概説 |
気管支を広げる吸入薬です。慢性閉塞性肺疾患(COPD)の治療に用います。 |
作用 | 
- 【働き】

- 慢性閉塞性肺疾患いわゆるCOPDは、気管支や肺胞に病変を生じ、非可逆的な気道閉塞障害を起こす病気の総称です。咳や痰が多くなり、少しの動作で息切れするなど体動時の呼吸困難が特徴的です。これには従来の慢性気管支炎と肺気腫が含まれます。
この吸入薬の有効成分は気管支拡張薬です。吸入による直接作用で気管支の収縮をおさえ、気道の通気をよくして呼吸を楽にします。同系としては作用時間が長い長時間作用型です。1日1回の吸入で終日効果が持続します。このため、COPDの維持管理薬(予防薬)として用いられます。

- 【薬理】

- 気管支の収縮でかなめになるのがアセチルコリンという神経伝達物質です。つまり、肺の副交感神経系から遊離するアセチルコリンが、気管支平滑筋にあるムスカリン受容体に結合し、その刺激を受けて収縮するのです。この薬の有効成分のウメクリジニウムは、ムスカリン受容体と強く結合し、アセチルコリンの結合を競合的に阻害することにより、気管支収縮を強力かつ持続的に抑制します。このような作用から、抗コリン薬(抗アセチルコリン薬)、または作用する受容体の名前にちなみムスカリン受容体拮抗薬もしくはムスカリン性アセチルコリン受容体遮断薬などと呼ばれています。

- 【臨床試験】

- この薬の有効性を検証するため、プラセボ(にせ薬)と比較する試験が行われています。参加したのは日本人68人を含む慢性閉塞性肺疾患の患者さん1532人です。そして、この薬を吸入する人と、プラセボを吸入する人に分かれ、6ヶ月後の肺活量(FEV1:1秒間呼気量)を比較します。肺活量は、慢性閉塞性肺疾患における呼吸機能を客観的にとらえる重要な指標です。
その結果、この薬を吸入していた人達の6ヶ月後の肺活量は平均1.36(L)(1.20→1.36)、プラセボの人達で1.23(L)(1.20→1.23)でした。 使用前に比べ、この薬を使用していた人達は肺活量が10%以上向上したのに対し、プラセボではほとんど変わりませんでした。この薬により呼吸機能が改善することが分かり、慢性閉塞性肺疾患に対する有効性が示されたわけです。
|
特徴 |
- 長時間作用型の抗コリン薬(LAMA)に分類される気管支拡張薬です。COPDでは副交感神経系が亢進し、神経伝達物質のアセチルコリンの働きが強まっています。これに対抗し効率よく気管支拡張作用を発揮するのが抗コリン薬です。また、細い気管支を拡張するβ刺激薬に対し、抗コリン薬は太い気管支によく作用します。β刺激薬に比べ速効性にやや劣りますが、安全性が高く、また効き目が落ちないなどの利点からCOPDの長期維持療法に適します。作用持続時間が長いので吸入回数は1日1回だけです。なお、有効成分のウメクリジニウムは、複合吸入剤のアノーロ エリプタ吸入用にも配合されています。
- 対症療法薬ですので病気そのものは治せません。ただ、症状悪化による悪循環を断ち、COPDの進行を遅らせる効果が期待できます。実際、同系の抗コリン薬のチオトロピウム(スピリーバ)による大規模長期臨床試験では、4年間にわたる呼吸機能の維持と死亡率の低下が報告されています。
- ドライパウダー吸入式のエリプタ吸入器を使って吸入します。粉状の薬剤が充填済みですので、ワンタッチ操作で簡単に吸入できます。カウンターで残りの使用回数が確認できるのも便利です。7回分のエリプタ7吸入用と、30回分のエリプタ30吸入用の2製品が販売されています。
|
注意 |
 【診察で】
- 緑内障や前立腺肥大症など、持病のある人は医師に伝えておいてください。
- 妊婦または妊娠している可能性のある人、授乳をしている人は医師に相談してください。
- 正しい吸入方法の説明を受けておきましょう。

- 【注意する人】

- 緑内障のある人、前立腺肥大症で尿の出の悪い人など使用できないことがあります。心臓病のある人は慎重に用いる必要があります。
- 適さないケース..閉塞隅角緑内障、前立腺肥大などで排尿障害がある場合。
- 注意が必要なケース..心臓病(心不全、不整脈)、前立腺肥大のある人など。
 【使用にあたり】
- 気管支に直接作用する吸入薬です。飲み薬ではありません。具体的な吸入方法は説明書にありますから、よく読んでおきましょう。吸入する時間など用法・用量は医師の指示どおりにしてください。一般的には朝に吸入します。
- 症状の安定のために毎日定期吸入するものです。1日1回決められれた時間帯に吸入してください。急な呼吸困難には、他の速効性の吸入薬(β刺激薬)のほうが向きます。
- 吸入時にレバーを押すとカウンターが1つ減ります。‘0’になったら使用しないで新しいものと交換してください。残り回数が少なくなったら早めに受診し処方してもらいましょう。
- 吸入を忘れたときや、何かの都合で吸入できなかった場合は、できるだけ早く1回分を吸入してください。その後の吸入は、いつも通りにしてください。ただし、1日1回を超えて吸入したり、2回分を1度に吸入してはいけません(翌日に気づいた場合は1回分抜かすことになります)。
- しばらく続けても よくならないときは、医師と相談してみましょう。
 【妊娠・授乳】
- 妊娠している人、またはその可能性のある人は医師に相談してください。妊娠中は、治療上の有益性が危険性を上回る場合に限り使用します。吸入薬ですので、飲み薬にくらべ影響が少ないです。
- 授乳についても医師と相談してください。原則、授乳を中止するか、あるいはこの薬を中止するようにします。治療の必要性と授乳の有益性の兼ね合い、また赤ちゃんの月齢などを総合的に評価して判断します。

- 【食生活】

- 慢性閉塞性肺疾患の一番の原因はタバコ。タバコの煙が肺や気管支を傷つけ機能を悪くするのです。禁煙は治療の大前提です。

- 【備考】

- 慢性閉塞性肺疾患の治療の主役は気管支拡張薬。長時間作用性の抗コリン薬(この薬)もしくはβ2刺激薬が第一選択され、効果不十分な場合には両者による吸入療法がおこなわれます。それでも増悪をくり返す場合、さらに吸入ステロイド薬を追加することもあります。いずれも対症療法薬ですので病気そのものは治せませんが、症状悪化による悪循環を断ち進行を遅らせることが可能です。
|
効能 |

- 【効能】

- 慢性閉塞性肺疾患(慢性気管支炎・肺気腫)の気道閉塞性障害に基づく諸症状の緩解
 【注意】
- 本剤は慢性閉塞性肺疾患の症状の長期管理に用いること。
- 本剤は慢性閉塞性肺疾患の増悪時の急性期治療を目的として使用する薬剤ではない。
|
用法 |
通常、成人にはエンクラッセ62.5μgエリプタ1吸入(ウメクリジニウムとして62.5μg)を1日1回吸入投与する。
※用法用量は症状により異なります。医師の指示を必ずお守りください。 |
|
副作用 |
口やのどが乾燥した感じになることがあります。これはそれほど心配なく、ある程度はしかたないかもしれません。万一、吸入時に激しくせき込んだり、ぜいぜいして息苦しいなど呼吸困難があらわれた場合は使用を注意し直ちに受診してください。
全身性の副作用は少ないですが、動悸や頻脈、かすみ目、頭痛、便秘などを起こす可能性があります。とくに、もともと心臓病のある人は、心房細動など不整脈に念のため注意が必要です。また、高齢で前立腺肥大のある人は、尿が出にくくなるおそれがあります。
 【重い副作用】 ..めったにないですが、初期症状等に念のため注意ください
- 重い不整脈..動悸、脈が飛ぶ、脈が1分間50以下、めまい、ふらつき、転倒、失神。
 【その他】
- むせる、咳、声が出にくい
- 口内乾燥
- 動悸、頻脈、不整脈
- めまい、頭痛、便秘
- かすみ目、排尿困難
|