概説 |
肺高血圧症のお薬です。おもに肺動脈性肺高血圧症の治療に用います。 |
作用 | 
- 【働き】

- 肺動脈性肺高血圧症(PAH)は、心臓から肺に血液を送る肺動脈が狭くなり、肺動脈の血圧が高くなる病気です。肺動脈の血流悪化から、息切れ、呼吸困難、疲労、運動能力低下などがあらわれ、日常生活にも支障がでてきます。進行すると心不全を引き起こし、予後も好ましくありません。
このお薬は、そのような症状を改善する肺動脈性肺高血圧症治療薬です。血管拡張物質(cGMP)を増やして肺動脈を広げ、肺動脈圧を低下させます。肺の血流が改善すると、息切れや呼吸困難がやわらぎ、運動耐容能の向上にもつながるのです。また、病気の進行を遅らせ、より長生きできる可能性があります。

- 【薬理】

- サイクリックGMP(cGMP)は、血管平滑筋をゆるめ血管拡張をもたらす体内物質です。この薬には、サイクリックGMPを分解するホスホジエステラーゼ5(PDE5)という酵素をじゃまする作用があります。サイクリックGMPの分解が抑えられるぶん、その作用が増強し肺動脈の拡張につながるわけです。このような作用機序かホスホジエステラーゼ5阻害薬(PDE5阻害薬)と呼ばれています。

- 【臨床試験】

- この薬の有効性をプラセボ(にせ薬)と比較する臨床試験が行われています。有効性を評価するための主要評価項目は、服薬3カ月後の6分間歩行距離の平均変化量です。6分間歩行距離は運動耐容能を検査するために行なわれますが、将来的な生命予後とも相関があるのではと推察されています。
その結果、この薬を飲んでいた人達67人の3カ月後の6分間歩行距離の平均変化量は+41m(346→387m)、プラセボの人達66人では-4m(348→344m)でした。プラセボで4m減少したのに対し、この薬では明らかに増加し運動耐容能が向上できたわけです。さらに、副次的評価項目として平均肺動脈圧の改善効果も認められています。
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特徴 |
- ホスホジエステラーゼ5阻害薬(PDE5阻害薬)に分類される肺高血圧症治療薬です。肺高血圧症の発現機序とのひとつ一酸化窒素経路(NO-sGC-cGMP)に着目して開発されました。なお、同一成分のシルデナフィルは、勃起不全治療薬(バイアグラ)としても販売されています。
- この系統は、中等度からやや重い肺動脈性肺高血圧症(WHO機能分類クラスU〜V)に対して最も推奨度の高い治療薬として位置付けられます。単剤で効果不十分な場合は、作用機序が異なる別系統の薬剤(ERA、PGI2誘導体)と併用可能です。重症例においては、プロスタグランジン系のエポプロステノール(静注用フローラン)との併用効果が認められています。
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注意 |
 【診察で】
- 持病のある人は、医師に報告しておきましょう。
- 使用中の薬を、必ず医師に伝えてください。

- 【注意する人】

- 重い肝臓病のある人は使用できないことがあります。脳卒中や心筋梗塞を起こしてまもない人、出血しやすい病気のある人、肝臓や腎臓の悪い人などは慎重に用いる必要があります。
- 適さないケース..重い肝臓病
- 注意が必要なケース..脳卒中、心筋梗塞、出血性疾患、消化性潰瘍、肝臓病、腎臓病、低血圧、目の網膜の病気(網膜色素変性症)、高齢の人など

- 【飲み合わせ・食べ合わせ】

- 狭心症や心不全の治療に使う硝酸薬、いわゆる「ニトロ」と呼ばれる薬とは併用できません。併用により急激に血圧が下がることがあり、非常に危険です。硝酸薬には飲み薬のほか、貼り薬(テープ)や口内スプレー、注射剤などさまざまなタイプがありますので注意が必要です。また、肺高血圧症治療薬のうち同様の作用をもつsGC刺激薬(アデムパス)とは併用しません。ほかにも、抗真菌薬のイトラコナゾールや新型コロナの薬のニルマトレルビル・リトナビル、エイズの薬のリトナビルなど 併用できない薬がいくつかあります。
- 飲み合わせの悪い薬..ニトログリセリン(ニトロペン、その他)、硝酸イソソルビド(ニトロール、その他)、ニコランジル(シグマート)、ニプラジロール(ハイパジールコーワ)、リオシグアト(アデムパス)、イトラコナゾール(イトリゾール)、ニルマトレルビル・リトナビル(パキロビッ)、リトナビル(ノービア、カレトラ)、ダルナビル(プリジスタ、プレジコビックス)、コビシスタット(ゲンボイヤ、プレジコビックス)、リオシグアト(アデムパス)など。
- 飲み合わせに注意..α遮断薬(バソメット、ハルナール等)、シメチジン(タガメット)、エリスロマイシン(エリスロシン)、クラリスロマイシン(クラリス、クラリシッド)、リファンピシン(リファジン)、フェニトイン(アレビアチン、ヒダントール)、カルバマゼピン(テグレトール)、フェノバルビタール(フェノバール)、デキサメタゾン(デカドロン)、ボセンタン(トラクリア)、アミオダロン(アンカロン)、降圧薬など。
 【使用にあたり】
- 指示どおりに正しくお飲みください。通常、大人または体重20kgを超える子供は、1回に錠剤1錠またはフィルム剤1枚を1日3回服用します。コップ1杯ほどの水で飲んでください。
- フィルム剤は水なしでも飲めます。この場合、1枚を舌の上にのせ、唾液で溶かし、唾液とともに飲み込んでください。寝たまま飲んではいけません。
- 体重8kg以上20kg以下の子供にはシロップ剤を用います。粉末の状態でもらった場合は、説明書にならい規定量の水で溶いてください。よく振り混ぜてから、決められた1回量(1mLまたは2mL)を付属の注入器で正確にはかり服用します。服用後は、涼しい場所で保管し、溶解後30日以内に使用してください。
- 万一、急激に視力が落ちたり、急に耳が聞こえにくくなるようなことがあれば、すぐに受診してください。
 【食生活】
- 視野がかすんだり、物の色が異常に見えることがあります。また、めまいを起こすこともありますので、車の運転や高所での危険作業には十分注意してください。
- タバコは病状を悪化させますし、この薬の作用を弱めます。医師と相談のうえ、できるだけ禁煙してください。

- 【備考】

- 肺動脈性肺高血圧の発現機序としてエンドセリン(ET)経路、プロスタサイクリン(PGI2)経路、一酸化窒素(NO)経路の3つが重要な役割をしています。この3経路に対する薬剤として、それぞれエンドセリン受容体拮抗薬(ERA)、プロスタサイクリン薬(PGI2誘導体)、PDE5阻害薬(この薬)とsGC刺激薬が開発されています。病態や重症度から適切な薬剤を選び、単薬治療で効果不十分な場合は異なる系統を組み合わせる併用療法をおこないます。
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効能 |
肺動脈性肺高血圧症 |
用法 |
 【錠、ODフィルム】- <成人>

- 通常、成人はシルデナフィルとして1回20mgを1日3回経口服用する。
- <1歳以上の小児>

- 体重20kg超の場合:通常、シルデナフィルとして1回20mgを1日3回経口服用する。
 【懸濁用ドライシロップ】- <成人>

- 通常、シルデナフィルとして1回20mgを1日3回経口服用する。
<1歳以上の小児>- 体重8kg以上20kg以下の場合:通常、シルデナフィルとして1回10mgを1日3回経口服用する。
- 体重20kg超の場合:通常、シルデナフィルとして1回20mgを1日3回経口服用する。
※用法用量は症状により異なります。医師の指示を必ずお守りください。 |
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副作用 |
比較的多いのは、血管拡張作用にもとづく頭痛やほてり、潮紅、めまいなどです。また、消化不良や吐き気、下痢や腹痛などの胃腸症状もみられます。重症化することはまずありませんが、気になるときは医師とよく相談してください。少数例ながら「持続勃起症(プリアピズム)」が海外で発症しているようです。もし、勃起が4時間以上続くようでしたら、直ちに医師の診察を受けてください。
そのほか、特異な副作用として視覚異常があらわれることがあります。「青いめがねをしているよう」「青と緑の区別がつかない」「かすむ」「まぶしい」といった異常な見え方がするようです。多くは一過性ですが、自動車の運転や機械の操作には十分注意する必要があります。
さらに、著しい視力の低下をともなう非動脈炎性前部虚血性視神経症(NAION)のリスクも報告されています。万一、著しい視力の低下または視力喪失があらわれた場合には 速やかに眼科専門医の診察を受けてください。また、急激な聴力低下や突発性難聴(耳鳴り、めまいを伴うことがある)があらわれた場合には、直ちに耳鼻科を受診してください。
 【重い副作用】 ..めったにないですが、初期症状等に念のため注意ください
- 硝酸薬との併用による急激な血圧低下
- 持続勃起症(プリアピズム)..4時間以上痛みを伴う勃起が続く(すぐ受診)、陰茎組織損傷、勃起機能の喪失
 【その他】
- 頭痛、潮紅、ほてり、めまい、鼻づまり、鼻出血
- 消化不良、吐き気、嘔吐、下痢、腹痛
- 低血圧、動悸、頻脈
- 視覚異常、彩視症、光視症..視界が青くみえる、黄色くみえる、かすむ、まぶしい、キラキラした光が見える
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