概説 |
多発性骨髄腫や、らい性結節性紅斑を治療するお薬です。 |
作用 | 
- 【働き-1】

- 多発性骨髄腫は血液がんの一種です。白血球のひとつ形質細胞(Bリンパ球)ががん化し、骨髄内で異常増殖することで起こります。進行は比較的ゆっくりですが、骨髄腫細胞の勢いが増し正常な血液細胞ができなくなると、さまざまな症状があらわれます。貧血、骨の痛み、腎機能の低下、さらには高カルシウム血症や腎不全を併発し余後は好ましくありません。
このお薬は、多発性骨髄腫の治療に用いられます。類縁疾患のクロウ・深瀬(POEMS)症候群にも有用です。免疫を活性化し腫瘍への攻撃を強めたり、骨髄腫細胞の寿命を短縮し死滅を早め、また腫瘍に栄養を送る血管ができるのを抑えることにより抗腫瘍効果を発揮します。効き方には個人差がありますが、骨髄腫細胞が減少し、病気の進行が抑えられることにより、より長生きできる可能性があります。

- 【働き-2】

- らい性結節性紅斑は、ハンセン病における2型らい反応にみられる病態です。急激な炎症反応とともに皮膚に発赤をともなうしこりができたりします。皮膚以外でも体のあちこちで病変を生じ、発熱とともに神経痛や関節痛、リンパ節の腫れ、精巣炎、さらには眼症状を引き起こすこともあります。
このお薬は、そのようならい性結節性紅斑に有効です。作用機序は十分に解明されていませんが、TNF-αという炎症にかかわる体内物質の産生をおさえることで、異常な炎症反応をしずめるのではと考えられています。あるいは免疫調節作用や血管新生抑制作用などがかかわっている可能性もあります。

- 【臨床試験】

- 他の治療法でよくならない多発性骨髄腫の患者さん37人に投与したところ、12人が好転、有効率は32.4%でした。残りの12人の症状は変わらず、6人が悪化、7人は判定不能でした。なお、海外の研究ではデキサメタゾンとの併用療法において、30〜70%の有効率が得られるという報告があります。
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特徴 |
- サリドマイドを有効成分とする多発性骨髄腫治療薬です。作用機序からは免疫調節薬(IMiDs)または血管新生阻害薬に分類される抗造血器悪性腫瘍薬になります。2008年に多発性骨髄腫を適応症として再承認され、さらに2012年に‘らい性結節性紅斑’、2021年にクロウ・深瀬(POEMS)症候群に対する効能を追加取得しています。
- 1960年代に世界的な薬害被害をもたらしたサリドマイドそのものです。かつては睡眠薬や胃腸薬として用いられましたが、妊娠初期に使用した場合に、胎児に深刻な発育障害を起こす催奇形性が判明し製造販売が中止となりました。
- 2000年代に入り、多発性骨髄腫に対する高い有効性が再評価され、欧米でその第一選択薬として用いられるようになりました。最近は、サリドマイド誘導体の類似薬としてレナリドミド(レブラミド)やポマリドミド(ポマリスト)が開発され取って代わっています。
- 妊娠中の女性は絶対に使用禁止です。催奇形性による副作用を防ぐため、使用にさいし厳格な安全管理手順(RevMate)が求められます。
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注意 |
 【診察で】
- 妊娠中もしくはその可能性のある人、また授乳中の人は申し出てください。
- 持病のある人は医師に伝えておきましょう。
- 使用中の薬を医師に教えてください。
- 注意事項や副作用について十分説明を受けてください。薬の性質をよく理解し、同意のうえで治療にあたりましょう。
 【注意する人】
- 妊婦中またはその可能性のある女性は使用できません。
- 深部静脈血栓症のリスクのある人、またエイズウイルスに感染している人は慎重に用いる必要があります。
- 外科手術をおこなった場合、しばらく服用を中止することがあります。
 【飲み合わせ・食べ合わせ】
- 安定剤や抗うつ薬など精神神経系に作用する薬と併用すると、眠気やふらつき、起立性低血圧などの副作用が強まるおそれがあります。
- ステロイド薬のデキサメタゾン(デカドロン)と併用する場合は、血栓塞栓症の発現に注意が必要です。
- 飲酒は控えてください。眠気やふらつきなどの副作用がでやすくなります。
 【使用にあたり】
- 症状により飲みかたが違います。医師の指示通りにしてください。効果不十分な場合、増量することがあります。飲む時間は寝る前です。
- カプセルを開けて飲んではいけません。カプセルのまま服用してください。
- 妊娠する可能性のある女性は、指示された方法で確実に避妊してください。もし、妊娠が疑われるのなら、直ちに医師に連絡してください。
- 厳重に薬を管理してください。家族ど別の人が誤って使用しないよう、保管場所は分けておいたほうがよいでしょう。とくに子供のいる家庭では、薬のしまい忘れにも要注意です。
- 空のシートは捨てないで、次回の通院時に持参し、服用状況を報告してください。もし破棄してしまったり持参できない場合は、残っているカプセル数を記録し伝えるようにしましょう。また、中止後にあまった薬は、医療機関に返してください。
 【検査】
- 妊娠する可能性のある女性は、服薬開始予定の4週間前、2週間前および服薬直前に妊娠検査を実施し、妊娠していないことを確認したうえで治療を開始します。その後も、少なくとも4週間に1回妊娠検査をおこなうようにします。
- 効果や副作用をチェックするため、定期的に検査を行ないます。とくに血液の性状の変化に注意が必要です。クロウ・深瀬症候群では心電図検査が欠かせません。
 【妊娠・授乳】
- 妊娠中は決して飲まないでください。強い催奇形性作用により、おなかの赤ちゃんに深刻な障害を引き起こすおそれがあるためです。
- 妊娠を避けるため、妊娠する可能性のある女性は、服用開始予定4週間前から服用終了4週間後まで、確実な方法で避妊しなければなりません。なお、コンドームなどによる避妊法で100%回避できるわけではありません。性交渉をしないのが一番安心です。
- 乳汁中への移行が報告されています。服用開始から服用終了4週間後までは授乳を避けてください。
- 男性が飲むと、この薬の成分が精液に入ります。精液を介して薬が相手女性に移行しないよう、男性は服用開始から服用終了4週間後まで、必ずコンドームを使用してください。また、この期間中は妊娠中の女性との性交渉は避け、精子・精液の提供も禁止です。
 【食生活】
- 男女とも、決められた避妊法を徹底してください。
- 眠気やめまいを起こすことがあります。車の運転、危険な仕事、高所での作業は避けましょう。
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効能 |

- 【効能A】

- 再発又は難治性の多発性骨髄腫

- 【効能B】

- らい性結節性紅斑

- 【効能C】

- クロウ・深瀬(POEMS)症候群
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用法 |

- 【効能A】

- 通常、成人はサリドマイドとして1日1回100mgを就寝前に経口服用する。なお、患者の状態により適宜増減するが、1日400mgを超えないこと。
- [注意1]本剤の服用は1日1回100mgより開始し、効果不十分な場合には4週間間隔で100mgずつ漸増すること。
- [注意2]本剤の用量を調整する場合には、治療抵抗性多発性骨髄腫患者を対象とした国内臨床試験で使用された減量・休薬、中止基準を考慮すること(詳細省略)。

- 【効能B】

- 通常、本剤を1日1回就寝前に経口服用する。用量は、成人はサリドマイドとして50〜100mgより服用を開始し、症状が緩和するまで必要に応じて漸増する。ただし、1日400mgを超えないこと。症状の改善に伴い漸減し、より低い維持用量で症状をコントロールする。

- 【効能C】

- 通常、成人はサリドマイドとして1回100mgを隔日服用から開始し、1週間以上の間隔をあけて1日1回200mgまで漸増する。なお、いずれも就寝前に経口服用することとし、患者の状態により適宜増減するが、1日300mgを超えないこと。
- [注意1]本剤の服用は1回100mgを隔日服用から開始し、患者の状態に応じて1週間以上の間隔をあけて、1日1回100mg、1日1回200mgまで漸増すること。
- [注意2]臨床試験では300mg/日への増量時に重篤な不整脈の発現が多く認められている。300mg/日への増量後一定期間は、重篤な不整脈等への適切な処置が行える入院管理下で服用すること。
※用法用量は症状により異なります。医師の指示を必ずお守りください。 |
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副作用 |
副作用で比較的多いのは、眠気、便秘、口内乾燥、吐き気、しびれ、味覚異常、けん怠感などです。多くは軽度で継続可能と思いますが、重篤な副作用の前ぶれとしてあらわれることがありますから、どのようなことでも医師に報告するようにしてください。
重い副作用として血栓・塞栓症が知られています。とくに重要なのが足にできる深部静脈血栓症と肺の血管が詰まる肺塞栓症、それと脳梗塞です。足のふくらはぎの痛みやしびれ、突然の息切れ、胸の痛み、片側の麻痺といった症状に注意してください。血栓の出現リスクはデキサメタゾンとの併用により高まります。
ほかにも、末梢神経障害、骨髄抑制(血球減少)、皮膚・粘膜障害、腫瘍崩壊症候群、間質性肺疾患、消化管穿孔、肝機能障害などが報告されています。クロウ・深瀬症候群では不整脈にも要注意です。下記のような初期症状をふまえ、気になれば、医師と連絡をとり適切な指示を受けてください。早期対応が大事です。
 【重い副作用】 ..めったにないですが、初期症状等に念のため注意ください
- 静脈血栓症、肺塞栓症..手足(特にふくらはぎ)の痛み・はれ・むくみ・しびれ、爪の色が紫、突然の息切れ・息苦しい、深呼吸で胸が痛い、急な視力低下、視野が欠ける、目が痛む。
- 脳梗塞..片側の手足のまひ・しびれ、口がゆがむ、うまく話せない、視野が欠ける、二重に見える、考えがまとまらない、ふらつく
- 末梢神経障害..手足のしびれ、感覚が鈍い、灼熱感、ピリピリ痛む、筋力低下。
- 骨髄抑制(血球減少)..発熱、ひどい疲労感、のどの痛み、皮下出血(血豆・青あざ)や鼻血・歯肉出血など出血傾向、息切れ、動悸。
- 重い感染症..発熱、寒気、だるさ、食欲不振、のどの痛み、咳や痰、息苦しい、嘔吐、下痢、皮膚発赤・小水疱・ピリピリ痛い、水ぶくれ、できもの。
- 間質性肺炎..から咳、息苦しさ、少し動くと息切れ、発熱。
- 消化管穿孔..激しい腹痛、持続する強い腹痛、吐く
- 重い不整脈、狭心症、心不全..動悸、めまい、意識低下、失神、胸の痛み、息苦しい、むくみ
- 重い皮膚・粘膜障害..発疹、発赤、水ぶくれ、うみ、皮がむける、皮膚の熱感や痛み、かゆみ、唇や口内のただれ、のどの痛み、目の充血、発熱、全身けん怠感。
- 傾眠、鎮静..強い眠気、ぼんやり、眠りがち、意識がはっきりしない。
- けいれん..筋肉のぴくつき、ふるえ、白目、硬直、全身けいれん、意識低下・消失。
- 起立性低血圧..立ちくらみ、めまい、ふらつき。
- 甲状腺機能低下症..疲れやすい、動作が遅い、冷え、寒がり、肌荒れ、声枯れ、むくみ、便秘、徐脈。
- 腫瘍崩壊症候群..全身のむくみ、尿が少ない・出ない、血尿、脇腹の痛み。
- 肝臓の障害..だるい、食欲不振、吐き気、発熱、発疹、かゆみ、皮膚や白目が黄色くなる、尿が茶褐色。
 【その他】
- 眠気、不安、頭痛、ふらつき
- しびれ、ふるえ、手足の冷え、神経痛、関節痛
- 便秘、口内乾燥、吐き気、胸やけ、腹痛、食欲不振
- 不整脈、血圧変動
- 味覚異常、けん怠感、疲労、むくみ、体重減少
- 発疹、かゆみ
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