概説 |
認知症を軽くするお薬です。アルツハイマー型認知症の治療に用います。 |
作用 | 
- 【働き】

- アルツハイマー病がすすむと、脳内のグルタミン酸という神経伝達物質が過剰となり、記憶に関係する神経の働きが悪くなってきます。そのため、物忘れがひどくなり、思考力や判断力が低下してきます。比較的ゆっくり進行しますが、病状がすすむと仕事や日常生活にも大きな支障がでてくるものです。
このお薬は、アルツハイマー病に有効な抗認知症薬です。おもな作用は、過剰なグルタミン酸をおさえ、グルタミン酸による悪影響から神経を守ることです。そして、グルタミン酸神経系の機能異常が改善され、アルツハイマー型認知症の諸症状が軽くなります。認知機能をよくするだけでなく、アルツハイマー病にともなう行動異常や心理症状にもよい影響をもたらします。このため、病気がすすんだやや重いアルツハイマー型認知症にとくに役立ちます。

- 【薬理】

- アルツハイマー型認知症の病因の一つとして、グルタミン酸神経系の機能異常があげられます。興奮性の神経伝達物質であるグルタミン酸濃度が異常に上昇し、グルタミン酸受容体のサブタイプであるNMDA受容体チャネルが過剰に活性化、神経細胞に障害をもたらしてしまうのです。さらに、無用な電気シグナルが持続的に発生し、記憶を形成する神経伝達シグナルを隠してしまうことも、記憶障害の要因です。
メマンチン(この薬)は、そのNMDA受容体を選択的に拮抗し、過剰なグルタミン酸による神経障害を防ぎます。そして、記憶をじゃまする持続的電気シグナルを減少させることで、記憶の定着を助けます。このような作用メカニズムから、NMDA(N-メチル-D-アスパラギン酸)受容体拮抗薬と呼ばれています。

- 【臨床試験】

- 重めのアルツハイマー型認知症の患者さん432人を2つのグループに分け、この薬と、プラセボ(似せ薬)の効果を比較する臨床試験が行われています。本当に、プラセボを上回る効果があるのかを確かめるのが目的です。効果の判定は、6ヶ月後の認知機能と全般的臨床症状の2つの評価でおこないます。認知機能は、患者さんと面接して、記憶や思考力などを多面的にチェックするもので、正常を100点とします。後者の全般的臨床症状は、日常生活や精神症状を含めた病状の変化を付き添いの方の評価をくわえ7段階で判定します。こちらは、点数が低いほど改善、高いほど悪化を意味します。
6ヶ月後の認知機能の試験結果は、この薬を飲んでいた人達の平均点数が約71点(服用前72点)、プラセボを飲んでいた人達が65点(服用前70点)でした。この薬を飲んでいた人達のほうが、点数の変化が少なく、病状がある程度おさえられることが証明できたわけです。一方、実生活にそくした全般的臨床症状は、この薬で4.5、プラセボで4.6とほとんど変わらず、残念ながら有効性を確かめることができませんでした。ちなみに、全般的臨床症状においては、デイケア・デイサービスが、この薬を上回るほどのよい影響をおよぼす可能性が示されています。
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特徴 |
- 世界で唯一のグルタミン酸NMDA受容体拮抗薬。従来からの認知症治療薬ドネペジル(アリセプト)とは効き方が違います。海外でも、単独もしくは、併用療法して標準的に用いられています。ドネペジルに追加・併用することで、多少のプラス効果が期待できそうです。
- どちらかというと重い認知症に向きます。逆に、軽い認知症には有用性が低いことが いくつかの臨床試験で示されています。もう一つ特徴的なのは、認知機能を改善するだけでなく、怒りっぽい、興奮、攻撃的、徘徊といった周辺症状の軽減効果が認められている点です。ただし、他の認知症治療薬と同様、実生活で目にみえるほどの効果はあまり期待できないかもしれません。また、病気そのものの進行を止めることもできません。
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注意 |
 【診察で】
- 持病のある人やアレルギーのある人は医師に伝えておきましょう。
- 別の薬を使用している場合は、その薬を医師に教えてください。

- 【注意する人】

- 腎臓の悪い人は、薬の排泄が遅れがちです。用量に注意するなど慎重に用いるようにします。
- 注意が必要なケース..腎臓病、重い肝臓病、てんかんのある人など。

- 【飲み合わせ・食べ合わせ】

- パーキンソン病に用いるレボドパ製剤の作用を強める可能性があります。市販薬を含め使用中の薬を医師に報告しておきましょう。
- 飲み合わせに注意..レボドパ製剤(ドパゾール、ドパストン、メネシット、ネオドパストン、イーシー・ドパール、マドパー、ネオドパゾール)、ヒドロクロロチアジド(プレミネント、エカード、 ミコンビ)、シメチジン(タガメット)、アマンタジン(シンメトレル)、デキストロメトルファン(メジコン)など。
 【使用にあたり】
- 飲み忘れや飲み間違いがないように、ご家族あるいは付き添いの方の管理のもとで服用してください。寝たままではなく、できるだけ体を起こして飲みましょう。
- 通常、1日1回朝食後に服用します。少量(1日5mg)で開始し、1週間毎に漸増、4週間後に維持量(1日20mg)とします。腎臓の悪い人は、少なめになることがあります。
- 嚥下障害のある患者さんに、OD錠(口腔内崩壊錠)やドライシロップが処方されることがあります。OD錠は、舌の上にのせて唾液により崩壊しますので、水なしでも飲めます。ただし、口の粘膜からは吸収されませんので、唾液もしくは水で確実に飲み込んでください。ドライシロップは、服用直前に水に懸濁し速やかに服用するか、粉末のまま水とともに服用ください。

- 【食生活】

- 眠気やめまいを起こすことがあります。車の運転や危険をともなう機械の操作、高所での作業は避けてください。
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効能 |
中等度及び高度アルツハイマー型認知症における認知症症状の進行抑制 |
用法 |

- 【錠】

- 通常、成人はメマンチン塩酸塩として1日1回5mgから開始し、1週間に5mgずつ増量し、維持量として1日1回20mgを経口服用する。

- 【ドライシロップシロップ】

- 通常、成人はメマンチン塩酸塩として1日1回5mgから開始し、1週間に5mgずつ増量し、維持量として1日1回20mgを経口服用する。
※用法用量は症状により異なります。医師の指示を必ずお守りください。 |
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副作用 |
副作用で一番多いのは‘めまい’です。とくに飲み始めに多くみられます。転倒につながるおそれがありますから、十分に注意してください。そのほか、人によっては頭痛や眠気をもよおしたり、便秘や食欲不振を生じることがあります。
重いものは少ないですが、まれな副作用として、けいれんが報告されています。てんかんなど、けいれん性の病気のある人は、注意が必要かもしれません。ご家族や介護にあたる人は、下記のような症状をふまえ、患者さんの様子を注意深く見守るようにしましょう。
 【重い副作用】 ..めったにないですが、初期症状等に念のため注意ください
- けいれん..筋肉のぴくつき、ふるえ、白目、硬直、全身けいれん、意識低下・消失。
- 失神、意識消失..気を失う、もうろう状態
- 精神症状..激しく興奮、攻撃的な行動、誤った思い込み、取り乱す
- 肝臓の障害..だるい、食欲不振、吐き気、発熱、発疹、かゆみ、皮膚や白目が黄色くなる、尿が茶褐色。
- 横紋筋融解症..手足のしびれ・こわばり、脱力、筋力低下、筋肉痛、歩行困難、赤褐色の尿。
- 房室ブロック、徐脈性不整脈..動悸、脈が飛ぶ、脈が1分間50以下、疲れやすい、めまい、ふらつき、転倒、息切れ、血圧低下、気が遠くなる、失神。
 【その他】
- めまい、ふらつき、転倒
- 頭痛、眠気、眠りがち
- 体重減少
- 便秘、食欲不振
- 肝機能異常、血圧上昇
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