概説 |
肺動脈性肺高血圧症のお薬です。 |
作用 | 
- 【働き】

- 肺動脈性肺高血圧症(PAH)は、心臓から肺に血液を送る肺動脈が狭くなり、肺動脈の血圧が高くなる病気です。肺動脈の血流悪化から、息切れ、呼吸困難、疲労、運動能力低下などがあらわれ、日常生活にも支障がでてきます。進行すると心不全を引き起こし、予後も好ましくありません。
このお薬は、プロスタグランジン系の肺高血圧症治療薬です。血管を広げ、また血管内で血液が固まるのを防ぎ血流をよくする作用があります。さらに、血管平滑筋の異常な増殖をおさえる働きもします。これらの作用により、肺動脈圧や肺血管抵抗が低下するとともに、息苦しさや疲労などの症状もやわらぎます。

- 【薬理】

- 有効成分のベラプロストは、体内に吸収されると、局所ホルモンの一種のプロスタサイクリン(プロスタグランジンI2:PGI2)と同様に作用します。すなわち、プロスタサイクリンの受容体(IP受容体)を刺激することで、血管拡張作用、抗血小板作用および血管平滑筋細胞増殖抑制作用を発揮するのです。このような作用機序から、IP受容体刺激薬またはIP受容体作動薬と呼ばれることがあります。

- 【臨床試験】

- この薬の有効性を評価するため、服薬3カ月後の6分間歩行距離を調べる試験がおこなわれています。参加したのは、肺動脈性肺高血圧症(原発性、膠原病性)の患者さん44人です。6分間歩行距離は運動耐容能の指標ですが、重症度や将来的な生命予後とも相関があるのではと推察されています。
その結果、3カ月後の6分間歩行距離の平均変化量は+33m(402→435m)と有意に延長しました。参加人数が少なく、またプラセボ(にせ薬)との比較試験ではないのですが、一定の有効性があるものと判断されました。
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特徴 |
- プロスタグランジンの仲間のプロスタサイクリン(PGI2)誘導体です。血管拡張作用と抗血小板作用の2作用を特徴とし、軽症例からやや重い肺動脈性肺高血圧症(WHO機能分類クラスT〜V)に広く適用可能です。血管拡張作用はそれほど強くないので、単剤で効果不十分な場合あるいは重症例においては別系統の薬剤(ERA、PDE5阻害薬、sGC刺激薬)と併用します。
- この系統の飲み薬として、世界初の徐放性製剤です。血中濃度の持続化、最高血中濃度の低減に成功しており、1日2回の服用で有効性が認められています。なお、一般錠(速放錠)のドルナーおよびプロサイリンと成分は同じですが、効能、用法・用量は少し違います。
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注意 |
 【診察で】
- 持病やアレルギーのある人は医師に伝えておきましょう。
- 妊娠中や、その可能性のある人は申し出てください。妊娠中は服用禁止です。
- 服用中の薬を医師に教えてください。
- 手術や抜歯の予定のある人は、事前に医師と相談しておきましょう。出血が止まりにくくなることがあります。

- 【注意する人】

- 血が止まりにくくなるので、出血をともなう病気のある人は使用できません。たとえば、血友病、消化管出血、尿路出血、喀血、眼底出血などです。また、女性の生理の出血が多くなる可能性があります。
- 適さないケース..出血をともなう病気、妊娠中
- 注意が必要なケース..出血しやすい病気、月経期間中、腎機能障害のある人など。

- 【飲み合わせ・食べ合わせ】

- ワルファリンやアスピリンなど他の抗血栓薬といっしょに飲むと、出血しやすくなるかもしれません。併用する場合は、用量に注意するなど慎重に用います。慢性動脈閉塞症の治療に用いるドルナーとプロサイリンは、この薬と同一成分であることに留意する必要があります。
- 飲み合わせに注意..ワルファリン(ワーファリン)やアスピリン(バイアスピリン、バファリン)、チクロピジン(パナルジン)、クロピドグレル(プラビックス)、ベラプロスト(ドルナー、プロサイリン)、ボセンタン(トラクリア)など。
 【使用にあたり】
- 少量より開始し、副作用に注意しながら、よい効果のでる量まで徐々に増やしていきます。服用量には個人差がありますので、指示された用法用量を守ってください。
- 徐放性製剤ですので、割ったり、砕いたりしないで、そのままかまずに多めの水で飲んでください。
- しばらく飲み続けても少しもよくならないときは、医師に相談してみましょう。別の治療法に変えたほうがよいかもしれません。
 【食生活】
- タバコは病状を悪化させますし、この薬の作用を弱めます。医師と相談のうえ、できるだけ禁煙してください。
- 車の運転をふくめ危険をともなう機械の操作、高所作業のさいは注意が必要です。まれなケースですが、意識障害を起こすおそれがあるためです。

- 【備考】

- 肺動脈性肺高血圧の発現機序としてエンドセリン(ET)経路、プロスタサイクリン(PGI2)経路、一酸化窒素(NO)経路の3つが重要な役割をしています。この3経路に対する薬剤として、それぞれエンドセリン受容体拮抗薬(この薬)、プロスタサイクリン薬(この薬)、PDE5阻害薬とsGC刺激薬が開発されています。病態や重症度から適切な薬剤を選び、単薬治療で効果不十分な場合は異なる系統を組み合わせる併用療法をおこないます。
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効能 |
肺動脈性肺高血圧症 |
用法 |
通常、成人は、ベラプロストナトリウムとして1日120μgを2回に分けて朝夕食後に経口服用することから開始し、症状(副作用)を十分観察しながら漸次増量する。なお、用量は患者の症状、忍容性などに応じ適宜増減するが、最大1日360μgまでとし、2回に分けて朝夕食後に経口服用する。
※用法用量は症状により異なります。医師の指示を必ずお守りください。 |
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副作用 |
顔が赤くほてったり、頭痛や動悸を起こすことがあります。これは、この薬の血管拡張作用にもとづくものです。下痢や腹痛、吐き気など消化器症状も比較的多くみられます。つらいときは早めに受診して医師と相談しましょう。
もしも、皮下出血や歯ぐきの出血など出血傾向がみられたら、すぐに医師と連絡をとってください。重症化することはまれですが、消化管出血や脳出血など重篤な出血を起こす危険性がまったくないともいえません。
そのほか、重い副作用として狭心症や肝障害、間質性肺炎などが報告されています。これらの発現頻度もきわめてまれですが、下記のような初期症状の発現に念のため注意が必要です。
 【重い副作用】 ..めったにないですが、初期症状等に念のため注意ください
- 重い出血(消化管出血、肺出血、脳出血、眼底出血)..出血傾向、血便(赤〜黒い便)、吐血、血痰、息苦しい、頭痛、めまい、しびれ、うまく話せない。
- ショック、失神、意識消失..気持ち悪い、冷汗、顔面蒼白、手足の冷え・しびれ、耳鳴り、息苦しい、脈が速い・弱い、血圧低下、目の前が暗くなり意識が薄れる、気を失う。
- 狭心症、心筋梗塞..胸の痛み・違和感・圧迫感、冷汗、締め付けられるような胸の痛み。
- 肝臓の重い症状..だるい、食欲不振、吐き気、発熱、発疹、かゆみ、皮膚や白目が黄色くなる、尿が茶褐色。
- 間質性肺炎..から咳、息苦しさ、少し動くと息切れ、発熱。
 【その他】
- 潮紅、ほてり、動悸、血圧低下
- 頭痛、ふらつき、めまい
- 下痢、腹痛、吐き気、嘔吐
- 歯ぐきの出血、鼻血、皮下出血(青あざ)、血尿、生理の出血が多い
- 発疹、かゆみ
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