概説 |
肺がんを治療するお薬です。ALK遺伝子またはROS1遺伝子に変異がある非小細胞肺がんに用います。 |
作用 | 
- 【働き】

- 肺がんは、組織の型あるいは薬の効き具合など治療上の観点から、小細胞肺がんと、非小細胞肺がんに大別されます。非小細胞肺がんは、さらに がん遺伝子の変異別にEGFR遺伝子変異陽性、ALK融合遺伝子陽性、ROS1遺伝子変異陽性などいくつかのタイプに分かれます。
このお薬は今までの抗がん薬とは効きかたが違う がん個別化治療薬です。すべての肺がんに効くわけではなく、非小細胞肺がんのうちALK融合遺伝子陽性またはROS1遺伝子変異陽性タイプに適応します。よく効くと、がん細胞の増殖が止まり、がんが小さくなります。そして 呼吸困難や痛みが軽減し、より長生きできる可能性があるのです。

- 【薬理】

- ALKまたはROS1とよばれる遺伝子に変異があると、ある種の蛋白と融合したALK融合蛋白やROS1融合蛋白が産生されます。これががん細胞の増殖や正常細胞のがん化をもたらすものと考えられています。この薬は、ALK融合蛋白またはROS1融合蛋白に内在するチロシンキナーゼ(TK)という酵素の働きをおさえリン酸化を阻害することにより、増殖をうながす情報伝達系の流れを遮断します。結果として、がん細胞の増殖がおさえられ、がんが小さくなるのです。このような作用からALK-TK阻害薬あるいはROS1-TK阻害薬、または広くチロシンキナーゼ阻害薬と呼ばれています。
- ALK:未分化リンパ腫キナーゼ
- ROS1:c-ros遺伝子1
- TK:チロシンキナーゼ

- 【臨床試験】

- 別の抗がん薬による治療歴があり、ALK融合遺伝子陽性の進行非小細胞肺がんの患者さん119人による臨床試験が行われています。海外での試験ですが、これには日本人15人も含まれます。有効性を判断するための評価項目は「固形がんの効果判定基準」にもとずく客観的奏効率(ORR)です。効果判定は、治験責任医師によって評価されました。
その結果、119人のうち71人に腫瘍縮小効果など一定の効果がみられ奏効率は61%でした(3人は評価対象から除外)。白金系薬剤など従来の抗がん薬のALK融合遺伝子陽性患者における奏効率は30%そこそこですので、この薬の奏効率はかなり高いと考えられるのです。なお、その後おこなわれた前治療歴のない1次治療での比較試験においても、既存の抗がん薬を上回る無増悪生存期間(PFS)の延長が認められました。また、ROS1陽性の患者さんを対象とした別の試験でも69%という高い奏効率が得られています。
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特徴 |
- いわゆる分子標的薬の部類です。がん細胞の増殖過程における指令系統を分子レベルでブロックします。標的は、がん遺伝子が産生するALK融合蛋白またはROS1融合蛋白のチロシンキナーゼです。化学療法として広く用いられる従来の抗がん薬とは異なり、特定の遺伝子型にだけ効く個別化治療薬になります。1次治療として推奨されるのは、ALK陽性またはROS1陽性の非小細胞肺がんに限ります。
- 一般的な抗がん薬でしばしば問題となる脱毛や骨髄抑制の心配はほとんどありません。一方で、間質性肺疾患や視力障害など特異な副作用がかなりの頻度で発現します。死亡例も報告されているようです。このため、緊急時に十分に対応できる医療施設で、専門医による慎重な診断のうえで処方されなければなりません。
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注意 |
 【診察で】
- 持病のある人は医師に伝えておきましょう。
- 服用中の薬を医師に教えてください。
- 妊娠中もしくはその可能性のある人、また授乳中の人は医師に伝えてださい。
- 有効性だけでなく、副作用や注意事項についても十分に説明を受けてください。薬の性質をよく理解し、納得のうえで治療にあたりましょう。

- 【注意する人】

- 間質性肺炎を併発している人、またその既往歴のある人は慎重に用います。肺炎が悪化したり、再発するおそれがあるためです。不整脈のある人は、頻回に心電図検査を行うなど慎重に用います。
- 注意が必要なケース..間質性肺疾患、不整脈(QT延長)、中等度以上の肝臓病、重い腎臓病のある人など。

- 【飲み合わせ・食べ合わせ】

- いろいろな薬と相互作用を起こしやすい性質があります。飲み合わせによっては、薬の副作用がでやすくなります。逆に効果が弱くなってしまうこともあります。服用中の薬は必ず医師に報告しておきましょう。また、別の病院で診察を受けるときも、この薬を飲んでいることを伝えてください。
- 高脂血症治療薬のロミタピド(ジャクスタピッド)は禁止です。併用によりロミタピドの血中濃度が著しく増加するおそれがあるためです。
- マクロライド系抗生物質のクラリスロマイシン(クラリス、クラリシッド)やアゾール系抗真菌薬のイトラコナゾール(イトリゾール)は、この薬の血中濃度を上昇させる可能性があります。相互作用がない薬剤への変更を考慮するか、併用するなら副作用の発現に十分注意しなければなりません。
- 逆に、この薬の血中濃度が低下する飲み合わせもあります。たとえば、結核・抗酸菌症治療薬のリファンピシン(リファジン)、抗けいれん薬のカルバマゼピン(テグレトール)やフェニトイン(アレビアチン、ヒダントール)などです。
- グレープフルーツジュースは飲まないほうがよいでしょう。この薬の血中濃度が上昇し、副作用がでやすくなるおそれがあります。
- セイヨウオトギリソウ(セント・ジョーンズ・ワート)を含む健康食品の飲食は控えてください。この薬の作用を弱めるかもしれません。
 【使用にあたり】
- 治療開始にあたり、必要に応じて入院します。間質性肺疾患など重い副作用の発現に細心の注意が必要なためです。
- 決められた飲み方を厳守してください。ふつう、1回1カプセル250mgを1日2回飲みます。副作用で休薬後に再開する場合、1回200mgに減量することがあります。
- 咳や息切れ、息苦しさ、発熱、視覚の異常など、この薬を服用中にいつもと違う症状があらわれたら、すぐに医師と連絡をとってください。
 【検査】
- ALK融合遺伝子が陽性かどうかを調べます。陽性の場合に限り、この薬による治療が可能です。
- 副作用や効果をチェックするため、定期的に検査を受けなければなりません。肝機能や血液の検査、心電図検査、さらに肺に副作用がでていないか 胸部レントゲン(CT)検査でチェックする必要があります。

- 【妊娠・授乳】

- 妊娠中は、治療上やむを得ない場合を除き、できるだけ使用しないようにします。また、妊娠可能な女性は服薬中に妊娠しないように避妊をしてください。

- 【食生活】

- 視覚に異常があらわれることが多いです。かすんだり、まぶしく見えたりします。車の運転をふくめ危険をともなう機械の操作には十分注意してください。
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効能 |
- ALK融合遺伝子陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌
- ROS1融合遺伝子陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌
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用法 |
通常、成人はクリゾチニブとして1回250mgを1日2回経口服用する。なお、患者の状態により適宜減量する。
※用法用量は症状により異なります。医師の指示を必ずお守りください。 |
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副作用 |
多くの人にみられるのが吐き気や嘔吐、下痢や便秘などの胃腸症状です。次に多いのが視覚異常で半分くらいの人にあらわれます。かすんで見える、まぶしい、二重に見える、視野が欠ける、視力が低下するといった症状です。目の見え方が気になるときは、早めにその症状を医師に伝えてください。
重い副作用でもっとも重要なのが肺に起こる間質性肺疾患です。咳、息切れ、息苦しさ、発熱といった症状があらわれたら、ただちに受診してください。対応が遅れると、重症化し治療が困難になります。ほかにも、肝機能障害や血液障害、不整脈(徐脈)など注意を要する副作用があります。下記のような初期症状をふまえ、なにか普段と違う「おかしいな」と感じたら、医師と連絡をとるようにしてください。
 【重い副作用】 ..めったにないですが、初期症状等に念のため注意ください
- 間質性肺疾患..息切れ、咳、息苦しい、息が荒い、呼吸困難、血痰、発熱。
- 肝臓の障害..だるい、食欲不振、吐き気、発熱、発疹、かゆみ、皮膚や白目が黄色くなる、尿が茶褐色。
- 重い血液成分の異常..発熱、喉の痛み、口内炎、だるい、皮下出血(血豆・青あざ)や鼻血・歯肉出血など出血傾向。
- 徐脈性不整脈..動悸、脈が飛ぶ、脈が1分間50以下、疲れやすい、めまい、ふらつき、息切れ、血圧低下、気が遠くなる、失神。
- 心不全..疲れやすい、息苦しい、息切れ、むくみ、急な体重増加、痰、ゼィゼィ、咳、頻脈。
 【その他】
- 悪心、嘔吐、下痢、便秘、食欲不振、食道炎
- かすんで見える、まぶしい、二重に見える、視野が欠ける、視力低下
- しびれ、筋肉のぴくつき・つっぱり、関節の腫れ
- めまい、痛み、味覚異常
- むくみ、疲労、咳、発熱
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