概説 |
がんを抑えるお薬です。がんの治療に用います。 |
作用 | 
- 【働き】

- 細胞の遺伝情報を持つ核酸(DNA、RNA)の合成をじゃまして、がん細胞の増殖をおさえます。胃がんや大腸がん(結腸・直腸がん)など消化器がんに広く用いられるほか、乳がんや肺がんなどに対する適応もあります。また、手術後の補助療法として、再発予防目的に用いることも多いです。

- 【薬理】

- テガフール、ギメラシル、オテラシルの3成分から成る配合剤です。主成分のテガフールは、体内に吸収されたあと、徐々に抗腫瘍作用をもつフルオロウラシル(5FU)に変換されます。ギメラシルはフルオロウラシルの肝臓での分解を強力に抑え、結果としてフルオロウラシルを高濃度かつ長時間維持させる役目をします。もう一つのオテラシルの配合目的は、フルオロウラシルによる胃腸障害を軽減するためです。
フルオロウラシルは、核酸(DNA、RNA)の合成に必要なウラシルとよく似た構造をしているため、がん細胞が誤って取り込んでしまい、その結果として核酸の生合成を阻害したり、機能障害を起こすことにより抗腫瘍効果を発揮します。がん細胞の代謝を阻害する作用から広く「代謝拮抗薬」と呼ばれています。
 【臨床試験】
- この薬の複数の臨床成績に基づくがん種別奏効率(腫瘍縮小など一定の効果がみられる割合)は、胃がん46.5%(60/129例)、大腸がん(結腸・直腸がん)32.6%(42/129例)、頭頸部がん34.1%(29/85例)、非小細胞肺がん(未治療例)18.2%(18/99例)、手術不能または再発乳がん21.8%(12/55例)、膵がん32.2%(19/59例)、胆道がん(乳頭部がん、胆嚢がん、肝外胆管がんの化学療法未治療例)30.5%(18/59例)となっています。ただし奏効率は参考までです。症例数が十分とはいえませんし、病状、治療歴、あるいは効果判定基準によって大きく変わる可能性があります。
- 肺がん(非小細胞肺がん)に対する白金製剤シスプラチン(CDDP)との併用療法においては、47.3%(26/55例)の奏効率が報告されています。
- 胃がんの術後補助化学療法における有効性を検証する試験もおこなわれています。参加したのは外科的切除が実施された胃がん(StageII/III)の患者さん約1000人です。そして、この薬を飲む人と、経過観察だけの人に分かれ、それぞれの生存期間を調べます。その結果、この薬により死亡リスクが32%ほど低下し、3年生存率はこの薬を使用した人達で80.5%、経過観察だけの人達で70.1%でした。手術のあとに この薬を飲んだほうがより長生きできる可能性が高いことが確認できたわけです。
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特徴 |
- 代表的な内用抗がん薬です。抗腫瘍作用の増強と副作用軽減のため、テガフール、ギメラシル、オテラシルの3成分がバランスよく配合されています。主成分のテガフール(FT)は、フッ化ピリミジン系の代謝拮抗薬に分類されます。いわゆるプロドラッグでもあり、肝臓で徐々にフルオロウラシル(5FU)に変化してから効果を発揮します。そして、ギメラシルがフルオロウラシルの作用を増強し、オテラシルにより副作用の軽減がはかれるのです。胃がんなど消化器がんにくわえ、肺がんや乳がんにも適応が拡大されました。副作用も比較的少ないことから外来治療に適します。略号はTS-1またはS-1。
- とくに胃がんなど消化器がんに高い有効率を示します。胃がん手術後の再発予防にはこの薬が広く用いられています。また、進行・再発胃がんの初回治療として推奨されるのが、この薬と注射薬のシスプラチン(CDDP)の組み合わせです。大腸がんにおいては、注射薬のオキサリプラチン(Oxa)との併用療法が試みられています。
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注意 |
 【診察で】
- 持病のある人は医師に伝えておきましょう。
- 服用中の薬を医師に教えてください。
- 妊娠中もしくはその可能性のある人、また授乳中の人は医師に伝えてださい。妊娠中は使用できません。
- 事前に医師から、起こるかもしれない副作用や注意事項について十分説明を受けてください。

- 【注意する人】

- 病気によっては、その病状を悪化させるおそれがあります。また、腎臓病や肝臓病のある人は、用量に注意するなど慎重に用いるようにします。
- 適さないケース..重い骨髄抑制、重い腎臓病、重い肝臓病、妊娠中。
- 注意が必要なケース..骨髄抑制、腎臓病、肝臓病、B型肝炎既往歴またはB型肝炎ウイルスをもっている人、感染症、水痘(水ぼうそう)、間質性肺炎、心臓病、消化管潰瘍、高齢の人など。

- 【飲み合わせ・食べ合わせ】

- フッ化ピリミジン系の抗がん薬や抗真菌薬との併用は禁止です。ほかにも抗血栓薬のワルファリンや抗けいれん薬のフェニトインなど注意が必要な飲み合わせがあります。過去1週間をふくめ服用中の薬は必ず医師に報告しておきましょう。また、別の病院で診察を受けるときも、この薬を飲んでいることを伝えてください。
- 飲み合わせの悪い薬..フッ化ピリミジン系の抗がん薬・抗真菌薬(5-FU、フトラフール、ユーエフティ、ゼローダ、フルツロン、アンコチルなど)
- 飲み合わせに注意..ワルファリン(ワーファリン)、フェニトイン(アレビアチン、ヒダントール)、トリフルリジン・チピラシル(ロンサーフ)など。
 【使用にあたり】
- 病状や治療方針によって飲み方が違います(A法〜F法)。副作用によっては減量も必要です。決められた治療スケジュールにそって正確に服用してください。一般的には、朝食後と夕食後の1日2回、28日(7〜28日)間続け、その後14日(7〜14日)間休みます。休薬は、体に負担がかかり過ぎないようにし、重い副作用を回避するためです。
- 必ず食後に飲んでください。空腹時ですと、効果が弱まる可能性があります。
- 万一飲み忘れた場合は、その分は抜かし、次の通常の時間に1回分を服用してください。絶対に2回分を一度に飲んではいけません。
- 吐き気や嘔吐、下痢、ふらつき、口内炎、から咳、息切れ、また、発熱やかぜ症状を含め、この薬を服用中にいつもと違う症状があらわれたら、すぐに医師と相談してください。

- 【検査】

- 副作用や効果をチェックするため、定期的に検査を受けなければなりません。肝臓や腎臓、血液の検査が重要です。また、間質性肺炎が起きていないか、胸部レントゲン検査で調べることがあります。
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効能 |

- 【効能A】

- 胃癌、結腸・直腸癌、頭頸部癌、非小細胞肺癌、手術不能又は再発乳癌、膵癌、胆道癌

- 【効能B】

- ホルモン受容体陽性かつHER2陰性で再発高リスクの乳癌における術後薬物療法
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用法 |

- 【効能A】

- 胃癌にはA法、B法又はC法、結腸・直腸癌にはA法、C法又はD法、頭頸部癌にはA法、非小細胞肺癌にはA法、B法又はC法、手術不能又は再発乳癌にはA法、膵癌にはA法又はC法、胆道癌にはA法、E法又はF法を使用する。
A法:通常、成人は初回服用量(1回量)を体表面積に合わせて下表の基準量とし、朝食後及び夕食後の1日2回、28日間連日経口服用し、その後14日間休薬する。これを1コースとして服用を繰り返す。なお、患者の状態により適宜増減する。増量は本剤の服用によると判断される臨床検査値異常(血液検査、肝・腎機能検査)及び消化器症状が発現せず、安全性に問題がなく、増量できると判断される場合に初回基準量から一段階までとし、75mg/回を限度とする。
B法:通常、成人は初回服用量(1回量)を体表面積に合わせて下表の基準量とし、朝食後及び夕食後の1日2回、21日間連日経口服用し、その後14日間休薬する。これを1コースとして服用を繰り返す。なお、患者の状態により適宜減量する。
C法:通常、成人は初回服用量(1回量)を体表面積に合わせて下表の基準量とし、朝食後及び夕食後の1日2回、14日間連日経口服用し、その後7日間休薬する。これを1コースとして服用を繰り返す。なお、患者の状態により適宜減量する。
D法:通常、成人は初回服用量(1回量)を体表面積に合わせて下表の基準量とし、朝食後及び夕食後の1日2回、14日間連日経口服用し、その後14日間休薬する。これを1コースとして服用を繰り返す。なお、患者の状態により適宜減量する。
E法:通常、成人は初回服用量(1回量)を体表面積に合わせて下表の基準量とし、朝食後及び夕食後の1日2回、7日間連日経口服用し、その後7日間休薬する。これを1コースとして服用を繰り返す。なお、患者の状態により適宜減量する。
F法:通常、成人は初回服用量(1回量)を体表面積に合わせて下表の基準量とし、朝食後及び夕食後の1日2回、14日間連日経口服用し、その後7日間休薬する。これを1コースとして服用を繰り返す。なお、患者の状態により適宜減量する。
- ◎A法〜E法における初回服用量(1回量)
- 体表面積 → 初回基準量(テガフール相当量)
- 1.25m2未満 → 40mg/回
- 1.25m2以上〜1.5m2未満 → 50mg/回
- 1.5m2以上 → 60mg/回
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- ◎F法における初回服用量(1回量)
- 体表面積 → 初回基準量(テガフール相当量)
- 1.25m2未満 → 朝 40mg/回、夕 20mg/回
- 1.25m2以上〜1.5m2未満 → 40mg/回
- 1.5m2以上 → 50mg/回

- 【効能B】

- 内分泌療法剤との併用において、通常、成人は次の服用量を朝食後及び夕食後の1日2回、14日間連日経口服用し、その後7日間休薬する。これを1クールとして最長1年間、服用を繰り返す。なお、患者の状態により適宜増減する。初回基準量を超える増量は行わないこと。
- 体表面積 → 初回基準量(テガフール相当量)
- 1.25m2未満 → 40mg/回
- 1.25m2以上〜1.5m2未満 → 50mg/回
- 1.5m2以上 → 60mg/回
※用法用量は症状により異なります。医師の指示を必ずお守りください。 |
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副作用 |
吐き気や嘔吐、下痢、口内炎など、いろいろな副作用がでやすいです。あわてないよう、事前に医師から十分説明を受けておきましょう。軽い副作用の場合、治療を優先しなければならないことも多いです。
抗がん薬に特有な「骨髄抑制」は比較的軽いほうですが、それでも それにともなう血球減少や感染症に十分な注意が必要です。白血球が異常に減少すると、体の抵抗力がひどく落ちて感染症にかかりやすくなります。また、血小板減少により出血しやすくなることもあります。発熱やのどの痛み、あるいは歯茎出血・皮下出血など出血傾向がみられたら、ただちに医師に連絡してください。
間質性肺炎は、肺がんで治療を受けている人に多くみられる副作用です。対応が遅れると、重症化し治療が困難になるおそれがあります。から咳、息切れ、息苦しさ、発熱といった症状に注意しましょう。定期的にレントゲン検査を受けることも大事です。
そのほか、とくに注意が必要なのは、激しい下痢と脱水症状をともなう重い腸炎、肝障害、それと長期服用時の白質脳症です。脳症はまれな副作用ですが、初期症状として、歩行時のふらつき、手足のしびれ、舌のもつれ、物忘れなどが現れますので、そのような場合は医師に報告してください。
 【重い副作用】 ..めったにないですが、初期症状等に念のため注意ください
- 骨髄抑制(血球減少)..発熱、ひどい疲労感、のどの痛み、皮下出血(血豆・青あざ)や鼻血・歯肉出血など出血傾向、息切れ、動悸。
- 腸炎..激しい腹痛、下痢、下血(血液便、黒いタール状の便)。
- 肝臓の障害..だるい、食欲不振、吐き気、発熱、発疹、かゆみ、皮膚や白目が黄色くなる、尿が茶褐色。
- 間質性肺炎..から咳、息苦しさ、少し動くと息切れ、発熱。
- 狭心症、心筋梗塞、不整脈、心不全..締め付けられるような胸の痛み、冷汗、動悸、脈の乱れ、めまい、失神、息苦しい、むくみ、体重増加。
- 白質脳症..頭痛、もの忘れ、ボーとする、歩行時のふらつき、手足のしびれ・まひ、うまく話せない、動作がにぶる、けいれん、二重に見える、見えにくい。
- 腎臓の重い症状..尿が少ない・出ない、尿の濁り・泡立ち、血尿、むくみ、だるい、吐き気、側腹部痛、腰痛、発熱、発疹。
- 重い口内炎、消化管潰瘍・出血..ひどい口内炎、胃痛、下血(黒いタール状の血液便)、吐血(コーヒー色のものを吐く)。
- 重い皮膚・粘膜障害..発疹、発赤、水ぶくれ、うみ、皮がむける、皮膚の熱感や痛み、かゆみ、唇や口内のただれ、のどの痛み、目の充血、発熱、全身けん怠感。
- 膵炎..吐き気、吐く、持続的な激しい腹痛、上腹部または腰から背中の激痛、発熱。
- 横紋筋融解症..手足のしびれ・こわばり、脱力、筋力低下、筋肉痛、歩行困難、赤褐色の尿。
- 涙道閉塞..涙があふれ出る。
 【その他】
- 食欲不振、吐き気、嘔吐、下痢、腹痛
- 口内炎、味覚異常
- 発疹、かゆみ、色素沈着、脱毛
- 倦怠感、しびれ
- 血球減少、肝機能値の異常
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