概説 |
肺動脈の血圧を下げるお薬です。肺動脈性肺高血圧症の治療に用います。 |
作用 | 
- 【働き】

- 肺動脈性肺高血圧症(PAH)は、心臓から肺に血液を送る肺動脈が狭くなり、肺動脈の血圧が高くなる病気です。肺動脈の血流悪化から、息切れ、呼吸困難、疲労、運動能力低下などがあらわれ、日常生活にも支障がでてきます。進行すると心不全を引き起こし、予後も好ましくありません。
このお薬は、そのような症状を改善するプロスタグランジン系の肺動脈性肺高血圧症治療薬です。吸入にした薬剤が直接肺動脈に作用し、血管を広げて血流をよくします。さらに、血管内で血液が固まるのを防いだり、血管平滑筋の異常な増殖をおさえる働きもします。これらの作用により、息切れや呼吸困難がやわらぎ、運動耐容能の向上につながるのです。

- 【薬理】

- 有効成分のイロプロストは、局所ホルモンの一種のプロスタサイクリン(プロスタグランジンI2:PGI2)と同様に作用します。すなわち、プロスタサイクリンの受容体(IP受容体)を刺激することで、血管拡張作用、抗血小板作用および血管平滑筋細胞増殖抑制作用を発揮するのです。このような作用機序から、IP受容体刺激薬またはIP受容体作動薬と呼ばれることがあります。

- 【臨床試験】

- この薬の効果をプラセボ(にせ薬)と比較する試験が海外でおこなわれています。参加したのはWHO機能分類3または4のやや重い肺高血圧症の患者さん203人です。このうち101人はこの薬を、別の102人はプラセボを3カ月間使用します。
そして、十分な効果が得られた人の割合(レスポンダー率)を比較するのです。何をもって効果があったとするかは「6分間歩行距離が10%以上改善、且つ WHO機能分類が1以上改善、且つ 臨床的悪化がない」の3条件をすべて満たす場合です。
その結果、この薬を使用した人達で効果があったのは17人(17/101人:16.8%)、プラセボの人達で5人(5/102人:4.9%)でした。この薬のほうが明らかに多く、肺高血圧症に対する有効性が確認できたわけです。なお、比較試験ではありませんが、少人数の日本人を対象とした試験でも同様の改善効果が示されています。
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特徴 |
- 有効成分のイロプロストは、プロスタグランジンの仲間のプロスタサイクリン(PGI2)誘導体です。とくにイロプロストは高い化学的安定性と長い半減期を特徴とします。この系統は、肺動脈性肺高血圧症に対する標準的治療薬の一つとして国内外で広く使用されています。
- 国内唯一の吸入製剤です。携帯型の吸入器(ネブライザ) を用いて、エアロゾル化した薬剤を直接、肺血管に作用させることができます。注射治療の前段階として、中等度以上の肺動脈性肺高血圧症(WHO機能分類クラスV〜W)に適します。
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注意 |
 【診察で】
- 持病やアレルギーのある人は医師に伝えておきましょう。
- 妊娠中や、その可能性のある人は申し出てください。
- 服用中の薬を医師に教えてください。
- 吸入方法や注意事項について十分説明を受けてください。

- 【注意する人】

- 出血をともなう病気があるなら禁止です。たとえば、消化管出血、脳出血、外傷出血などです。肺水腫を引き起こすので、肺静脈閉塞のある肺高血圧症には向きません。重い心臓病または脳卒中など脳血管障害がある人も使用できないことがあります。また、気管支炎や喘息など気道疾患を合併している人は、気管支けいれんの誘発に注意が必要です。肝臓病または腎臓病のある人は、吸入間隔を長くするなど慎重に用いるようにします。
- 適さないケース..出血をともなう病気、肺静脈閉塞性疾患を有する肺高血圧症、重い心臓病、重度の不整脈、脳卒中後まもない人など。
- 注意が必要なケース..気道疾患(管支炎、肺炎、喘息、慢性閉塞性肺疾患)、低血圧、肝臓病、腎臓病のある人など。

- 【飲み合わせ・食べ合わせ】

- 降圧薬の作用を増強するおそれがあるので、必要に応じて降圧薬の用量調節をおこないます。また、血栓の治療に用いる抗凝固薬や抗血小板薬と併用する場合は、出血に注意が必要です。
- 飲み合わせに注意..降圧薬、血管拡張薬、抗凝固薬(ワーファリン、プラザキサ、リクシアナ、イグザレルト、エリキュース等)、抗血小板薬(バイアスピリン、バファリン、タケルダ、パナルジン、プラビックス等)、解熱鎮痛薬(NSAIDs)など。
 【使用にあたり】
- 専用の電気式吸入器(I-neb AADネブライザ)で吸入します。用量や吸入回数は医師の指示どおりにしてください。吸入器の取り扱いや詳しい吸入方法は添付の説明書にあります。
- 通常、初回は2.5μg吸入します。問題がなければ2回目以降は1回5.0μgに増量します。吸入回数は1日6〜9回です。少なくとも2時間以上間隔をあけてください。
- 副作用のでかたによっては、1回2.5μgに減量します。また、肝臓病や腎臓病のある人は、吸入間隔を長くし1日吸入回数(最大1日6回)を減らすことがあります。
- 毎回、新しいアンプルの全量を吸入器に入れます。液を希釈したりほかの薬剤と混ぜてはいけません。注入後、フタをしマウスピースを取り付け、電源ボタンを押して吸入に備えてください。
- 決められた手順で、マウスピースをくわえ、ゆっくりと口で息を吸ったり吐いたりしてください。何回か息をしていると、薬液が噴霧されます。吸入中はできるだけゆっくりと吸ったり吐いたりするようにしましょう。吸入には通常、4〜10分かかります。吸入後、吸入器に残った薬液は捨ててください。
- 吸入を忘れた場合、気付いたときにすぐ1回分を吸入してください。次の吸入は2時間以上はあけてからです。2回分を一度に吸入してはいけません。
- 薬液が皮膚についたり、目に入らないように気をつけてください。ついてしまったら、速やかに水で洗い流しましょう。
- 吸入のさいは、十分に換気をしてください。また、1.2メートル以内に携帯電話などの電波を発する機器が無いことを確認してください。
- 症状が改善しないときや、かえって悪化する場合は、医師と相談してください。とくに肺水腫の症状として「吐き気、嘔吐、息苦しさ、息切れ、横になっているより座っているほうが呼吸が楽」といった症状がみられたら、ただちに医師に連絡してください。
 【食生活】
- めまいを起こしますから、車の運転、危険をともなう機械操作、高所作業のさいは十分注意してください。
- とくに過去に失神を起こしたことのある人は、大きい負荷となる作業は避けてください。

- 【備考】

- 肺動脈性肺高血圧の発現機序としてエンドセリン(ET)経路、プロスタサイクリン(PGI2)経路、一酸化窒素(NO)経路の3つが重要な役割をしています。この3経路に対する薬剤として、それぞれエンドセリン受容体拮抗薬、プロスタサイクリン誘導体(この薬)、PDE5阻害薬とsGC刺激薬が開発されています。病態や重症度から適切な薬剤を選び、単薬治療で効果不十分な場合は異なる系統を組み合わせる併用療法をおこないます。
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効能 |
肺動脈性肺高血圧症 |
用法 |
通常、成人にはイロプロストとして初回は1回2.5μgをネブライザを用いて吸入し、忍容性を確認した上で2回目以降は1回5.0μgに増量して1日6〜9回吸入する。1回5.0μgに忍容性がない場合には、1回2.5μgに減量する。
※用法用量は症状により異なります。医師の指示を必ずお守りください。 |
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副作用 |
吸入時にむせたり、少し咳がでるかもしれません。まれですが、気管支けいれんが誘発される可能性もあります。万一、激しく咳き込んだり、ぜいぜいして息苦しいなど呼吸困難があらわれた場合は使用を注意し直ちに受診してください。
頻繁に起こるのは、血管拡張作用にもとづく副作用です。頭痛がしたり、顔が赤くほてることが多いです。めまいや動悸、頻脈、低血圧もみられます。つらいときは早めに受診し医師と相談してみましょう。減量により軽くなるかもしれません。
とくに他の抗凝固薬と併用する場合は、出血傾向にも注意が必要です。もし、鼻血や歯ぐき出血、喀血などがみられたら、医師に報告してください。多くは軽度ですが、脳出血など重篤な出血を引き起こす危険性がまったくないともいえません。
人によっては失神があらわれます。この薬の効果不足または肺高血圧症の悪化も考えられますから、失神をおこす場合には、医師に連絡してください。また、過去に失神を起こしたことのある人は、大きい負荷となる作業は避けてください。
 【重い副作用】 ..めったにないですが、初期症状等に念のため注意ください
- 重い出血(脳出血、肺出血、消化管出血、眼底出血等)..片側の手足のまひ、口がゆがむ、話せない、二重に見える、視野が欠ける、頭痛、意識がうすれる、血の混じった痰、吐血、血便
- 気管支けいれん..咳き込む、ぜいぜい息をする、息をするときヒューヒュー音がする、突然の息切れ、呼吸しにくい。
- 過度の血圧低下..めまい・ふらつき、立ちくらみ、冷感、吐き気、嘔吐、気を失う。
- 失神..気を失う、血圧低下
- 血小板減少..鼻血、歯肉出血、血尿、皮下出血(血豆・青あざ)、血が止まりにくい。
- 頻脈..ドキドキする、動悸、めまい・ふらつき。
 【その他】
- 頭痛、めまい、低血圧、動悸
- 顔が赤くなる、ほてり
- 咳、のど・口内の刺激感、味覚異常
- あごの痛み、口が開けにくい
- 鼻血、血の混じった痰、皮下出血
- 吐き気、腹部不快感、下痢
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