概説 |
乳がんを治療するお薬です。また不妊治療にも用いられます。 |
作用 | 
- 【働き-1】

- 乳がんは、女性ホルモンのエストロゲン(卵胞ホルモン)の影響を受けて大きくなる性質があります。このエストロゲンの影響を低減させることにより、乳がんの増殖を抑制しようとするのが乳がんホルモン療法(内分泌療法)です。エストロゲンは、閉経前はおもに卵巣で生成されますが、閉経後は副腎由来のアンドロゲン(男性ホルモン)からの生成ルートが問題となります。
このお薬は、アンドロゲンからエストロゲンが生成されるのを抑えます。その作用特性から、よい適応となるのは閉経後の乳がんで、ホルモン反応性が高い場合です。治療効果に優れ、予後の改善も期待できます。進行乳がんに用いるほか、手術後の再発予防目的に補助療法として用いることも多いです。

- 【働き-2】

- 卵巣の働きが悪いと妊娠しにくいです。このお薬には排卵誘発薬と同じような作用があり、卵巣を適度に刺激し その働きを高めます。結果として、受精能の高い成熟卵子が得られ、排卵時期も一定します。一般不妊治療におけるタイミング法、さらには生殖補助医療における体外受精や人工授精を容易にし、妊娠率の向上がはかれるのです。一般不妊治療における排卵は通常1個となり、多胎妊娠のリスクも低いとされます。子宮内膜の菲薄化作用が弱いのも利点です。

- 【薬理】

- 閉経後のエストロゲン生成ルートは、アロマターゼという酵素を介し副腎由来のアンドロゲン(男性ホルモン)から転化生成されます。この薬は、アロマターゼのヘム鉄に可逆的に結合し不活化することで、エストロゲンへの転化を抑制します。このような作用機序からアロマターゼ阻害薬あるいはアロマターゼ不活化薬と呼ばれています。
なお、閉経前の女性では、エストロゲン生成阻害・血中濃度低下に基づく負のフィードバックにより卵胞刺激ホルモン‘FSH’の分泌が誘導され、また卵巣内においてはアンドロゲンが蓄積します。FSHおよびアンドロゲンの作用により卵巣が刺激され卵胞発育が促進されます。
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特徴 |
- 非ステロイド性アロマターゼ阻害薬です。閉経後で、女性ホルモン受容体(HR:ER・PgR)陽性の乳がんに優先される治療薬です。そのような患者さんの術後補助療法において、抗エストロゲン薬のタモキシフェン(ノルバデックス)をしのぐ臨床成績が報告されています(BIG1-98試験)。また、手術後5年間のタモキシフェン治療完了後の投与においても有用性が示されています(MA.17試験)。
- 不妊治療に対する生殖補助医療の卵巣刺激法としても推奨され、標準的に用いられています。以前は不妊治療に保険はききませんでしたが、2020年の少子化社会対策大綱において、不妊治療に関わる経済的負担軽減のため、適応症と効果が明らかで、不妊治療に標準的に用いられる医薬品については保険適用することが決まりました。
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注意 |
 【診察で】
- 持病のある人は医師に伝えておきましょう。
- 服用中の薬を医師に教えてください。

- 【注意する人】

- 閉経前の乳がんには向きません。妊娠中は禁止です。重い肝臓病や腎臓病のある人は慎重に用います。

- 【飲み合わせ・食べ合わせ】

- 尋常性白斑治療薬のメトキサレン(オクソラレン)やアゾール系抗真菌(イトリゾール等)といっしょに飲むと、この薬の血中濃度が上昇するおそれがあります。逆に、乳癌治療薬のタモキシフェン(ノルバデックス等)や、抗結核薬のリファンピシン(リファジン)との併用により、この薬の代謝が促進され血中濃度が低下する可能性があります。
 【使用にあたり】
- 決められた飲み方を守ってください。乳がんでは、通常、1日1回、1回に1錠を飲みます。不妊治療の場合は、指示されたスケジュール通りに服用ください。
- 不妊治療において、下腹部痛、下腹部緊迫感、悪心、腰痛、さらには急激な体重増加がみられる場合は直ちに医師に連絡してください。
 【検査】
- 乳がんでは、副作用や効果をチェックするため、定期的に検査を受けなければなりません。肝機能や骨密度に異常がないか調べることがあります。
- 不妊治療では、卵巣過剰刺激症候群の兆候を見逃さないためのモニタリングが大事です。超音波検査で卵巣腫大がないか調べたりします。

- 【食生活】

- まれに、めまいや眠気を起こすことがあります。車の運転をふくめ危険を伴う機械の操作や作業のさいは注意してください。
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効能 |

- 【効能A】

- 閉経後乳癌
 【効能B】
- 生殖補助医療における調節卵巣刺激
- 多嚢胞性卵巣症候群における排卵誘発
- 原因不明不妊における排卵誘発
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用法 |

- 【効能A】

- 通常、成人はレトロゾールとして1日1回2.5mgを経口服用する。

- 【効能B】

- 通常、成人はレトロゾールとして1日1回2.5mgを月経周期3日目から5日間経口服用する。十分な効果が得られない場合は、次周期以降の1回服用量を5mgに増量できる。
※用法用量は症状により異なります。医師の指示を必ずお守りください。 |
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副作用 |
ときどき起こるのは、ほてり、頭痛、吐き気、関節痛、めまいなどです。長期服用時は、骨密度低下にともなう骨粗鬆症や骨折に念のため注意してください。そのほかで、服用を中止するほどの重い副作用はまずありません。
不妊治療で注意が必要なのが卵巣過剰刺激症候群です。この薬は比較的マイルドでそのリスクは低いほうですが、効き過ぎると卵巣が腫大し腹痛が起きたりします。まれに血栓塞栓症を併発し重症化することもあります。下腹部痛、下腹部緊迫感、悪心、腰痛があらわれた場合、あるいは急激な体重増加が認められた場合には直ちに医師と連絡をとってください。
 【重い副作用】 ..めったにないですが、初期症状等に念のため注意ください
- 血栓塞栓症..手足とくにふくらはぎの痛み・はれ・むくみ・しびれ、爪の色が紫、突然の息切れ・息苦しい、深呼吸で胸が痛い、急に視力が落ちる、視野が欠ける、目が痛む、頭痛、片側のまひ、うまく話せない、意識が薄れる。
- 狭心症、心筋梗塞、心不全..胸の痛み・違和感・圧迫感、冷汗、締め付けられるような胸の痛み、息苦しい、むくみ、体重増加。
- 肝臓の障害..だるい、食欲不振、吐き気、発熱、発疹、かゆみ、皮膚や白目が黄色くなる、尿が茶褐色。
- 重い皮膚・粘膜障害..発疹、発赤、水ぶくれ、うみ、皮がむける、皮膚の熱感や痛み、かゆみ、唇や口内のただれ、のどの痛み、目の充血、発熱、全身けん怠感。
- 卵巣過剰刺激症候群..下腹部痛、下腹部緊迫感、吐き気、腰痛、息苦しい、急激な体重増加。
 【その他】
- ほてり、頭痛、、関節痛、めまい、眠気
- 吐き気、嘔吐
- 発疹、かゆみ、多汗
- 肝機能値の悪化、コレステロール上昇
- 骨粗鬆症、骨折
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