概説 |
心の不具合を調整し、気持ちをおだやかにするお薬です。心の病気の治療に用います。 |
作用 | 
- 【働き-1】

- 気持ちの高ぶりや不安感をしずめるほか、停滞した心身の活動を改善する作用があります。そのような作用から、統合失調症にかぎらず、強い不安感や緊張感、抑うつ、そう状態などいろいろな精神症状に応用することがあります。

- 【働き-2】

- 心の病気の一つ「統合失調症」は、脳の情報伝達系の調子が悪くなる病気です。現実を正しく認識できなくなったり、思考や感情のコントロールが上手にできなくなります。幻聴や幻視、妄想を生じることも多いです。
このお薬は、そのような脳内の情報伝達系の混乱を改善します。おもな作用は、ドーパミンとセロトニンという2つの神経伝達物質をおさえることです。2つをおさえることで、統合失調症の陽性症状(幻覚、妄想、興奮)と陰性症状(無感情、意欲低下、自閉)の両方によい効果を発揮します。
統合失調症は それほどめずらしくなく、100人に1人くらいかかる一般的な病気です。特別視することはありません。この薬をはじめ、よい薬がいろいろとあります。薬物療法を中心に きちんと治療を続ければ、普通の社会生活が送れます。

- 【薬理】

- 脳内のドパミン2(D2)受容体を遮断することで、ドーパミン神経系の機能亢進により起こる陽性症状をおさえます。また、セロトニン2(5-HT2A)受容体を遮断することで、ドーパミン神経系の働きがよくなり、陰性症状が改善します。逆に、セロトニン1(5-HT1A)受容体に対しては刺激的に作用し、陰性症状、認知機能、うつ・不安症状の改善にかかわると推測されています。そのほかにも、いろいろな受容体に作用することから、多受容体作動薬(MARTA:Multiacting Receptor Targeted Antipsychotic)に分類されることがあります。

- 【臨床試験】

- この薬の効果をプラセボ(にせ薬)と比較する試験が行われています。参加したのは、急性増悪期の統合失調症の患者さん525人です。そして、3つのグループに分かれ、第1のグループは低用量(10mg/日)を服用、第2のグループは高用量(20mg/日)を、第3のグループはプラセボを服用します。ここで大事なのは、グループ分けはくじ引きでおこない、薬の中身を患者さんにも医師にも伝えないことです(プラセボ対照無作為化二重盲検並行群間比較試験)。
効果の判定は、統合失調症の病状を点数化(陽性陰性症状評価尺度:PANSS)しておこないます。具体的には、陽性症状10項目、陰性症状10項目、総合精神病理(心気症、不安、 緊張、抑うつ 、病識等)10項目、合計30項目について各項目を7段階(1:なし〜7:最重度)で評価し、その合計点(30〜210)の変化量を比較するのです。ちなみに試験に参加した患者さんの服薬前の合計点の平均は94点くらいでした。
6週間舌下服用した結果、この薬を低用量使用した人達は平均12.4点低下(94.2点→81.8点)、高用量の人達は14.2点低下(92.8点→78.6点)、プラセボの人達は1.1点低下(94.5点→93.4点)しました。プラセボの人達の点数はほとんど変わらなかったのに対し、この薬の人達は明らかに低下したことから、統合失調症に対する有効性が確かめられたわけです。
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特徴 |
- 抗ドーパミン作用と抗セロトニン作用をあわせもつ新しいタイプの非定型抗精神病薬(第2世代抗精神病薬)です。抗ドーパミン作用を主とする旧来の定型抗精神病薬が陽性症状をターゲットとするのに対し、この薬は陽性症状と陰性症状の両方に有効です。
- 5-HT1A受容体に刺激作用をもつなど、一般的な非定型抗精神病薬と受容体結合性が違うところがあります。この特性により、陽性症状・陰性症状にくわえ、認知機能、随伴症状の不安やうつに対する効果も期待できます。また、錐体外路障害、高プロラクチン血症、体重増加などの副作用が軽減されます。糖尿病がある人も注意深く用いることができます。
- 開始用量が推奨用量と同一なので、漸増の必要がありません。治療早期から有効用量を服用できるわけです。口粘膜から速やかに吸収される速崩性の舌下錠になります。
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注意 |
 【診察で】
- 持病やアレルギーのある人は医師に伝えておきましょう。
- 副作用について、ご本人、できたらご家族も含め、よく説明を受けておきましょう。
 【注意する人】
- 肝臓病のある人は薬の代謝が遅れ血中濃度が上がりやすいです。このため、肝機能の程度により使用できないことがあります。
- 糖尿病のある人は、血糖値の上昇に注意するなど、慎重に用いなければなりません。糖尿病の既往歴や家族歴、高血糖や肥満などで糖尿病発症リスクの高い人も要注意です。
- パーキンソン病やてんかん、不整脈、低血圧、肝臓病、栄養状態が悪く体が弱っている人は副作用の発現や病状の悪化に注意が必要です。また、自分のいのちを絶ちたいという思いが強い人も、慎重に使用しなければなりません。
- 寝たきり、または手術後などで長時間体を動かせない人、脱水状態の人、あるいは肥満のある人は血栓塞栓症の発現に念のため注意が必要です。
- 高齢の人は副作用の発現に注意するなど慎重に用います。また、認知症関連の精神症状に対する適応外使用例において、死亡率が1.6〜1.7倍高かったという研究報告があります。認知症における安易な使用は控えるべきでしょう。

- 【飲み合わせ・食べ合わせ】

- 他の安定剤など脳の神経をしずめる薬と併用すると、作用が強くなりすぎるかもしれません。逆に、パーキンソン病の薬では、お互いの作用が弱まることがあります。降圧薬と併用する場合は、めまいや立ちくらみに注意が必要です。また、抗コリン作用のある薬と併用すると、抗コリン性の副作用がでやすくなります。
- 飲み合わせの悪い薬..アドレナリン(ボスミン)(アナフィラキシー救急治、歯科領域の浸潤・伝達麻酔は除く)。
- 飲み合わせに注意..安定剤、降圧薬、抗パーキンソン病薬(レボドパ製剤等)、抗コリン作用薬(鎮痙薬、三環系抗うつ薬等)、一部の抗うつ薬(ルボックス、デプロメール、パキシル)、アルコールなど。
 【使用にあたり】
- 用法・用量は医師の指示どおりにしてください。通常、1日2回、1回に1錠(5mg)を舌下服用します。
- 舌下錠です。水なしで、舌の下に入れて溶かしてください。舌下粘膜から吸収されますから、飲み込んではいけません。また、舌下服用後10分間は、歯みがき、うがい、飲食を避けてください。
- 吸湿性でもろい錠剤です。使用直前に乾いた手で取り出してください。また、シートから取り出す際は、裏面のシートを剥がしたあと、錠剤をつぶさないように、そっとつまみ出してください。シートから無理に押し出すと割れしまうことがあります。
- もし、欠けや割れが生じた場合は全量を舌下に入れてください。
- 忘れた場合、気付いたときに すぐ舌下服用してください。ただし、次の服用時間が近い場合は、1回分は抜かし次の通常の時間に1回分を使用してください。2回分を一度に使用してはいけません。
- すぐに効果がでなくても、決められた期間、きちんと続けることが大切です。急に中止すると反動で具合が悪くなることがあります。自分だけの判断で、急に中止したり、量を変えてはいけません。
- のどが異常に渇き、水をガブ飲みしてしまうときは、すぐに受診してください。血糖値が高くなっているかもしれません。
- 脱力感、けん怠感、冷や汗、ふるえ、眠気、もうろうとするなどの症状に注意してください。血糖値が下がっているかもしれません。

- 【検査】

- 血糖値の測定をおこなうことがあります。
 【食生活】
- アルコールといっしょに使用すると、眠気やふらつき、立ちくらみなど、いろいろな副作用がでやすくなります。飲酒はできるだけ控えましょう。
- とくに使用初期に起立性低血圧(立ちくらみ)を起こしやすいです。急に立ち上がらないで、ゆっくり動作するようにしましょう。
- 眠気がしたり、注意力や反射運動能力が低下することがあります。車の運転など危険を伴う機械の操作、高所での危険な作業は避けましょう。
- 口が乾いて不快なときは、冷たい水で口をすすいだり、小さな氷を口に含むとよいでしょう。
- 体重が増えてきたら、食生活を見直してください。食べすぎに注意し、適度な運動を心がけましょう。
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効能 |
統合失調症 |
用法 |
通常、成人はアセナピンとして1回5mgを1日2回舌下服用から服用を開始する。維持用量は1回5mgを1日2回とし、年齢、症状に応じ適宜増減するが、最高用量は1回10mgを1日2回までとする。
※用法用量は症状により異なります。医師の指示を必ずお守りください。 |
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副作用 |
比較的多いのは、眠気、傾眠、めまい、便秘、吐き気、体重増加、口の感覚鈍麻などです。とくに飲み始めの強いめまいや立ちくらみには十分注意してください。女性では、高プロラクチン血症にともなう生理不順や乳汁分泌がまれにあらわれます。
従来の定型抗精神病薬に比べ、錐体外路系の副作用(下記)は少なのですが、それなりには起こります。手足のふるえ、こわばり、動作が遅い、じっとできないといったパーキンソン病のような症状です。また、長期服用時は「遅発性ジスキネジア」にも注意が必要です。
そのほか、血糖値の変動による昏睡や意識障害の報告があります。高血糖のサインとして、のどが異常に渇く、多飲、多尿、頻尿などがあげられます。逆に低血糖を起こすと、脱力感やけん怠感、冷や汗、ふるえ、眠気などがあらわれます。どちらの場合も、すぐに受診してください。もともと血糖値が高めの人や太りぎみの人は、定期的に血糖値の検査を受けましょう。
めったにありませんが、抗精神病薬には「悪性症候群」という注意を要する副作用があります。急に高熱がでて、体がこわばり動きが悪くなったら、すぐに医師に連絡してください。とくに、高齢の人、体の弱っている人、薬の量を増やしたときなどに出現しやすいものです。ご家族や周囲の方も注意してください。
 【重い副作用】 ..めったにないですが、初期症状等に念のため注意ください
- 悪性症候群(Syndrome malin)..動かず黙り込む、体の硬直、飲み込めない、急激な体温上昇、発汗、頻脈、ふるえ、精神変調、意識障害。
- 遅発性ジスキネジア..頻回なまばたき、口の周辺がピクピクけいれん、口をすぼめる、口をモグモグさせる、舌のふるえ。
- 高血糖、糖尿病性昏睡..異常にのどが渇く、多飲、多尿、食欲亢進、多食、脱力感、もうろう、意識がうすれる。
- 低血糖..脱力感、ふるえ、さむけ、動悸、冷や汗、強い空腹感、頭痛、不安感、吐き気、目のちらつき、イライラ、眠気、ぼんやり、異常な言動、けいれん、昏睡(意識がなくなる)。
- 横紋筋融解症..手足のしびれ・こわばり、脱力、筋力低下、筋肉痛、歩行困難、赤褐色の尿。
- 無顆粒球症、白血球減少..発熱、のどの痛み、口内炎、咳、痰、だるい。
- 静脈血栓症、肺塞栓症..手足(特にふくらはぎ)の痛み・はれ・むくみ・しびれ、爪の色が紫、突然の息切れ・息苦しい、深呼吸で胸が痛い、急な視力低下、視野が欠ける、目が痛む。
- けいれん..めまい、頭痛、ふるえ、手足のしびれ感、筋肉のぴくつき、意識低下、全身けいれん。
- 麻痺性イレウス..食欲不振、吐き気、吐く、激しい腹痛、ひどい便秘、お腹がふくれる。
 【その他】
- 錐体外路症状..指や手足のふるえ、体のこわばり・つっぱり、ひきつけ、体が勝手に動く、じっとできない、そわそわ感、動作がにぶい、無表情、よだれが多い、目の異常運動(正面を向かない、上転)、舌のもつれ、うまく歩けない。
- 眠気、傾眠、頭痛
- めまい、立ちくらみ、低血圧
- 便秘、吐き気、嘔吐
- 体重増加または減少
- 高プロラクチン血症、生理不順、乳汁分泌
- 口の感覚鈍麻、口内不快感、味覚異常
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