概説 |
血圧を下げ、心臓を守るお薬です。高血圧症や慢性心不全に用います。 |
作用 | 
- 【働き】

- おもに腎臓に作用し、体の余分な塩分(ナトリウム)を水分とともに尿中に排出します。その結果、むくみがとれ血圧が下がります。血圧を適切に保てば、将来起こるかもしれない脳卒中や心臓病、腎臓病を防ぐことにつながります。
血圧降下作用に加え、心臓を守る作用もします。このため、心臓の働きが弱っている“慢性心不全”にもたいへん有用です。実際、標準的な心不全療法にこの薬を追加すると、予後が改善されるという研究結果が得られています。

- 【薬理】

- ホルモンの一種“アルドステロン”の働きをおさえます。アルドステロンは体の塩分(ナトリウム)や水分の調整役をしているのですが、働きすぎると塩分が体にたまり、浮腫や血圧上昇を招きます。さらに、心臓や血管などの臓器障害にも関与し、心不全の発症や悪化要因になります。
この薬は、アルドステロンの作用起点であるミネラルコルチコイド受容体への結合を阻害し、アルドステロンの働きを抑制します。結果的に、浮腫(むくみ)が改善し、血圧が下がるのです。くわえて、臓器保護作用をもつとされ、心臓や血管の線維化、心肥大、腎障害などの進展をおさえることができます。

- 【臨床試験-1】

- 降圧効果について、別系統(ACE阻害薬)のエナラプリル(レニベース)と比較する試験が行われています。参加したのは本態性高血圧症の患者さん約500人で、どちらを飲むかはクジ引きで半々に分かれるようにします。効果判定の主要評価項目は、服薬6ヶ月後の下の血圧(拡張期血圧)の変化量です。
その結果、この薬を飲んでいた人達の下の血圧は服薬前に比べ平均11.2mmHg下がりました。一方、エナラプリルの人達は11.3mmHg下がりました。標準的な血圧降下薬のエナラプリルに劣ることなく同等の降圧効果があることが確かめられたのです。さらに、低レニン性高血圧症を対象としたロサルタン(ニューロタン)との比較試験、収縮期高血圧症を対象としたアムロジピン(ノルバスク)との比較試験においても、同様の有効性が示されています。

- 【臨床試験-2】

- 慢性心不全に対する効果をプラセボ(にせ薬)と比較する試験が海外でおこなわれています。参加したのは、慢性収縮不全型心不全(クラスU)があり、ACE阻害薬などによる標準治療を受けている患者さん約2700人。そして、この薬を飲む人とプラセボを飲む人に分かれ、治療中に起きる心筋梗塞や脳卒中による「心血管死」、または「心不全による入院」の発現率を比較するのです。
その結果、この薬を飲んでいた人達の「心血管死または心不全による入院」の発現率は18.3%(249/1364人)、プラセボの人達で25.9%(356/1373人)でした。この薬のほうがプラセボより4割くらい少なく、慢性心不全に対する有効性が確かめられたわけです。なお、小規模ながら日本人221人による検証試験でも、同傾向の結果が得られています。
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特徴 |
- 非ステロイド型のミネラルコルチコイド受容体拮抗薬です。略してMR拮抗薬。アルドステロンの働きを阻害することからアルドステロン阻害薬とか抗アルドステロン薬と呼ばれることもあります。既存のカリウム保持性利尿薬のスピロノラクトン(アルダクトンA)の誘導体であり、作用的にもほぼ同じです。同効薬(MR拮抗薬)として、ほかにもエサキセレノン(ミネブロ)があります。
- 旧来のスピロノラクトンとの違いは、受容体選択性が高いという点です。ミネラルコルチコイド受容体にだけ選択的に結合するので、他のホルモン系受容体への影響がなく、内分泌系・性腺系の副作用(女性化乳房、月経異常、勃起不全)がみられません。このような特性から、選択的MR拮抗薬とされます。
- MR拮抗薬の慢性心不全に対する有効性はいくつかの大規模試験で証明されています(RALES、EPHESUS、EMPHASIS-HF)。基礎心疾患の種類によらず、軽症から重症の慢性心不全に広く適用可能です。アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)やアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)など従来からの標準治療薬との併用が推奨されます。
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注意 |
 【診察で】
- 持病やアレルギーのある人は、医師に伝えておきましょう。
- 服用中の薬を医師に教えてください。

- 【注意する人】

- 高カリウム血症のある人は避けなければなりません。腎臓や肝臓が悪いと高カリウム血症を起こしやすいので、病状によっては使用できません。
- 適さないケース..高カリウム血症、重い腎臓病、重い肝臓病、アルブミン尿または蛋白尿を伴う糖尿病の人など。
- 注意が必要なケース..腎臓病、肝臓病、高齢の人など。

- 【飲み合わせ・食べ合わせ】

- 飲み合わせに注意する薬がたくさんあります。飲み合わせによっては、高カリウム血症の副作用がでやすくなります。使用中の薬は、市販薬をふくめ必ず医師に報告しましょう。
- 同類の利尿薬であるスピロノラクトン(アルダクトンA)やトリアムテレン(トリテレン)、あるいはエサキセレノン(ミネブロ)とは併用できません。また、この薬の血中濃度を著しく上昇させる抗真菌薬のイトラコナゾール(イトリゾール)、抗エイズウイルス薬のリトナビル含有製剤(ノービア、カレトラ)、さらには抗コロナウイルス薬のニルマトレルビル・リトナビル(パキロビッド)やエンシトレルビル(ゾコーバ)も併用禁止です。
- 高血圧症で用いる場合、カリウム製剤との併用は避けます。慢性心不全においても、慎重に使用しなければなりません。よく使用されるカリウム製剤にグルコンサンKやアスパラなどがあります。
- 併用のさい、高カリウム血症に注意が必要なのが、アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)とアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)です。配合剤をふくめ多種多様な製剤がこれに当たります。代表的なのが、カプトリル、レニベース、アデカット、タナトリル、コナン、エースコール、コバシル、ゼストリル、ロンゲス、ブロプレス、ディオバン、ニューロタン、オルメテック、ミカルディス、イルベタン、アバプロ、アジルバ、プレミネント、エカード、コディオ、ミコンビ、イルトラ、ユニシア、エックスフォージ、ミカムロ、アイミクス、レザルタス、アテディオ、ザクラス、ミカトリオなどです。
- ほかにもカリウム貯留作用をもつ薬剤として、降圧薬のアリスキレン(ラジレス)、腎臓病治療薬のフィネレノン(ケレンディア)、免疫抑制薬のシクロスポリン(サンディミュン、ネオーラル)やタクロリムス(プログラフ)、月経困難症治療薬のドロスピレノン(ヤーズ)などがあります。併用する場合は、高カリウム血症に注意が必要です。
- この薬の血中濃度を上昇させる薬剤(CYP3A4阻害薬)として、マクロライド系抗生物質のクラリスロマイシン(クラリス、クラリシッド)とエリスロマイシン(エリスロシン)、アゾール系抗真菌薬のフルコナゾール(ジフルカン)、ボリコナゾール(ブイフェンド)、高血圧・狭心症・不整脈治療薬のベラパミル(ワソラン)、C型慢性肝炎治療薬のテラプレビル(テラビック)、抗エイズウイルス薬のうちのプロテアーゼ阻害薬(レイアタッツ、プリジスタ、レクシヴァ、スタリビルド)などがあります。併用する場合、この薬の服用量を1日1回25mgを超えないようにします。
- 逆に、血中濃度を低下させる薬剤に、結核・抗酸菌症治療薬のリファンピシン(リファジン)とリファブチン(ミコブティン)、抗けいれん薬のフェノバルビタール(フェノバール)やフェニトイン(アレビアチン、ヒダントール)、カルバマゼピン(テグレトール)、ステロイド薬のデキサメタゾン(デカドロン、レナデックス)などがあります。薬ではありませんが、健康食品のセイヨウオトギリソウ(セント・ジョーンズ・ワート)にも同様の性質があります。これらとの併用はできるだけ避け、相互作用のより少ない薬剤への代替を考慮します。
- 抗炎症・鎮痛薬(ボルタレン、ロキソニン等)は、この薬の効果を減弱したり、副作用を強めるおそれがあります。
- 気分安定薬のリチウム(リーマス)と併用する場合は、リチウム中毒の発現に注意が必要です。
- 飲酒は控えてください。頭痛、めまいや立ちくらみが起きやすくなります。
 【使用にあたり】
- 症状や体質により、用法・用量が違います。腎臓が悪い人や高齢の人は、少な目になることがあります。また、血清カリウム値の検査結果によっては、用法・用量の調節が必要です。必ず医師の指示どおりにしてください。
- 飲み忘れた場合、その日のうちなら 、すぐにその分を飲んでください。翌日に気づき次に飲む時間が近い場合は、忘れた分は抜かし、次の通常の時間に1回分を飲んでください。腎機能障害で隔日服用の場合は、1日間隔をあけてください。決して2回分を一度に飲んではいけません。
- 他の降圧薬や利尿薬と併用することが多いです。降圧薬としては、アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)、アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)、β遮断薬、カルシウム拮抗薬などがあげられます。また、利尿薬としてサイアザイド系またはループ系利尿薬と併用することが多いです。

- 【検査】

- 定期的に検査を受けてください。血液中の電解質をはじめ、腎臓や肝臓に異常がないか調べます。とくに重要なのが血清カリウム値です。
 【食生活】
- 飲みはじめに、めまいや立ちくらみを起こしやすいです。急に立ち上がらないで、ゆっくり動作しましょう。また、車の運転や高所作業には十分注意してください。
- 健康食品やハーブティーとして販売されているセイヨウオトギリソウ(セント・ジョーンズ・ワート)の飲食はしないでください。この薬の効果が減弱するおそれがあるからです。
- 本態性高血圧症では、生活習慣の見直しも大切。減塩などの食事療法、運動療法、肥満があれば体重を落とすだけでも血圧が下がるものです。軽い高血圧であれば、薬をやめられることもあります。できたら簡易血圧計で自宅で血圧測定をおこない、適切に血圧がコントロールされているかチェックすることをおすすめします。
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効能 |

- 【効能A(錠25mg・50mg・100mg)】

- 高血圧症

- 【効能B(錠25mg・50mg)】

- 下記の状態で、アンジオテンシン変換酵素阻害薬又はアンジオテンシンII受容体拮抗薬、β遮断薬、利尿薬等の基礎治療を受けている患者
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用法 |

- 【効能A】

- 通常、成人はエプレレノンとして1日1回50mgから服用を開始し、効果不十分な場合は100mgまで増量することができる。
- [注意1]CYP3A4阻害薬と併用する場合には、本剤の服用量は1日1回25mgを超えないこと。
- [注意2]本剤の服用中に血清カリウム値が5.0mEq/Lを超えた場合には減量を考慮し、5.5mEq/Lを超えた場合は減量ないし中止し、6.0mEq/L以上の場合には直ちに中止すること。

- 【効能B】

- 通常、成人はエプレレノンとして1日1回25mgから服用を開始し、血清カリウム値、患者の状態に応じて、服用開始から4週間以降を目安に1日1回50mgへ増量する。ただし、中等度の腎機能障害のある患者では、1日1回隔日25mgから服用を開始し、最大用量は1日1回25mgとする。なお、血清カリウム値、患者の状態に応じて適宜減量又は中断する。
- [注意1]CYP3A4阻害薬と併用する場合には、本剤の服用量は1日1回25mgを超えないこと。
- [注意2]中等度の腎機能障害(クレアチニンクリアランス30mL/分以上50mL/分未満)のある患者においては、1日1回隔日25mgから投与を開始し、血清カリウム値、患者の状態に応じて、投与開始から4週間以降を目安に1日1回25mgへ増量する。なお、最大用量は1日1回25mgとすること。
- [注意3]定期的に血清カリウム測定を行い、下記に従って用法・用量を調節すること(詳細省略)。
※用法用量は症状により異なります。医師の指示を必ずお守りください。 |
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副作用 |
高カリウム血症になることがあります。血液のカリウム分が多すぎる状態です。ひどくなると、精神変調をきたしたり、不整脈を起こします。予防のため、定期的に血液検査を受けることが大事です。そうすれば安心です。
そのほか、人によっては、頭痛やめまい、吐き気、頻尿、疲労感などがあらわれます。多くは降圧作用に基づくもので重症化することはまずありませんが、つらいときは医師とよく相談してください。
 【重い副作用】 ..めったにないですが、初期症状等に念のため注意ください
- 高カリウム血症..だるい、手や唇のしびれ、脱力、吐き気、下痢、息切れ、脈拍低下、脈の乱れ、不安感、取り乱す、けいれん。
 【その他】
- 頭痛、めまい、だるい、血圧低下
- 吐き気、消化不良
- 頻尿、多尿
- 筋肉のけいれん、発疹
- 肝機能値異常、腎機能低下
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