでブロックします。標的分子は、血管新生や細胞増殖にかかわるキナーゼと呼ばれる酵素群。機能が異なる複数のキナーゼを阻害することから、マルチキナーゼ阻害薬と呼ぶこともあります。化学構造はビアリル尿素系化合物のソラフェニブ(ネクサバール)と似ています。
- 進行・再発大腸がんの新たな治療選択肢になります。基本的に初期治療には用いません。処方が検討されるのは、標準的な抗がん薬による一次治療と二次治療(FOLFOX療法、FOLFIRI療法等)または三次治療(セツキシマブ等)をおこなったあとに病状が悪化した場合です。
- 切除不能な肝がんに対する効能が新たに加わりました。ソラフェニブ(ネクサバール)に次ぐ二次全身療法として生存期間の延長が認められた初めてかつ唯一の治療薬です。
- 一般的な抗がん薬でしばしば問題となる骨髄抑制にともなう血液障害の副作用は心配ないようです。一方で、手足症候群、高血圧、出血、肝機能障害など特異な副作用が多くみられます。
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注意 |
 【診察で】
- 持病やアレルギーのある人は医師に伝えておきましょう。
- 服用中の薬を医師に教えてください。
- 妊娠中もしくはその可能性のある人、また授乳中の人は医師に伝えてださい。妊娠中は使用できません。
- 有効性だけでなく、副作用や注意事項についても十分に説明を受けてください。薬の性質をよく理解し、納得のうえで治療にあたりましょう。

- 【注意する人】

- 病気によっては、その病状を悪化させるおそれがあります。重い肝臓病または高血圧症など循環器系に病気のある人は慎重に用いるようにします。妊娠中は服用禁止です。
- 適さないケース..妊娠中。
- 注意が必要なケース..重い肝臓病、高血圧、心臓病、脳転移のある人、手術前、手術後まもない人、高齢の人など。

- 【飲み合わせ・食べ合わせ】

- 飲み合わせによっては、この薬の効果に影響する可能性があります。服用中の薬は必ず医師に報告しておきましょう。また、別の病院で診察を受けるときも、この薬を飲んでいることを伝えてください。
- 相互作用を起こしやすい薬剤として、アゾール系抗真菌薬のイトラコナゾール(イトリゾール)やマクロライド系抗生物質のクラリスロマイシン(クラリス、クラリシッド)、あるいは抗結核薬のリファンピシン(リファジン)、抗けいれん薬のフェノバルビタール(フェノバール)、フェニトイン(アレビアチン、ヒダントール)、カルバマゼピン(テグレトール)などがあげられます。これらは避けたいところですが、併用するなら体調の変化や副作用の発現に十分注意します。
 【使用にあたり】
- 決められた飲み方を守ってください。ふつう、1日1回4錠(160mg)を食後に飲みます。3週間毎日服用したあと、1週間飲まないで休薬します。その後同様に3週間服用、1週間休薬のサイクルを繰り返します。副作用がひどい場合、医師の判断で適宜減量または休薬することがあります。
- 飲む時間は食後にしてください。空腹時では吸収が悪いです。また、服用前の高脂肪食も薬の吸収に影響する可能性があります。高脂肪食とは、多量の肉や卵、乳製品、揚げ物など脂肪分の多い食事のことです。卵1個、牛乳1本くらい含む普通の和食の範囲でしたら、それほど気にしなくてよいと思います。
- 飲み忘れた場合、気づいたときに直ちに服用してください。ただし、翌日に気づき次の服用時間が近ければ、その分は抜かし次の通常の時間に1回分を飲んでください。2回分を一度に飲んではいけません。
- 手足の発疹や発赤、血圧上昇、出血、黄疸など、この薬を服用中にいつもと違う症状があらわれたら、すぐに医師に連絡してください。

- 【検査】

- 効果や副作用をチェックするため、定期的に検査を受けなければなりません。肝機能、尿蛋白、甲状腺機能、血液や血圧などに異常がないか調べます。血圧は、診察の日に必ず測ってもらいましょう。

- 【妊娠・授乳】

- 動物実験で奇形を作る作用が強いことが分かっています。妊娠中もしくはその可能性のある女性は使用できません。また、治療中は妊娠しないように適切な方法で避妊してください。
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効能 |

- 【効能A】

- 治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸癌
- 本剤の一次治療及び二次治療における有効性及び安全性は確立していない。
- 本剤の術後補助化学療法における有効性及び安全性は確立していない。

- 【効能B】

- がん化学療法後に増悪した消化管間質腫瘍
- イマチニブ及びスニチニブによる治療後の患者を対象とすること。
- 本剤の手術の補助化学療法としての有効性及び安全性は確立していない。

- 【効能C】

- がん化学療法後に増悪した切除不能な肝細胞癌
- 局所療法(経皮的エタノール注入療法、ラジオ波焼灼療法、マイクロ波凝固療法、肝動脈塞栓療法/肝動脈化学塞栓療法、放射線療法等)の適応となる肝細胞癌患者に対する本剤の有効性及び安全性は確立していない。
- 本剤の一次治療における有効性及び安全性は確立していない。
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用法 |
通常、成人はレゴラフェニブとして1日1回160mgを食後に3週間連日経口服用し、その後1週間休薬する。これを1サイクルとして服用を繰り返す。なお、患者の状態により適宜減量する。
※用法用量は症状により異なります。医師の指示を必ずお守りください。 |
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副作用 |
半分くらいの人にあらわれるが手足症候群です。手の平や足の裏などに皮疹や紅斑があらわれ、痛みをともなうこともあります。塗り薬で治療すれば多くは継続可能ですが、症状がひどいときは、減量もしくは休薬しなければなりません。
次に多いのが、下痢や吐き気など消化器症状、それと高血圧です。高血圧に対しては降圧薬で対処できます。ただ、まれなケースとして急激な血圧上昇と全身症状をともなう重篤な高血圧クリーゼも報告されています。油断できませんので、こまめに血圧測定をおこなうなど血圧の管理が重要です。
血管新生阻害作用あるいは血小板減少にともない、出血しやすくなったり、傷口が治りにくくなることもあります。鼻血など軽い出血がほとんどですが、命にかかわるような消化管出血や脳出血が起こらないとも限りません。出血がみられる場合は、医師に報告し指示をあおいでください。
ほかにも、重い肝障害や肝不全、皮膚障害、消化管穿孔、心筋梗塞などが報告されているようです。下記のような初期症状をふまえ、なにか普段と違う「おかしいな」と感じたら、すぐ病院スタッフに連絡してください。予防のために、定期的な検査も欠かせません。
 【重い副作用】 ..めったにないですが、初期症状等に念のため注意ください
- 手足症候群..手の平や足の裏の皮疹、紅斑、腫れ、水ぶくれ、皮がむける、痛み。
- 重い皮膚・粘膜障害..発疹、発赤、水ぶくれ、うみ、皮がむける、皮膚の熱感や痛み、かゆみ、唇や口内のただれ、のどの痛み、目の充血、発熱、全身けん怠感。
- 肝臓の障害..だるい、食欲不振、吐き気、発熱、発疹、かゆみ、皮膚や白目が黄色くなる、尿が茶褐色。
- 重い出血..鼻血、血尿、青あざ、血豆、血痰、血液便、吐血、脳出血(頭痛、ふらつき、手足のしびれ・まひ、しゃべれない、顔がゆがむ、意識がうすれる)。
- 高血圧クリーゼ..急激な血圧上昇、頭痛、吐き気、意識がうすれる。
- 白質脳症..頭痛、もの忘れ、ボーとする、歩行時のふらつき、手足のしびれ・まひ、うまく話せない、動作がにぶる、けいれん、二重に見える、見えにくい。
- 消化管穿孔..激しい腹痛、持続する腹痛、下痢、血液便。
- 狭心症、心筋梗塞、心不全..胸の痛み・違和感・圧迫感、冷汗、締め付けられるような胸の痛み、息苦しい、むくみ、体重増加。
- 間質性肺炎..から咳、息苦しさ、少し動くと息切れ、発熱。
- 血小板、好中球や白血球など血球減少..発熱、のどの痛み、口内炎、咳、だるい、息切れ、動悸、疲労、めまい、顔色が悪い、出血傾向(皮下出血、鼻血、歯肉出血、血尿)、血便、吐血。
- 動脈解離..胸または背中の激痛 、激しい腹痛
 【その他】
- 発疹、肌荒れ、かゆみ、脱毛
- 高血圧、頻脈、動悸
- 下痢、便秘、食欲不振、吐き気、嘔吐
- 口内炎、味覚異常、口内乾燥
- 発声障害、嗄声
- 関節痛、筋肉のつっぱり・こわばり
- 血小板減少、低リン酸血症、肝機能異常、蛋白尿、甲状腺機能低下
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