概説 |
がんの増殖を抑えるお薬です。腎臓がんと消化管間質腫瘍の治療に用います。 |
作用 | 
- 【働き】

- 腎臓のがんのうち、もっとも多いのが“腎細胞がん”です。一般的な抗がん薬による化学療法が効きにくいため、手術による切除が第一の選択となります。さらに手術後に、インターフェロンやインターロイキンなどサイトカイン製剤による免疫療法も広くおこなわれています。
このお薬は新しい作用機序をもつ抗がん薬です。がん細胞の増殖を抑制する作用と、がん組織の血管新生を阻害する2つの作用を持っています。腎細胞がんに対しても一定の効果が期待できることから、手術が困難な場合や転移のある腎細胞がんの治療に使います。
そのほか、消化管間質腫瘍と膵神経内分泌腫瘍に対する効能もあります。こちらの発症率はきわめて低く たいへんまれながんですが、進行すると治療が難しく予後も好ましくありません。効き方には個人差があるものの、症状が落ち着き、より長生きできる可能性があります。

- 【薬理】

- がん細胞の増殖や血管新生にはチロシンキナーゼというある種の酵素群が関係しています。この薬は、複数のチロシンキナーゼを阻害することで、がん増殖や血管新生をうながすシグナル伝達をさまたげます。その結果、がんの成長が抑制され、予後の改善につながります。

- 【臨床試験-1】

- この薬と、従来から標準的に使われてきたインターフェロン(IFN-α)の効果を比較する臨床試験が海外でおこなわれています。参加したのは進行性の腎細胞がんの患者さん750人。どちらを飲むかは、くじ引きで半々に分かれるようにします。有効性の判断材料は、がんが大きくならず病状が安定している期間「無増悪生存期間」です。
その結果、この薬を飲んでいた人達の無増悪生存期間の中央値は約1年でした。一方、インターフェロンでは約半年にとどまりました。また、奏効率については、この薬で28%、インターフェロンで5%でした。この薬を飲んでいた人達のほうが奏効率が高く、また無増悪生存期間が明らかに延長し、インターフェロンを上回る有効性が確認できたわけです。なお、日本人51人による別の臨床試験においても、全生存期間の中央値が2年9ヶ月と かなりよい結果が得られています。

- 【臨床試験-2】

- 消化管間質腫瘍に対する有効性をプラセボ(にせ薬)と比較する試験もおこなわれています。参加したのは既存薬のイマチニブ(グリベック)が効かない患者さん、または副作用で使用できない患者さん312人。その結果、無増悪期間の中央値は、この薬を飲んでいた人達で約27週間、プラセボの人達で約4週間でした。プラセボに比べ無増悪期間が大幅に延長し、この薬の有効性が証明できたわけです。
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特徴 |
- いわゆる分子標的治療薬です。腫瘍細胞増殖と腫瘍血管新生における指令系統を分子レベルでブロックします。標的分子は、腫瘍増殖や血管新生にかかわるチロシンキナーゼ。このような作用機序からチロシンキナーゼ阻害薬または単にキナーゼ阻害薬と呼ばれています。機能が異なる複数のチロシンキナーゼを阻害することから、マルチキナーゼ阻害薬と呼ぶこともあります。
- 腎細胞がんの一次治療における臨床効果を確かめるため、インターフェロンとの比較試験がおこなわれています。その結果、インターフェロンをはるかにしのぐ2年以上の生存データが得られました。腎細胞がんの第一選択薬として期待されるところです。
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注意 |
 【診察で】
- 持病やアレルギーのある人は医師に伝えておきましょう。
- 服用中の薬を医師に教えてください。
- 妊娠中もしくはその可能性のある人、また授乳中の人は医師に伝えてださい。妊娠中は使用できません。
- 有効性だけでなく、副作用や注意事項についても十分に説明を受けてください。薬の性質をよく理解し、納得のうえで治療にあたりましょう。

- 【注意する人】

- 病気によっては、その病状を悪化させるおそれがあります。高血圧症や心臓病など循環器系に病気のある人は慎重に用いるようにします。妊娠中は絶対禁忌です。
- 適さないケース..妊娠中。
- 注意が必要なケース..骨髄抑制、高血圧、心臓病、脳卒中、肺塞栓症、甲状腺機能障害、重い肝臓病のある人、アレルギー体質、手術後まもない人、高齢の人など。

- 【飲み合わせ・食べ合わせ】

- いろいろな薬と相互作用を起こしやすい性質があります。飲み合わせによっては、薬の副作用がでやすくなります。逆に効果が弱くなってしまうこともあります。服用中の薬は必ず医師に報告しておきましょう。また、別の病院で診察を受けるときも、この薬を飲んでいることを伝えてください。
- アゾール系抗真菌薬(イトリゾール等)やマクロライド系抗生物質(エリスロシン、クラリス等)は、この薬の血中濃度を上昇させ重い副作用をまねくおそれがあります。併用するのなら、この薬の減量を考慮しなければなりません。
- 抗結核薬(リファジン)や抗けいれん薬(アレビアチン、ヒダントール、テグレトール、フェノバール等)など 一部の薬との併用により、この薬の作用が弱まるかもしれません。
- ある種の抗不整脈薬や抗うつ薬あるいは安定薬との併用により、重い不整脈薬を誘発するおそれがあります。
- グレープフルーツジュースは飲まないほうがよいでしょう。この薬の血中濃度が上昇し、副作用がでやすくなるためです。
- セイヨウオトギリソウ(セント・ジョーンズ・ワート)を含む健康食品は控えてください。この薬の作用を弱めるかもしれません。
 【使用にあたり】
- 決められた飲み方を守ってください。ふつう、1日1回4錠を4週間服用し、その後2週間休薬します。ただし、副作用がひどい場合、医師の判断で減量することがあります。
- カゼ症状を含め発熱やのどの痛み、息切れ、血圧上昇、出血、腹痛など、この薬を服用中にいつもと違う症状があらわれたら、すぐに医師と連絡をとってください。

- 【検査】

- 効果や副作用をチェックするため、定期的に検査を受けなければなりません。とくに、白血球や血小板など血液の成分に異常がないか頻繁に調べる必要があります。血圧は診察の日に必ず測ってもらいましょう。さらに、心臓に副作用がないか心電図や心エコーなどで調べることがあります。肝臓や腎臓、膵臓の検査も大事です。

- 【妊娠・授乳】

- 動物実験で奇形を作る作用が強いことが分かっています。妊娠中もしくはその可能性のある女性は使用できません。また、治療中は妊娠しないように適切な方法で避妊してください。
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効能 |

- 【効能A】

- 根治切除不能又は転移性の腎細胞癌

- 【効能B】

- イマチニブ抵抗性の消化管間質腫瘍

- 【効能C】

- 膵神経内分泌腫
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用法 |

- 【効能A・B】

- 通常、成人はスニチニブとして1日1回50mgを4週間連日経口服用し、その後2週間休薬する。これを1コースとして服用を繰り返す。なお、患者の状態により適宜減量する。

- 【効能C】

- 通常、成人はスニチニブとして1日1回37.5mgを経口服用する。なお、患者の状態により、適宜増減するが、1日1回50mgまで増量できる。
※用法用量は症状により異なります。医師の指示を必ずお守りください。 |
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副作用 |
皮膚や毛髪の変色、手足の紅斑、吐き気や嘔吐、下痢、口内炎、むくみ、高血圧、出血など、いろいろな副作用がでやすいです。あわてないよう、事前に医師から十分説明を受けておきましょう。軽い副作用の場合、治療を優先しなければならないことも多いです。
検査でよく見つかるのは、骨髄抑制にともなう血球減少です。気づかないまま白血球が極端に減少してしまうと、体の抵抗力が低下し肺炎や敗血症など重い感染症にかかりやすくなります。さらに、血小板減少にともなう出血、赤血球の不足による貧血にも注意が必要です。発熱やのどの痛み、咳や痰、強い疲労感、歯茎出血や皮下出血など出血傾向がみられたら、ただちに医師に連絡してください。
心不全や不整脈が現れることもあります。特徴的な症状は、息切れ、息苦しさ、むくみ、動悸、めまいなどです。初期症状に注意するとともに、定期的に心機能検査を受け軽いうちに見つけることが大事です。とくに、もともと心臓が弱っている人、抗不整脈薬を飲んでいる人は十分注意してください。
そのほか、多くはありませんが重い副作用として、血栓・塞栓症、白質脳症、膵炎、甲状腺機能障害、肝障害、間質性肺炎、腎不全などを起こすことがあります。下記のような初期症状をふまえ、なにか普段と違う「おかしいな」と感じたら、すぐ医師と連絡をとるようにしましょう。
 【重い副作用】 ..めったにないですが、初期症状等に念のため注意ください
- 骨髄抑制(血球減少)..発熱、ひどい疲労感、のどの痛み、皮下出血(血豆・青あざ)や鼻血・歯肉出血など出血傾向、息切れ、動悸。
- 重い感染症..発熱、寒気、だるさ、食欲不振、のどの痛み、咳や痰、息苦しい、嘔吐、下痢、皮膚発赤・小水疱・ピリピリ痛い、水ぶくれ、できもの。
- 重度の高血圧..著しい血圧の上昇、降圧薬を飲んでも下がらない。
- 動脈解離..胸または背中の激痛 、激しい腹痛
- 重い出血(脳出血、消化管出血、肺出血)..激しい頭痛、片側の麻痺、うまく話せない、腹痛、下血(黒いタール状の便)、吐血、血痰、喀血。
- 消化管穿孔..突然の激しい腹痛、持続する腹痛、吐き気、嘔吐、寒気、発熱、意識低下。
- 一過性脳虚血発作、脳梗塞..頭痛、めまい・ふらつき、手足のしびれ・まひ、力が抜ける、うまく話せない、物が二重に見える、意識がうすれる
- 心不全・不整脈..息切れ、息苦しい、むくみ、体重増加、動悸、脈が弱い、脈の乱れ、めまい、失神。
- 静脈血栓症、肺塞栓症..手足(特にふくらはぎ)の痛み・はれ・むくみ・しびれ、爪の色が紫、突然の息切れ・息苦しい、深呼吸で胸が痛い、急な視力低下、視野が欠ける、目が痛む。
- 白質脳症..頭痛、もの忘れ、ボーとする、歩行時のふらつき、手足のしびれ・まひ、うまく話せない、動作がにぶる、けいれん、二重に見える、見えにくい。
- 膵炎..吐き気、吐く、持続的な激しい腹痛、上腹部または腰から背中の激痛、発熱。
- 甲状腺機能障害(低下・亢進)..疲れやすい、肌荒れ、声枯れ、冷え、むくみ、便秘、徐脈、頻脈、動悸、微熱、震え、食欲更新、やせる、発汗、いらいら。
- 肝臓の障害..だるい、食欲不振、吐き気、発熱、発疹、かゆみ、皮膚や白目が黄色くなる、尿が茶褐色。
- 急性胆嚢炎..右上腹部から右背部の痛みや張り、皮膚や白目が黄色くなる、発熱、悪寒、吐き気、吐く。
- 腎臓の重い症状..尿が少ない・出ない、尿の濁り・泡立ち、血尿、むくみ、だるい、吐き気、側腹部痛、腰痛、発熱、発疹。
- 間質性肺炎..から咳、息苦しさ、少し動くと息切れ、発熱。
- 腫瘍崩壊症候群..全身のむくみ、尿が少ない・出ない、血尿、脇腹の痛み。
- 重い皮膚・粘膜障害..発疹、発赤、水ぶくれ、うみ、皮がむける、皮膚の熱感や痛み、かゆみ、唇や口内のただれ、のどの痛み、目の充血、発熱、全身けん怠感。
 【その他】
- 皮膚や毛髪の変色、手の平や足の裏の皮疹、紅斑、水ぶくれ、発疹、皮膚あれ、爪の異常、脱毛、かゆみ
- 口内炎、唇のあれ、味覚異常
- 食欲不振、吐き気、嘔吐、下痢、腹痛
- 高血圧、動悸、むくみ、体重増加
- 筋肉痛、関節痛、頭痛、耳鳴、疲労、めまい、発熱
- 鼻血、皮下出血、口内出血、血痰
- 肝機能値異常、腎機能値異常、膵酵素上昇
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