概説 |
避妊に用いるお薬です。 |
作用 | 
- 【作用】

- いわゆるピルで、少量の卵胞ホルモン薬と黄体ホルモン薬が配合されています。おもな避妊作用は、排卵をおさえ受精の機会をなくすことです。そのほかにも、子宮内膜や頚管粘液に対する作用があります。
- 卵胞ホルモンと黄体ホルモンを補充することで、性腺刺激ホルモンの分泌が抑制されます(負のフィードバッグ)。その結果、卵胞が大きくならず、排卵が起こらなくなります。
- 黄体ホルモンの作用で子宮内膜の増殖がおさえられます。万一、排卵・受精したとしても受精卵が着床しにくい状態がたもたれます。
- 子宮の入口付近の頚管粘液の粘度を高めて精子の侵入を防ぐ効果もあります。

- 【備考】

- 避妊効果以外にも体にプラスの効果、すなわち「副効用」があります。生理痛や生理不順の解消につながりますし、長期的には卵巣がんの予防効果も期待できます(乳がんなど一部の女性がんは、逆にやや増えることが知られています)。医師の判断によっては、月経困難症(強い生理痛)や子宮内膜症などに応用されることがあるかもしれません。
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特徴 | 経口避妊薬は、避妊効果を持たせながら、ホルモンの量をぎりぎりまで少なくしてあります。このことから「低用量ピル」とも呼ばれます。用量が1種類で飲み方が簡単な1相性ピルのほか、自然なホルモン分泌パターンに近づけた2相性ピルや3相性ピルがあります。配合成分とその特徴は以下です。
- 卵胞ホルモン薬/エチニルエストラジオール(EE)..全ての製品で共通。一周期当たりの総量は0.765mg。
- 黄体ホルモン薬/ノルエチステロン(NET)..第1世代の黄体ホルモン薬で、長年の使用実績がある。黄体ホルモン活性が弱いので、やや多めの量となる。いくぶん不正出血を起こしやすい。
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注意 |
 【診察で】
- 血栓症など持病や、アレルギーのある人は医師に伝えておきましょう(問診票でチェック)。
- 別に薬を飲んでいる場合は、医師に伝えておきましょう。
- 手術の予定があるときは、早めに医師と相談してください。
- 血栓症や発がんリスクをふくめ注意事項や副作用について十分説明を受けてください。薬の性質をよく理解し、納得のうえで治療にあたりましょう。

- 【注意する人】

- 卵胞ホルモンによって悪化する乳がんや子宮がんがある場合は、服用を避けなければなりません。もし異常な性器出血があるのなら、がんでないことを確認してからにします。乳がんの既往歴または家族歴がある人は、使用にあたり 乳がんの検査を頻繁におこなうなど細心の注意が必要です。
ピルには、血栓を作りやすくする性質があります。このため、血栓性の病気のある人、また血栓を起こすリスクの高い人は飲めないことになっています。たとえば、血栓性静脈炎や肺塞栓症があれば服用禁止です。手術で長期間安静を要する人も、早めに中止しなければなりません。さらに、35歳以上で1日15本以上タバコを吸う人も禁止されています。
- 適さないケース..乳がん、子宮がん、血栓性静脈炎、肺塞栓症、脳梗塞、狭心症、心筋梗塞、心臓弁膜症、糖尿病性腎症、糖尿病性網膜症、前兆をともなう片頭痛、重い高血圧症、脂質代謝異常、重い肝臓病、長期間安静状態(手術前4週以内、術後2週以内、産後4週以内)、35歳以上で1日15本以上タバコを吸う人、妊娠中、授乳中、骨成長が終了していない可能性がある人など。
- 注意が必要なケース..子宮筋腫、乳がん既往・家族歴、乳房結節、40歳以上、タバコを吸う人、肥満、高血圧、心臓病、肝臓病、腎臓病のある人など。

- 【飲み合わせ・食べ合わせ】

- 低用量ピルは、有効成分をぎりぎりまで少なくし、必要最少量で避妊効果を発揮しています。このため、飲み合わせによる作用の減弱にとくに気をつけなければなりません。カゼや歯科治療をふくめ病院にかかるときは、ピルを使用していることを必ず伝えてください。
- C型慢性肝炎治療薬のオムビタスビル・パリタプレビル・リトナビル(ヴィキラックス)との併用は避けなければなりません。併用により肝機能値が悪化するおそれがあるためです。肝炎治療終了の約2週間後から 避妊薬の服用再開ができます。
- 次にあげる薬剤や健康食品と併用すると、この薬の避妊効果が低下したり、不正出血を起こすおそれがあります。併用のさいは、他の避妊法を追加したほうが確実です。たとえば、結核の薬のリファンピシン(リファジン)、てんかんの薬のフェノバルビタール(フェノバール)やフェニトイン(ヒダントール、アレビアチン)、カルバマゼピン(テグレトール)、抗ウイルス薬のテラプレビル(テラプレビル)、多くの抗生物質や抗エイズウイルス薬、健康食品のセイヨウオトギリソウ( セント・ジョーンズ・ワート)などに注意が必要です。
- 逆に、作用増強をもたらす薬剤として、抗真菌薬のフルコナゾール(ジフルカン)やボリコナゾール(ブイフェンド)、解熱鎮痛薬のアセトアミノフェンなどがあります。
- 併用薬の作用が弱くなってしまう飲み合わせも考えられます。たとえば、各種血糖降下薬、子宮内膜症治療薬のブセレリン(スプレキュア)、抗てんかん薬ラモトリギン(ラミクタール)、解熱鎮痛薬のアセトアミノフェン、鎮痛薬のモルヒネ(MSコンチン)などと併用した場合、これらの作用が弱まる可能性があります。
- 一方、併用薬の作用が増強する飲み合わせとしては、プレドニゾロン(プレドニン)など各種副腎皮質ホルモン、三環系抗うつ薬、パーキンソン病治療薬のセレギリン(エフピー)、免疫抑制薬のシクロスポリン(サンディミュン、ネオーラル)、喘息治療薬のテオフィリン(テオドール)、胃炎・胃潰瘍治療薬のオメプラゾール(オメプラール、オメプラゾン)、筋緊張緩和薬のチザニジン(テルネリン)などがあげられます。
 【使用にあたり】
- 最初の1週間はコンドームなど他の避妊法を併用してください。確実な避妊効果が得られるのは1週間後からです。規則的に続けることで避妊効果が発揮されますから、飲み忘れなく 決められた順序で毎日一定の時刻に飲んでください(7日間を休薬するタイプもあります)。
- もしも飲み忘れて、翌日までに気づいた場合は、直ちに飲み忘れたぶんを服用し、その日の錠剤も通常どおりに服用してください。ただし、28タイプの偽薬(7錠)は飲み忘れても問題ありません。
- 2日以上連続して飲み忘れた場合は服用をいったん中止し、次の月経を待ち服用を再開してください。その周期はコンドームなど他の方法で避妊する必要があります。なお、飲み忘れが増えると、避妊に失敗する確率が高まります。経口避妊薬使用開始1年間の飲み忘れを含めた一般的使用における失敗率は9%との報告があります。
- 飲み始めの不正出血や吐き気は、徐々になくなることが多いものです。
- 万一のことですが、血栓症の発現に注意が必要です。緊急を要する症状としては、急激な足の痛み、突然の息切れ、胸の痛み、激しい頭痛、視野の異常などです(副作用の項参照)。このような場合は、直ちに救急病院を受診し、この薬を飲んでいることを伝えてください。それほどでなくても疑わしいのであれば、いったん服用を中止し医師と連絡をとるようにしましょう。
- 妊娠を希望する場合は、ピルの服用を中止すれば、まもなく自然な排卵と生理がもどってきます。その後、通常どおりの妊娠、出産が可能です。
 【検査】
- 開始前に、病歴調査をはじめ、血圧測定や乳房・腹部検査、臨床検査などをおこないます。さらに続けているあいだは、6ヵ月毎に定期検診を受ける必要があります。
- 子宮・卵巣を中心とした骨盤内臓器の検査を1年に1回以上おこないます。子宮頸部の細胞診については1年に1回実施することが望ましいです。
- 乳がんの自己検診の方法を教えてもらい、こまめにチェックしましょう。とくに、家族歴または乳房に結節のある人は要注意です。
 【確実に避妊するには】
- 飲み忘れないことが、もっとも大切。
- 飲み忘れをしたときに、正しく対処する。
- ひどい下痢が続くときは、医師に相談。
- 薬の飲み合わせにも注意。
 【食生活】
- 血栓症のリスク要因として、喫煙、血圧変動、寝たきり、体を動かせない状態、脱水、疲労などがあげられます。タバコは控えるべきです。また、長時間飛行や車中泊などで体を動かせない状態が長く続くと、血栓症のリスクが少し高まるかもしれません。水分を多目にとり、できるだけ体(足)を動かすようにしましょう。
- 経口避妊薬で性感染症を予防することはできません。感染防止には、必ずコンドームを使用してください。
 【備考】
- ピルの安全性を示すデータがあります(海外)。10万人の女性が1年間に遭遇する死亡リスクを調べたところ、健康でタバコを吸わない人のピルに起因する死亡は1人/10万人。これに対し、喫煙によるものが167人、交通事故は8人でした。喫煙に比べてもはるかに安全性が高いことが示されています(健康な人の場合)。
- ピルは女性向けの避妊法です。使用するかしないかは、その人のライフスタイルや価値感によるものです。ピルは避妊効果が確実なうえ、副効用のメリットも期待できる優れた避妊法であることに間違いありません。ただ、少ないとはいえ副作用もあります。その点も承知しておくべきでしょう。さらに現実的な問題として、費用面の問題もあるかもしれません。
- 処方してもらうには、医師の診察が必要です。保険はききませんので、自費負担となります。
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効能 |
避妊 |
用法 |

- 【オーソM-21】

- 1日1錠を毎日一定の時刻に21日間経口服用し、その後7日間休薬する。以上28日間を服用1周期とし、出血が終わっているか続いているかにかかわらず、29日目から次の周期の錠剤を服用し、以後同様に繰り返す。

- 【シンフェーズT28】

- 1周期目は1日1錠を毎日一定の時刻に淡青色錠から開始し、指定された順番に従い、28日間連続経口服用する。2周期目は、1周期服用開始29日目より1周期目と同様に淡青色錠から1日1錠を28日間連続服用し、3周期目以降は2周期目と同様に服用する。
※用法用量は症状により異なります。医師の指示を必ずお守りください。 |
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副作用 |
飲みはじめに、不正出血、吐き気、頭痛、乳房の張り、乳房痛などがよくみられます。これらはホルモン環境が一時的に変化するためと考えられますので、それほど心配いりません。2〜3カ月続けて体が慣れくれると、しだいに軽快してくるものです。不正出血は、飲み忘れでもよく起こりますから注意してください。
重い副作用はまずありませんが、まれに血栓ができたり、血栓症を悪化させることがあります。血栓は、血液の固まりによる血管の詰まりです。生じる部位によりますが、手足、とくにふくらはぎの痛みやシビレ、突然の息切れや胸の痛み、激しい頭痛、急に視力が落ちるといった症状が前触れとなることがあります。万一、そのような症状があらわれたら、すぐ医師に連絡してください。
発生頻度はきわめて低いものの、長期使用において、乳がんと子宮頸がんの発症リスクが少し高まる可能性があります。乳がんについては、自己検診の指導を受け、定期的に自己チェックをおこなうとよいでしょう。不正出血が続く場合は、子宮がんの検査をおこなう必要があります。いずれにしても、半年ないし1年に1回、これらの検査を含めた定期検診を受ければ安心です。
 【重い副作用】 ..めったにないですが、初期症状等に念のため注意ください
- 血栓症..手足とくにふくらはぎの痛み・はれ・むくみ・しびれ、突然の息切れ・息苦しい、深呼吸で胸が痛い、急に視力が落ちる、視野が欠ける、目が痛む、頭痛、片側のまひ、うまく話せない、意識が薄れる。
- アナフィラキシー..発疹、じんま疹、全身発赤、顔や口・喉や舌の腫れ、咳込む、ゼーゼー息苦しい。
 【その他】
- 吐き気、食欲不振、腹痛、下痢
- 予定外の出血(点状出血、破綻出血)
- 乳房痛、乳房緊満感
- むくみ、にきび
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